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「なぁにぃ!? 無い!?」


 俺と水島は五時間目と六時間目の間の休み時間に、A組の中野達典のもとを訪れていた。

 中野の予想外の返答に、俺は動揺を隠せないでいた。


「服だけ溶かす薬品を作るあんただ、てっきりチンコ巨大化薬くらい作ってるもんだと思ってたぜ」


「たとえ作っていたとしても、そんなダサい名前は付けん」


 そんなにダサいかね?

 と思っていると、横の水島は笑っている。名前は中身が分かれば良いんだよ!


「だが、それだけの科学力を持っていて、どうしてチンコをデッカくしようと思わなかったんだ?」


「当たり前のように、誰でもチンコをデカくしたがってると思ってるんだな」


 水島から茶々が入る。


 まあ、もっとも、いくらマセガキでも九歳児では、チンコの大きさの重要さには気が付かないか。ガキってのは想像力が欠けてるからな。

 走ったらダメって親が言ってるのに無視して走って転ぶのは、自分が転ぶという結末を想像出来ないからだ。

 それと同じでいくら天才中野でも、チンコがデカければタダでエッチ出来るかもしれないという可能性を想像出来なかった。

 おお可哀そうに、おかげで彼は金を払ってエッチをさせてもらう悲しい男になっちまうんだ。


「まあ無いなら無いで、作ってくれよ」


「断る」


 しかし俺の頼みは速攻で断られた。


「何でだよ!? チンコ巨大化薬があれば、あんただって得するだろ!?」


「いいや、我輩には必要ないのでね。我輩は自分の欲しい物しか作らんと決めているのだよ」


 なに、必要ないだと!?

 やはり大きさの重要さに気付いてないらしい。

 よし、ここは大人として坊やに教育してやるか。

 なに、人生の先輩としての親切心だよ。


「あんた、女子にモテたいって、考えたことあるだろ?」


 こう言うと、中野は鼻で笑った。


「何がおかしい」


「いや失礼。君は何か勘違いしているようだね。チンコの大きさの重要さくらい、我輩も理解している。必要ないというのは、文字通りの意味だ。本当に必要が無いのだ。何故なら、我輩のチンコはそれだけ大きいからである」


「な、なにぃッッ!?」


 いやいや、落ち着け俺。大きいといっても、九歳児の世界の中での話だろ。大人の世界で、そんなベイビーが通用すると思うなよ。化けの皮をはがしてやる!


「よし、じゃあ脱げよ」


「な、なにを言うのかね!? 君は変態か!? 我輩にそんな趣味はない!」


 中野は手で股間を隠した。


「自意識過剰やめろぉ! 気持ち悪いこと言うんじゃねえ! 証拠を見せろってんだよ証拠をよぉ!」


「ううむ、しかし、我輩は男に自分のチンコを見せる趣味はないのでな」


 そう言われると、確かに俺も他人のチンコを見る趣味はない。寧ろ見たくない。

 しかし、そこへ水島が追及する。


「だが、実際に見てみない事にはな。嘘くさいぜ、口だけでは何とでも言える」


「我輩は嘘は言わん。少なくとも君ら二人より大きい自信がある」


 中野は自信満々に腕を組んで踏ん反り返った。


「何!? そこまで言うんだったら勝負だ!」


 水島は怒鳴った。水島はいつも喧嘩だ勝負だと言う。


「ほほう、チンコの大きさ比べか……面白い。だが、誰か公平な審判を呼んでくれんか。我輩はそこの水島とやらにチンコを見せたくないし、なんなら見たくもない。しかし、勝負相手に一任するのでは不正を働くかもしれん。水島の言う事が嘘であったとしてもわからない」


