第245話 破滅の魔力
その頃、ユート達はダッシュで移動していた。
そして突然巨大な魔力の流れを感じ取っていた。
普段はそこまで感じないというドルガーですら、声をあげる。
「な、なんだこりゃ。こんな肌がビリビリするほどの魔力を遠くから感じた事などないぞ…!」
純戦士であるドルガー感じる凄まじい魔力。
それだけで脅威である事は誰にも分かった。
『主様、この魔力暴走ともいえる現象ですが、放っておくとこの城全てが吹き飛びかねません。急ぎましょう!』
ニケは魔獣状態のままだが、気を失っているリンを乗せているので無理な速度は出していない。
しかし、それでは到底間に合いそうになかった。
「俺が嬢ちゃん達を預かろう。お前たちは先にいけ!」
「護衛に私達も残ります。ユートさんは先に!カイトもサポートするのよ!」
「カイトさん、ユートさん達の事をよろしく頼むのです」
ドルガーの提案に感謝しつつも、リン達を残していく事に不安を感じてしまう。
もう、この子を失う事など考えたくもない。
しかし、ニケの言う通り急がないと拙いのは分かっていた。
「すまんなドルガー、リン達を頼んだよ。アイナ、ミラ、ザイン、ダン、任せたぞ!」
アリアネルは乗せたまま、リンをアイナと一緒に降ろす。
そして俺もニケにのり、飛竜に乗ったカイトを引き連れて王の間へと急ぐのだった。
竜姫の双子も、その後に続いた。
アリアネルの案内もあり、最短ルートで移動した俺らは数分で王の間に辿り着くことが出来た。
入口の門の前には、複数の人が倒れている。
その傍らには見たことがある悪魔達が魔法で護っていた。
「あれは…カルマの眷属か?」
『そのようですね主様。であれば、あの中にカルマが』
「あれは…。お父様!?」
門の前に来るとアリアネルは飛び降りて、国王らしき人物の元へ走り寄る。
護っている悪魔は邪魔はせず、逆にアリアネルも一緒に護衛対象に切り替えたようだ。
「アリアネル!お前はそこで待っていろ!俺らは中に突入する!カイト、アリアネルの護衛を任せた!」
「ありがとうございますユートさん!後はお願いします!…ああ、お父様。なんてお姿に…」
「分かりました、ユートさん。お気をつけて!」
アリアネルはその場に残り、もはや意識もなく倒れている国王の治療を開始する。
カイトは飛竜に乗ったまま、アリアネルや国王が狙われないかあたりを警戒するのだった。
ユートが扉を開けると、中はまるでハリケーンでも起きているかのような荒れ具合だ。
ニケが咄嗟に魔力障壁を展開しなければ、歩くことも難しかったかもしれない。
「あれは…、カルマか」
王の間の中心地で、魔法を展開し辺りの魔力を一点に集めているカルマがいた。
集まっている魔力量は、肉眼で見える程の濃さとなっている。
このままでは抑えきれない!
「主!ここは危険だ!早く避難を!」
「何言っているんだ、そのままだとお前も吹き飛ぶぞ?!」
しかも今更逃げたとしても、カルマが抑える事が出来なかった時点で俺らも巻き込んで吹き飛ぶ事間違いないだろう。
それならば…。
いっそ、消滅させてしまえばいい。
「みんな。周りに被害がいかないように、この部屋全体に魔力障壁を展開してくれ。カルマはそのまま維持。俺が皆の力をブーストするから、なんとか耐えてくれよ。あとは、俺が『覇王』のチカラでこいつを消滅させる」
「なるほど…、やるしかありませんね。承知しました主様」
「分かったよマスター、やってみせるよ!」
「私達も竜王のチカラを解放します」
ニケが部屋全体に〈魔力障壁〉を展開し、外に漏れないようにする。
さらに竜姫の二人も金と銀に輝き、そのチカラを解放していった。
部屋全体に緑色のベールがかかり、次に銀のベールが、最後には金色のベールが掛かった。
中から見ると、さながらオーロラを見ているようだ。
綺麗さとは相反して、かなりの強度の障壁が展開される。
これなら充分行けそうだ。
「『覇王の号令』発動!」
『覇王の号令』により、全員のステータスが跳ね上がる。
それによって、カルマの魔法も前より安定しだす。
その結果、ついにすべての魔力が一か所に集まった。
「いくぞ!『覇王』スキル、〈
白く輝くオーラで作られたすべてを断つ剣を生成し、相手の生命、精神、魔力に直接極大ダメージを与えるこのスキルであれば、魔力の塊となったこの魔法すら消滅出来るはず。
「いっけええええええええええええええええ!!!」
カルマの魔法ごと、その魔力の塊となったものを切り裂いていく。
風船が弾ける様に一瞬魔力が溢れ出し、カッっとあたりが一瞬真っ白に染まるがそれごと全て消し去っていく、─そして暴走していた魔力が全て消滅した。
「おお、まさかこんな事が出来るとは…。さすが我が主です」
あふれ出た一部の魔力だけで、ニケや双子の〈魔力障壁〉が吹き飛びそうになったが、最後まで持ちこたえてくれた。
その分、王の間は見る影もなく無茶苦茶になっていたが、外には溢れ出すことなく耐えきったので被害はそれだけで済んだようだ。
「よーし!成功だ!!」
こうして俺らは無事生還するのだった。
───
ヘラは、
もうすぐ粉々になるはずの城の最期を見届けてから、自国に帰るつもりだったからだ。
だがその願いは叶わなかった。
なぜなら暴走が収まってしまったからだ。
「…いえ、暴走させた魔力が消滅したというのか?チッ、つくづく厄介な奴らだわ。仕方ない、今回は痛み分けってとこかしらね。それなりに収穫はあったし、それで良しとしましょうか」
「御意、ヘラ様」
ヘラの傍らには数人の魔人たちがいた。
その中には、王族らしきものもいるようだ。
「次に会う時にはきっちり仕留めてあげるわ。ま、せいぜいそれまで束の間の勝利を味わっておくのね」
そう捨て台詞を残し、
数日に及んだ魔王軍による王都襲撃は、こうして幕を閉じるのであった。
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