第173話 地獄の塔の攻略

 前回来たときは救出の為だったのでニケとカルマで全てを吹き飛ばしたが、今回は急ぐ理由が無いので普通に戦闘していく事にした。


 最初は雑魚しか出ないが騎乗中の戦闘は思いの外難しいので、慣れさせるために乗ったまま戦わせた。


 リンとレーナとアーヤは騎乗スキル持ちの為、思った以上に戦えるようだが男子達がボロボロだ。


 武器を振ったり魔法を唱えるだけでバランスを崩してしまうし、バランスを取ろうとすると、今度は集中が切れて攻撃が当たらない。


「もっと、重心を安定させて攻撃しなさい!ほら!また崩れてる!」


 今回は教官としてセツナを真ん中に置いて、俺とニケは殿を務めている。

 たまに奇襲を仕掛けて真後ろから攻撃してくる魔物がいるが、『攻撃予測』を持っているのでバレバレだ。


 ただの裏拳一撃でもれなく仕留めている。


「おじ様、流石ですわ。伊達にSSランクに到達してないわ」


「パパは、このユニオンで1番強いってSランクのカイトお兄ちゃんも言ってたよ」


 そんな雑談しながらも、確実に一撃で仕留めているリンもなかなかの腕前だ。

 余所見をしているようで、しっかりと視野に敵を捉えているようだ。


 いくら雑魚でも、全てを一撃に仕留めていくのは高度な技術がいる。

 うん、しばらく見ない間に相当鍛えたんだなぁ。


 俺を素直に感心させるほど、美しい剣さばきだった。


「おゃあ!とお!」


「そこだね…はぁっ!」


「ファイアボール!」


 男子達もそこそこ慣れてきたようだ。

 ショウタはまだ若干力まかせで戦っている様だが、そのうち慣れていくだろう。


 ユウマはなかなかのセンスだなぁ。

 最初こそ馬上からの射撃に慣れてないので狙いがブレまくってたが、今では殆ど外さなくなってきた。

 ちゃんと急所となる個所を狙っているらしく、一撃で倒す場面もあった。


 ダイキはMP温存の為に低級魔法を選んで撃ってるが、逆に仕留めきれなくて焦ってしまうことがあるようだ。

 『相手の強さに合わせて魔法も選ばないと、かえって燃費が悪くなるからな』と教えてやった。


「そういえば、ユートさんてテイマーだけど戦える人なんですよね?あのフウマさん相手に勝ったらしいし、何使って戦うんですか?」


 アーヤが俺の戦闘スタイルについて聞いてきた。

 フウマが戦闘特化型のニンジャなのに、本来サポート職であるテイマーに負けたとなれば気にもなるのだろう。


「んー、基本は双剣かな。あとは弓だな。状況によっては魔法も使うし、スキルで味方のステータス上げたりもするし、回復とかのサポート役に回るときもあるよ。最近は、素手でも戦えるスキルと覚えたから、戦闘ならどこのポジションもいけるよ?」


