僕だけ女になるとかおかしいでしょ。

陸奥こはる

ぷろろーぐ:なんで僕だけ……。

 今の状況に至るまでの僕の日常生活を長々と説明をしてもそれで解決するワケでもないし、非常に無駄な気もするし、それから聞いている方も退屈だろうから、端的に説明しようと思うのだけれど、要するには次の二つの出来事が起きたのであった。


 ①男子校1年1組40名+教師1名の総勢41名が、体育の授業中に、異世界に転移した。

 ②その中で、なぜか僕だけ女になっていた――つまり女体化。


 なんでこんな事になったのか。

 その理由は分からない。


■□■□


「俺……この展開みたことある。WEB小説やアニメで見たことがある。ここは異世界迷宮だ。きっとステータスとかもある」


 誰もが驚いていた転移してまもない頃、そんなことを言い出したクラスメイトがいた。


 ――一体こいつは何を言っているんだ。


 と、最初はみんなが半信半疑だったけれど、しかし、僕たちにはステータスなるものが本当に存在していた。

 確認したら、出て来てしまったのだ。


「ガチで異世界か」

「……秘められた俺の力が、今この時、解放されようとしているのかもしれないな」

「中二病乙! って言いたい所だが、確かにありえなくはないか。でも多分お前じゃなくて俺にある気がする。秘められた力」


 えてして、ステータスや異世界という単語は、年頃の男の子の心をくすぐってしまうものである。

 こんな風に、全員が色めき立つには、十分すぎるほどの燃料なのだ。


 まぁその、中には、この状況を冷静に把握しようとするクラスメイトも居たけれど、


「ちょっと待て。迷宮ってことは、魔物も出るよな? 大丈夫なんだろうか――いや、俺らならなんとかなるか。ステータスがある場合って、大体チートなことが多いんだ。漫画で見たことあるから間違いない」


 すぐこれである。

 色々とツッコミを入れたい気分で、心がいっぱいだけれど、でも、そんな事をしている余裕が無かった。


 ――転移したら女になっていた。


 そんな状況である事が、僕から心の平静さを奪い去っていたのだ。


 気づいたら髪が伸びていて、視界がいつもより低いなと思っていたら背が縮んでいて、男の大事な部分が消えて、体の起伏も完全に女になっていて……。


 正直……泣きそうです。


 けれども、泣いても元に戻れるワケも無く。

 僕は、ジャージの裾をぐっと伸ばすと、体育座りになって自分の顔を隠した。


 ……夢なら醒めておくれ。


 と、体育座りのまま丸まっていると、不思議と時折クラスメイト達からの視線を感じた。

 浮かれ気分に落ち着いて、一人縮こまる僕の異変に、気づいたのだろうか?

 どうやら違うようだ。


 クラスメイト達の視線の動きを観察すると、何かねっとりした目つきであった。

 そして、それがどこを向いているかと言うと、僕の顔とか胸とか尻。

 なんと言うかその……つまり……男が女を見る時の目なのである。

 今は女とはいえ、僕も元は男だから、まさかそんな風に見られるとは思っていなかったのであって、本音を吐露するなら凄く気持ち悪いです。


「おい、勇気、元気を出せ」


 急に話しかけられて、ビビりながらも顔を上げると、ゴリの愛称で親しまれる体育教師(40歳)がいた。あだ名にふさわしい筋肉まみれの肉体で、非常に毛深くて暑苦しい教師である。


「ひえっ……」


 クラスメイト達の視線のせいで、色々と過敏になりかけていた僕は、思わず裏返ったような声を出してしまう。

 けれど、すぐさまに、ゴリの視線がクラスメイトたちとは少し違う感じである事に気づいた。

 特にねっとりした様子もなく、生徒に向ける以上の感情を僕に持っていなさそうな感じなのだ。


 そういえば、ゴリは面倒見と性格が良い、と評判の教師でもあった。

 生徒の悩み相談に乗っては尻を叩いて喝を入れるような、そんな人だと聞いた事がある。


 という事は。

 女にはなったとしても、僕もあくまで一生徒である事に変わりはなくて、だから純粋に生徒として心配をしてくれたのかも知れない。

 なんだかホッとする。


「ゴリ……僕、どうしたらいいんだろう」


 安心したお陰か、僕は思わず弱音を吐く。

 すると、


「随分美人な女になったんだし、別に良いんじゃないか?」

「え?」

「鏡が無いと分からないか。お前、凄い綺麗な女になってるぞ? 出るとこ出ててスタイルも良さそうでよかったじゃないか」


 何を言っているんだろうか。

 まさか僕の安堵は勘違いで、実はゴリまでそういう目で……?


