第25話エルフの戦士

 剣閃を磨いた。

 若手、といっても齢は100を超えたのだが、世継ぎが生まれづらい我らが種『エルフ』。 

 その中で、一番若い俺はただただ剣技を磨いた。

 誰よりも強くなるために。


 魔道を追い求めた。

 いつか、いつか大魔導士となりエルフの中で一番になろうと。

 元々の素質に依存する節が魔法は強いが、我が種特有の長寿でそれを補い、極めようと日々模索した。


 どれだけ周りに無理だといわれても、積み重ねた日々は間違いなく誰よりも過酷なものだったはずだ。

 誰よりも早く剣を握り、誰よりも遅く魔法を放ち続ける。

 そんな日々。

 だからこそ、それは実を結んだのだ。



——カキンッ!!!!

 幾千もの火花を散らした剣の応酬はそんなひときわ大きな音と共に決着をつけた。

 宙を舞うのは一本の長剣。


「ま、まいった!」

「うし!」

 確かな手ごたえと共に、相手の手元を見れば何もない。

 その点、自分の手元には刃はついていないが確かな長剣がある。

「強くなったなジーン」

「おう! ガディンさん次は全勝してやっからな!」

「生意気を言うな」


 そんな笑いと共に頭に落とされる拳骨だが、全く嫌悪感はない。

 勇猛果敢、その言葉をまるで体で表したような強靭な体躯を持った男性。

 それこそが、ガディン・フォン・クロードその人なのである。

 エルフはその見た目は、まごうことなき美形であり美丈夫に育つ。

 それが我々の仲の常識であり、実際に多くはそうであった。


 ただこのガディンは、たぐいまれない特訓と元々のセンスなのか屈強な体つきを得て、俺達エルフの中で一番の剣豪として自他ともに認める存在だった。


 そんな相手から、戦績だけをみれば何百敗、何千敗と最悪とも呼べるし、決まり手だって、不意打ちに不意打ちを重ねたかなり汚いものかもしれないが、一本を取ることができたのだ。

 この一本は、今までの敗北を上回るほどに価値がある。


 俺にとってかけがえのない経験だ。

 誰もが無理だと笑った夢が、また一歩近づいたのだから。




 だからこそ、俺はガディンさんから大任を預かった。

『村長たちの護衛を頼むぞ』

 人間に追われた俺たちが次に向かう魔森地。

 その奥地へと足を踏み入れていく中で、未踏のその地はあまりにも危険すぎる。

 いつ奇襲をされるか、どんな生物がいるのかわからないから。

 殿として後方に下がったガディンさんには、人間の対処という任務もあり、人数が多い村長の護衛は実際は一番安全なのかもしれないが、名指しでしっかりと村長の護衛を任命された俺にとって、それは関係ない。


 ただ一つ、この期待に応えたかった。


 だから俺は全力で立ちはだかる敵を退けた。

 殺すのではなく、退かせる。

 殺せばより活発になったり、これからずっと憎しみを持たれて森で暮らすのは難しい。


 この森の魔獣は賢いのか、こちらの姿を見れば引いたりとかなり進みやすかった。

 あまり交戦の無い森。

 もしかしたら魔森地は、存外掘り出し物だったのかもしえない。


「グオォォォ!!!!!」


 目の前で雄たけびを上げる。この一体を除いては。


「くそが!!」

「グア!」


 魔獣グリズリーロード、目の前に立ちはだかるこいつの名前だ。

 おかしな点はいくつもあった。

 やけに整備された森であったり、出てくる魔獣の数が少なかったりと。

 ただ、ただこいつだけはおかしい。


「ちょっと!? 魔法が効かない?」

「防御を一発で割るなんて!?」

「あいつただのグリズリーロードじゃないわよ!」


 本来グリズリーロード一体ぐらいであれば、この人数なら負けるいわれはない。

 たとえ勝ちきれなくても、撤退をさせることは容易だ。

 ただ、こいつは本当におかしい。


 魔法を見るや否や、それに最も合った対処をしてくる。

 

 俺達エルフがもっとも得意とする魔法。

 支援魔法を周りが唱えれば木を投げつけそれを抑え、誰かが剣を握れば地面を思いっきり叩き足取りをおぼつかなくさせる。

 そしてその隙をついて意識を刈り取っていく。


「ジーン! 逃げなさい!」

「村長!?」

「はやく!!」


 ずっと輪の中心にいた村長が一歩踏み出し、魔獣に近づく。

 

——だめだ、逃げろ!


 村長なら勝てるかもしれない。ただ俺にはガディンさんから預かった任務がある。

 頭の中では勝てないとわかっているが、剣を握る手は決してそれを話さない。


「くそぉーーーー!!!!」

「ジーン!!」


 もはややけくそだ。

 特攻にも近い形で剣を掲げ突っ込んだとき、


『グリド!!!!!』


 そんな声が聞こえた。


 

 


 

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