 確かに、中野の言う事はもっともだ。

 水島が嘘を言うとは思え……いや、言うかもしれんが、それを抜きにしても、中野を納得させるために審判は必要だろう。

 本当に水島が勝ったのに、中野が嘘だ嘘だと喚いて信じない事があるかもしれないからな。


「分かった。ちゃんと公正なのを呼んでこよう。ちょっと待ってろ」




 一分後、俺は学級委員帆風を連れてきた。

 男に見せる趣味はないというご意見にお応えして、女子をチョイスした。


「ねえ、一体何の用なの?」


 帆風には一切の事情を説明しなかった。

 説明したら付いて来ないかもしれないと思ったからだ。

 だが、曲がったことの嫌いな帆風だ。きっと嘘をつかないで正直に結果を言うだろう。適任だ。……曲がったことが嫌いって、まあ大丈夫だよな。


「なぁに、見てれば分かる。というか見るだけ」


 それでも帆風は首を傾げているが、無視して進める。


「よし、水島、中野、始めてくれ」


「きゃー! ちょっと、何してるの!」


 俺の合図を皮切りに、水島と中野は目隠しをしてズボンを下し始めた。

 帆風は驚きの叫び声を上げる。

 俺はついに帆風に告げた。


「今まで黙ってたが、実は二人のチンコを見比べて、どっちが大きいか判定して欲しいんだ」


「なんで私がやらなきゃいけないのよ!?」


「頼む、帆風しか頼れないんだよ」


「そんなこと言ったって……」


 帆風は、そんなもの恥ずかしくて見られないという感じに両手で両眼を覆うが、その指は隙間だらけで正直絶対見えてる。絶対隠せてない。口ではそう言っても体は正直と言ったところか。

 本当に見たくなければ後ろを向けばいいのに、ずっと顔を二人の方に向けている。

 やはり学級委員は、むっつりスケベじゃないと務まらないということなのだろう。


「わ、分かったわ。学級委員として、クラスメイトの頼みは断れないわ」


 そう言って、帆風は手をどけた。

 ほーん、それなら今度エッチなお願いしてみよっと。


「良かったぜ。実は俺も他人のチンコは、出来れば見たくなかったんだ」


 水島が言った。帆風が引き受けてくれて少し安心した様子だ。


 さて、このままクラスメイトのチンコを凝視する女子をじっくり眺めるのも良いが、俺も他の男のチンコは見たくないので、俺は泣く泣く後ろを向いた。


 ――っなんて勿体ないっ!


 少しして水島は帆風に尋ねた。


「もう俺の方が大きいって分かっただろ。いつまで見てんだ?」


 水島の声に帆風はびくりとした。どれだけ集中してるんだ。

 ちなみに、これくらいのことは強化人間である俺だ、振り向かなくても感じ取ることが出来る。


「……いえ、これは中野君の方が遥かに大きいわ……」


 それを聞いてそんなわけはないと、水島は怒ったように言う。


「何!? 見間違いじゃないのか!? メジャー使え!」


「え? 触っていいの?」


「『触っていいの?』じゃねえ!」


 俺は思わずツッコミを入れてしまった。

 興味津々にも程があるだろ。真面目な学級委員という表向きのキャラクターを忘れるな! もう少し頑張れ!


 いや、というか触らせるのはさすがにマズいでしょ。ご褒美過ぎる。

 しかもこれ、俺だけ触ってもらえないパターンだろ絶対。

 そんな不公平許せるわけがない。


「いえ、その、さ、さ、触りたいとか、そんなこと言うわけ無いじゃない! こ、言葉の綾よ! 見るだけより直接測る方が正確でしょ!?」


 さっき、遥かにって言ってただろ!


「ええい、とにかく触ったら駄目だ! こうなったら俺が確認する!」


 不公平解消のために、俺だけチンコを見るという不公平が発生してしまったがまあいい。必要な犠牲だと割り切る。

 俺は振り向いた。そして俺はそこで見たものに驚きを隠せなかった。


「で、で、デカすぎる……っ」


 そこにあった中野のチンコは、水島のモノより遥かに大きい。

 十五センチものさしでは測れない大きさがそこにはあった。

 完敗だ。負けを認めるしかない。こんなの、どうあがいたって太刀打ちできない。


「水島、お前の負けだ」


「そ、そんな……」


 水島はがっくりと肩を落とした。それでも目隠しを取ることはしなかった。

 どんだけ他人のチンコ見たくないねん。


「ね、ねえ……」


 帆風は後ろから俺の肩を叩いた。応対しようと振り向く。

 帆風は異様にモジモジしていた。


「永井君のは、その、大きさ……良いの?」


 俺のも見ようとするんじゃねえ!

 くっそー、見て欲しいのは山々だが、今の俺の股間の情けない姿を中野の後に見せるわけにはいかねえ。


「……俺はいいんだ」


「どうして、永井君は泣いてるの?」


 答える者は居なかった。


 そこにはただ沈黙が流れた。




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