夜風が気持ちいいです。

本来なら、令嬢がこぞって黄色い声をあげるその麗しい笑顔も、偽りだと知っているので意味もない。


ましてや、私が『王子様』に惚れるなんてありえない。


「ご紹介ありがとうございます。それでは、申すべきことは全て申したので私共はこれにて失礼致します」


私は王子様に向かって似たような笑顔を浮かべ、シエル達と共に背を向け踵を返した。


「………………、……」


後ろで王子様が心底驚いた表情をしていることに、私は心の中でガッツポーズした。

 

え? なぜ気付けたかって? それは簡単。振り返る時に王子様の顔がチラリと見えたからだよ。


その後、一瞬で王子様がほくそ笑む顔をしていたことは流石に知らなかった。




王族に挨拶をして少し経った後、シエルはすぐに他の令嬢方に囲まれた。


「シエル様! あちらで少しお話し致しませんか?」


「まぁ貴方! 抜け駆けは駄目ですわよ?」

 

「シエル様、ぜひ私と一緒にダンスを」


「シエル様、私少し酔ってしまったみたい…」 


飢えた獣如くぐいぐいと押し寄せる令嬢達に、シエルは笑顔で軽やかに対応していた。


きっと内心嫌がっているだろう。


あー怖い。白塗りの女あの令嬢達より厄介なヤツなんてないもんね。


とゆーか隣に私いるのに令嬢達は気付きもしないと言うよりか完全に無視してるな。私が姉だというのに。


「すみません…私は少々義姉が心配ですのでお暇させて頂きます」


シエルは笑顔を貼り付けながらそう令嬢達に告げると、「義姉様、少し移動しましょう」と私の手を引っ張り、テラスの方へと歩いた。


テラスへ向かう際に、令嬢達から睨まれたのはしょうがない。


……しょうがないけどさ、睨むぐらいなら私とシエルを引き裂いてでもみせろよ。


お前らのしょうもない欲にこっちは付き合う暇もねえんだよ。


などと心の中で悪態をつきながら私はシエルと談笑していた。


「夜風が気持ちいいですね」


「ええ、そうね」


光り輝く星空を眺めながら、シエルと会話を続ける。


シエルの言う通り、ここは風通しがよく、非常に気持ちいい。


「僕は飲み物を取りに行っていきますので、フレアお義姉様はそこで待っててくださいね」


「了解したわ」


優しくシエルが微笑みかけ、飲み物を取りに行くと言った。


私はそれに頷き、シエルが戻ってくるのを待った。


–––この時、シエルについて行けば良かったと後悔することなどつゆ知らず。

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