第180話 憧れと現実

 【魔獣王ケルベロス】との激戦を終えて、"ポータルゲート"を使って【地獄の塔】から外に出てきた。


 カミオ達はここまではお金を払って馬車で来たらしく、帰りは歩きだと言うのでショウタ達の馬に一緒に乗るようにさせた。


「あれだけあった素材やお金とか宝石とか何処にいったんですか?」


「ん?お前達は、ストレージ無いのか?」


「なんですかそれ?マジックアイテムかなんかですか?」


 ライ達にはツッコまれなかったので気がついていなかったが、(ゲンブがいたので気にならなかったかも。)どうやらストレージ持っているのはLBO出身者や、ディナア達のような高位種族だけらしい。


 ちなみに、手のひらに浮かび上がるステータス紋は、冒険者になった時に刻まれて使えるようになると言う事だった。


 今まで気がついていなかったんですか?!と逆に驚かれた。


 なるほど、そういう事だったのか。

 俺は、まだまだこの世界の常識が分かってないようだ。


 彼らの取り分は、巨大なリュックにパンパンになるまで詰めてある。

 そのまま、背負ってると移動が遅くなるのでニケの両足に括り付けて運ぶ事にした。



 帰りの途中、馬の群れがいたので『扇動者インスティゲーター』スキルでおびき寄せてから『動物調教アニマルテイミング』スキルで人数分捕まえた。


 これで来る時と同じくらいで帰れるだろう。


「いやー、テイマーさんがいると現地で調達出来て便利ですね」


「それが『調教師テイマー』本来の役割だからな。馬ならいくらでも捕まえれるぞ?」


 馬は低スキルの時代から何度も捕まえているので慣れたもんだ。

 蘇生術リザレクションを覚えるまで何度も魔物に殺されてしまい、その度に凹んでたのが懐かしくもある。


 まぁ、蘇生術リザレクションを覚えた頃にカルマに出会っているので、それ以来は馬には乗っていないのだけどね。



 それまでは、お気に入りの子達が死なないようにする為に、時には自分を盾にしてくらい大事にしてきたのだ。


 おかげで戦闘スキルが上がり、今では最前線で戦えるほどのスキルを得たのだから、何でもやってみるもんだなと感慨に耽ってた。


「ユートさんは、何故テイマーになったんです?それだけ戦闘センスあるなら、戦士や騎士になっても良かった気がしますが」


 カミオが馬に乗って並走しながら聞いてきた。


 この世界の住人からすると、『調教師テイマー』になるのは引退した戦士か、力の弱い自力で戦う力を持たない者達くらいなのだという。


 高位の魔獣を扱うような『調教師テイマー』は調教する過程で強さがいるために、それなりに戦闘も出来るものもいるが、自分が強ければ仲間ペットに頼る必要がないのでテイマーに転向する人は少数で、最初からテイマー目指すものは物好きしかいないらしい。


 まさに俺はその物好きにあたるんだが…。


「いやぁー、好きなんだよ。動物がね。可愛いし、もふもふ出来るから癒やされるだろ?こんな風に触れ合えるのは『調教師テイマー』だけなんだぞ?」


 そういいながら、ニケをもぎゅうっと抱きしめてからふもふする。

 う~ん、相変わらず気持ちいいな。


「!!おじ様、今度私も乗せて欲しいわ!」


「あ、レーナちゃんズルい!私も〜!」


 やはり、ニケは子供達に人気だ。


『ふふ、この手触りの良い羽毛だけはカルマにも負けません!』


 とニケも嬉しそうに自慢の羽毛を靡かせいた。

 勝つところ、そこだけでいいのか?


「なるほど。好きだからこそ、そこまで突き詰めれるんですね。自分達は生きるのに精一杯で、そういう気持ちすっかり忘れてましたよ」


「そうだねー、憧れて冒険者なった筈なのに、いつの間にか単なる仕事になってたよね」


 カミオの言葉に、レオナも頷きながらそう言った。


 まぁ、一般の冒険者なんてみな同じようなものだろう。


 普通の仕事よりも稼げはするが、危険が多い仕事だ。

 決して割に合う仕事とは言い難い。


「お前たちも、もっと鍛えれば余裕を持つことが出来るだろうさ。せっかく知り合ったんだ、うちの智慧者ブレーンを紹介してやるから、今後のことを相談したらどうだ?」


 うちの智慧者ブレーンとは、ライの事である。

 彼は元々頭が良く、最近は商売を始めるための準備なども率先してやってくれている。


 親がサニアの警備長というのもあり、町の情報はかなり把握してたりするので何気に優秀だ。


 いっそ冒険者辞めて商人に転向したらどうだと言ったら、ユートさんと組むなら悪く無いですねと言っていたので割と本気のようだ。


 若いわりにしっかり先を見据えている感があり、有能と言えるだろう。


「本当ですか!?それはともて有り難いです。是非とも宜しくお願いします!」


「流石は、英雄様は心が広いだねぇ」


「ああ、こんな人に会えて俺らにも運が向いてきたかもな」


 カミオと俺のやり取りを聞いていたバーナーとデュークも嬉しそうにそんな話をしている。

 しかし、その横で浮かない顔をした女の子がいた。

 

「レオナ…。私ね、今回の事でかなり身に沁みたわ。私は向いている気がしない」


「ミリンダ…、そんな事言わないで。今の私達は、まだ未熟だけどこれから頑張っていけば…!」


「でも、今度こそ本当に死でしまうかも知れないわ。ユート様が紹介していただける方と話をして、色々考えさせて欲しいの。私ね、二度と皆が死んでいく姿なんか見たくないよ」


「ミリンダ…」


 ミリンダという少女は、今回一度死んだ事で心が折れた様だ。


 仲間の亡骸に囲まれて、自分も魔獣達にかみ殺されてしまったのだ。

 普通なら、かなりのトラウマになる光景だろう。

 

 まぁ、無理して冒険者やるのはお勧め出来ないな。

 それにミリンダは特別美人と言うわけじゃないが、愛嬌がある顔をしているので売り子でもやればコアなファンが付いてきそうだ。


 なので冒険者引退するなら、うちで雇うのもアリだと思う。

 よし、あとでライに言っておこう。


 商売するのには物も必要だが、人材も集めないといけない。

 特に人員は信頼おける相手じゃないとトラブルの元になるからな。


 慎重に選んでおかないと、売り上げ持ち逃げなど良くある話なのだから。


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