「ちょっとゴリまで、やめてよそういう目で見るの……」

「客観的な事実を述べたまでだ。俺は女『には』興味が無いから、特に変な目で見てないぞ?」


 ゴリは僕の事を女としては見ていないようで、再び僕はホッとした。

 もっとも、女『には』興味が無いとか言う、聞いてはいけない言葉を聞いてしまったような気がするけど――いや、それは忘れることにしよう。


「とにかく、全員で協力して行かなきゃならん。お前も自分のステータスくらい確認したらどうだ。ゲームみたいでワクワクするぞ。じゃあな」


 そう言って、ゴリはさっさと他の生徒の所へと行った。


 ワクワクする、という気持ちは理解は出来る。

 僕だって、女体化していなければ、多分同じ事を思ったと思う。ゴリとか、他のクラスメイト達見たいにさ。


「はぁ……」


 溜め息を吐くと、幸せが逃げるらしいけれど、吐かずにいられない。


 まぁでも……悩んだ所で、男に戻れそうな感じも無いし、取り合えず、言われた通りにステータスの確認ぐらいはした方が良いかな。

 どの程度戦えるかを事前に把握しておくのは大切だからさ。


 と言う事で、僕は自分のステータスを見てみる事にした。

 ステータスの確認方法は、クラスメイト達の会話を盗み聞きしていたから、分かる。

 念じると出てくるらしい。


 ――――――――――

 氏名:小桜 勇気 

 性別:女 レベル:0.1 

 次のレベルまで:0/60


 動体視力0.91

 基礎筋力0.45

 身体操作0.72

 持続体力0.66

 魔力操作0.93

 魔力許容0.78

 成長水準3.65


 固有スキル 召喚士2.00

 ――――――――――


 念じて見ると出て来た。

 ステータスは、どうやら、小数点刻みの数値で表しているようだ。


「……細かくて良いと見るべきか、面倒くさいと見るべきか。……ってか、性別が女って」


 性別は、現在の体準拠で決まってしまうらしい。

 お前はもう完璧に女なんだよ、と言われているようで、大変な気落ちをしてしまうものの、もうどうしようもない事なので、スルーする他に無い。


 ところで、僕のこのステータスは良い悪いのどちらなのだろうか……?


「――お前のステータス教えろよ……って、うっわ、動体視力2.5もあんの!? 高くねぇ? 僕1.3だぞ? ウソついてねぇよな?」

「――ウソついてねぇって。それよりお前の身体操作2.1って方が信じらんねぇよ。僕1.01だぞ? 差がありすぎて冗談にしか見えんわー」


 どうやら、僕のステータスは明らかに低い部類のようだ。

 周りの会話からそれが明らかになった。

 女になった影響なのだろうか?

 望んでもいないデバフを常時掛けられているような気分で、最悪ですね。


「ちっ……」


 僕は舌打ちをしつつ、何か有能な部分が一つくらい無いだろうかとステータスの表記をくまなく見る。

 そして、スキルの欄に、召喚士とかいう文字があることに気づいた。

 使えるスキルなのかどうかは分からないけれど、取り合えず、説明を出してみよう。


 ――――――――――


 召喚士 

 幻獣や魔物――召喚獣を召喚し使役する事が出来る。

 召喚獣は最低ランクから始まる。

 召喚獣のレベルを上げる事によって、進化させる事が可能である。

 スキル値が2増える毎に使役召喚獣を一体追加出来る。

 経験値の配分の決定権は召喚士が持つ。


 ※、召喚獣は異空間に待機させて置く事も可能。


 ――――――――――


 なんとなく、役に立ちそうな気がする。

 数値的に非力な僕にとって、召喚で魔物やらを使役して使えるのは、願ったり叶ったりなスキルにも思えるし。


 まぁその……生き残るだけなら、強いクラスメイトに頼るって方法もあるけど、その手段は取りたくないんだよね。

 ねっとりした視線から察するに、何を要求されるか分かったものではないから。


「でも、スキル値が2毎に1かぁ」


 今のところ、召喚士スキルの値が2しか無い。つまり、一体しか呼べない。最初から沢山呼べれば便利だったけど、それはまぁ、初期状態ということを考えれば仕方がない部分かな?


「……ともあれ、ひとまず一体召喚してみようかな」


 僕は早速召喚獣を一体召喚しようと思い、一覧を出す事にした。

 すると、かなり沢山あるようで、ズラッと名前が並んだ。

 ただ、大半が×印になっていて、召喚不可という表記だらけ……。

 どうやら、色々と必要条件を満たしてからじゃないと、召喚出来ないものがほとんどらしい。

 幼竜とか言う、いかにも進化のさせ甲斐のありそうな名前も見えたけど、選ぼうとしたら条件を満たしてませんって出る。


「……有能スキルかと思ったけど、その評価は少し下方修正したほうがいいかな。ただでさえ、スキル値が2毎にしか召喚獣を一体追加出来ないってのに、条件を満たさないと召喚無理なものばかりって……」


 ステータスの値が小数点表記ということを考えると、レベルが上がったからといって、ポンポコ数値上がるようにも思えない。

 そんな中で、召喚獣に制限が掛かっている状態からスタート。

 聞こえて来る他のクラスメイトのステータスと比べると、何か僕だけハードモードな感じなのですが……。


 ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい……はぁ……。


 思わず感情的になったものの、心中で愚痴った所で、急に超ステータスやスキルになるなんてこともない事ぐらい察しているのだ。

 今は、選べる中から召喚獣を選んで、地道になんとかしていく他に無いのである。

 ……で、その選べる召喚獣って言うのは、次の三種類です。


①子犬

②子猫

③子蛇


 制限まみれな時点で分かってはいたけど、なんというか、その……しょぼいね。

 まぁでも、説明には進化するってあるし、育てればワンチャンある系かも知れない。

 そう思わないとやってられないよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る