義弟に叱られてしまいました。


私は焦りまくってる心を悟られたくないので、悪役らしくニヤリと嗤った。


「あら、なぜもこうも、ただ目の前で不愉快な事が起きていたので止めただけですわ」


「…ふーん」


ロノ・シルゼは訝しげな視線をこちらに向けながらも、これ以上追及はしなかった。


なんかコレヤバくないか?? 絶対コイツ怪しんでるだろ。


私は身の危険を感じながらも、余裕そうに振る舞った。


「ま、やるべき事はやりましたし、私はこれで失礼しますね」


「あ、おい!」


そう言ってスタコラさっさっと踵を返すと、後ろから聞こえる声を無視して足を運んだ。



◇◇◇



その光景を、金髪の男は目撃していた。


「…………なるほど…」


男はフード姿の女が去ったのを見届けると、くるりと背を向けた。


「…ふふ、面白いことになりそうだ…」


周りの草木が、サワサワと不穏に揺れている。


ひゅー、と風が吹いた。



◇◇◇



「フレアお義姉様〜? 僕、なんて言いましたっけ〜??」


「……ちょ、シエル待って。その笑顔怖い、怖いから! ジリジリ詰め寄らないで!」


なぜこうなった。おかしい。なぜ私は叱られているんだ!!


私は心の中で泣き叫んだ。


遡ること数十分前、私はシエルと別れたテラスへ戻っていた。


シエルの姿が見えたため、シエルの元に駆け寄ると、シエルに首根っこを掴まれ人目のない所へ連行された。


そして、シエルが口開けば始まるのはお説教だった。


「元はと言えばフレアお義姉様が勝手にどこかへ行かれてしまったからでしょう!! 僕言いましたよね? そこで待っててくださいと! 何をどうしたらそんなに彷徨さまようんですか!? いい加減にしてください!!」


「ひいぃ!! ごめんなさい! 勝手にふらついてごめんなさい!!!」


シエルの形相があまりにも怖かったから、思わず涙目になりながら謝る。


シエルはそんな私を暫く見つめると、小さく溜息を吐いた。


「…はぁ。ねえ、フレアお義姉様」


「は、はいっ」


突然呼びかけられ、声が裏返った。


シエルはおかしそうに笑みを零すと、目を細めた。


「フレアお義姉様にとって、僕はとても矮小な存在かもしれませんが、僕にとってフレアお義姉様はかけがえのない存在なのです。どうしても、守りたいとても大切な存在なのです。僕はフレアお義姉様に幸せでいて欲しいのです」


「うん、シエルが私を大切に思ってくれてるのは充分分かってるし、私にとってもシエルはとても大切な存在よ?」


シエルの言葉に首を傾げながら返すと、シエルは心底幸せそうに笑った。


「ふふ、貴女にそう言って貰えるとは光栄ですよ。ですがね、フレアお義姉様。フレアお義姉様が何かする度に、僕は何かやらかしてしまうのではないのかと心配してしまうんです」


「そ、それは………」


自覚があるので、言葉に詰まる。


シエルはくすくすと笑い続けていた。


「その様子だと、やはりまたやらかしたのですね………」


「はい………」


ああ、本当に面目ないです。義弟に叱られてしまうとは………。


シエルはにっこりと笑顔で口を開いた。


「フレアお義姉様、お話は屋敷でじっくりと聞きますから、ね?」


「……………………ゼンショシマス」


私は片言で返事をしたのだった……。

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