アナザーレイド
好日日和
第1話 契約
日本のとある都市の少し外れに住んでいる春田メイは、自分の部屋でスマホ片手に混乱していた。
つい先程までメイは自分がもう死んでしまうのだと、どうにもならないという諦めと強い絶望感を感じていた。
しかし、今こうして生きて自分の部屋にいる。
「ほ、本当に戻ったの……?」
*
西暦2018年6月20日、メイはいつものように朝ご飯を食べ、私服に着替えて勤め先の病院へ行く。
自転車で駅まで走っていたところ、右折してきた車がメイにぶつかる。
「あぶなっ!!」
激しい痛みと自転車がひしゃげる音が聞こえたが、すぐに目の前が真っ暗になった。
ぼんやりと少しだけ目が開くことができた時、メイの視界には白い天上と、泣きながら声をかけてくる家族の顔が映る。
「メイ、お願い……。メイ……」
「頼む!!メイ!目を開けてくれ!」
「姉ちゃん、嫌だよ……。死なないで!!」
両親と弟の声がする。
(私、さっき車に轢かれて……。あぁ病院に運ばれたのかな。身体も痛いし声も出ない。なんとか目は開けられたけど)
まだぼんやりする頭で、そんなことを考えていると突然知らない男の声がした。
『……君はもうすぐ死ぬよ。魂が抜けかけているから痛みや音は感じていても身体は殆ど死んでる状態だ。視覚的情報を感じられているのは身体から魂が離れ始めているからなのさ。所謂、幽体離脱の状態だ)
男は淡々とした口調でそう言った。
(え……、私死んじゃうの?嫌だよ……。まだやりたいことあるし、家族と離れたくない。嫌…いやぁぁ!)
メイは突きつけられた「死」に激しく動揺し、悲しみと死への恐怖を感じた。
(なんとかして!お願い、なんでもするから!!私まだ死にたくない!)
『そう言われても、もう君の身体はほぼ死んでいるんだ。どうにかしようがない。ただ方法が無い訳ではない』
(方法って何!?お願い、教えて!)
『さっきなんでもするって言ってたけど、本当になんでもするかい?』
(する!するわ!何をしたらいいの!?)
『分かった。そんなに強い気持ちがあるなら大丈夫だな。君には僕の実験台になってもららうよ。内容は今のとこ秘密だけど、それでも良いかい?』
少しだけ楽しそうに言う男。
しかしメイには実験台になろうが生きて家族のもとに戻れるのであれば、実験台だろうがなんでもする気でいた。
目の前で泣いている家族と離ればなれになるなんて考えられない。
(わかった、実験台にしてもらって構わないから、私を生き返らせて!)
『よし、じゃあ契約は成立だ!この世界の創造主【メディテイカム】の名の下に【春田メイ】へ願いを叶えるために必要な能力を授ける』
メディテイカムがそう言うと、目の前の家族の動きが止まり、音が無くなる。
突然家族が動かなくなり、声も聞こえなくなったため動揺するメイ。
(お、お父さん?お母さん?)
そして視覚に映る全ての人や物がぐにゃりと歪む。
事態が飲み込めないでいるメイは、ただただ呆然とその光景を見ている。
歪んだ景色はグルグルと螺旋を描きながら回りだす。人と物の境目が無くなり、色が混じり合い、色々な絵の具ぐちゃぐちゃに混ぜた様な状態になる。
そしてメイが一度瞬きをすると…
*
事故で病院に運ばれ、死の淵に立たされていたメイは、自分の部屋の椅子でスマホを持った格好で座っていた。
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