 普通に考えれば、どれにも特化しないスキル構成はただのネタキャラか器用貧乏になるはずだが、様々な要素が絡みあった結果で俺にはそんな心配は無用だった。


「そんなに色々出来るものなの?」


「ランク上がればスキル増やせるからな。でも、たまたまそうなっただけだよ。欲しいスキル覚えるために色々やってたらこの組み合わせになっただけだからな」


 そう、そもそもはペット蘇生が目的で取るスキルを決めていた。

 それに合わせて、ランクアップしやすいように戦闘スキルを構成したのが今の状態だ。


 それでも、本来は戦闘メインの戦闘職には瞬間火力で負ける。

 それを覆せるのは、『幻龍』と『覇王』のチカラがあるからに過ぎない。


「あぁ、そうそう。『蘇生術リザレクション』を持っているから、万が一のときも心配いらないぞ?」


「えぇっ?なんで、そんなレアなスキルを持っているの?」


 セツナが呆れた顔で聞いてきた。

 そうか、みんな意外と知らないんだな。

 上位テイマーなら誰でも取ろうとするこのスキルを。


「これは、テイマーがペット達を蘇生するのに必要なスキルなんだ。だから上位テイマーならみんな持っていると思うぞ?というか必須だ」


「いや、そもそも上位テイマーなんて殆どいないから!あった事も無かったし、知らないわよ!」


 あ、そういやそうだったね。

 ほとんどの人が挫折して、LBOのテイマー率はかなり低かった。


 特にAランクからのランクアップが鬼仕様のため、そこで打ち止めされることが多いのが現状だ。

 ああ、もちろんLBOではって話ね。


「でも、蘇生にはスキルダウンのデメリットがあるでしょう。出来るだけ使わないに越したことはないと思うわ」


「それはセツナの言う通りだな。まぁ、万が一ってだけだから。その前に回復も出来るし、みんな気にしないでガンガン戦え~!」


 おー!と威勢よく男子が返事する。

 レーナとアーヤは微妙な顔をしていた。


 そんな中、リンはというと。


「大丈夫。パパが大丈夫って言ったら、本当に大丈夫なんだよ」


 と笑顔で言うだけだった。


「リンもあれから強くなったんだ。2か月間の成果をここで見せてくれよ?」


「うん、分かったよパパ。あの時は自信過剰になってただけだけど、今ならちゃんとした自信をもってここなら大丈夫って言えるよ」


 リンは誇らしげに笑うと、馬上で剣を構えて中に斬り込んでいった。

 それを見た男子も、続け~!とばかりに追っかけて中に入っていく。


「俺は殿しんがりやるから、セツナはあの子らをしっかり指導してやってくれな」


「分かったわ。じゃあ、行ってくるわね」


 セツナも馬を走らせて、更に奥に進んでいった。


 俺はのんびりニケに乗りながら辺りを見て回りながらついて行った。

 倒すことに夢中になっている子供たちの代わりに、素材や肉を回収していく。


 下層は大した敵は出ないので、殆ど動物と変わらないワイルドウルフなどが出てくる。

 Cランク相当なので子供たちでも一撃で仕留めていったようで、どれも真っ二つだ。


 力が更に上がったので、皮を剥いだり肉を切り出すのも前よりも早くなった。

 肉の一部をニケの口に放り込みつつ、皮はストレージに仕舞っていく。


「こんなもんかなぁ?」


 ウガ?


 あ、お前に言ったんじゃないよ?

 はい、さようなら。

 バシュンッ!


 たまたま出てきたオーガが呼んだみたいな顔してたので、げんこつ一撃で仕留めておく。

 可哀そうだが、ダンジョン内は弱肉強食なのだ。


 オーガの肉をニケに食べさせようとしたが、


『この肉は、美味しそうな匂いがしません』


 と言って、プイっと横向かれた。

 最近いい物ばかり食べさせてるから、舌が肥えて来たようだな。

 まぁ、稼ぎ頭の一人だし文句は無いがね。


 しょうがない、あとでヘルキャットおびき寄せるのにでも使うか。


 しばらくすると上に行く階段に辿りついた。

 戦闘した跡が残っているので、この先にいるのだろう。


 さっきから雑魚が現れては襲撃してくるが、低ランク過ぎて相手の力量を図れないらしい。

 遠慮なしに襲ってきて、ちょっとウザかった。


 ほぼパンチ一発なので、楽勝なのだけど鬱陶しい。

 一撃で倒せるけど、纏わりついてくる蚊をイメージして欲しい。


 ね、鬱陶しいでしょう?


『主様、私が排除しますか?』


「いや、たまには体を動かしておかないと感覚が鈍っちまう。軽い運動がてらに俺が戦うよ」


 階段前の横道からオーガが4体出てきた。

 

 この世界のユートから引き継いだスキル『錬気術オーラ』の練習にもってこいだな。


 実はあのスキルを先日正式に継承した際に、ただ魔力をオーラに変えて戦うスキルじゃないと判明したのだ。


 どうやら、イメージした場所にオーラを発生させて攻撃力に変換できるみたいだ。

 簡単に言うと、矢が無くなったら矢をイメージすればオーラで矢を作ることが出来る。


 しかも魔力で作る為、魔法扱いとなるが物理ダメージも乗るという不思議なスキルだ。

 そういう意味では、カルマの闘気とはちょっと性質が違うみたいだな。


 というわけで、今回イメージするのは円形の良く切れるブーメラン。

 くだんの円月輪みたいなのだ。


 それを手の平の上にイメージして作成する。

 出来上がったら、ヒョイっと投げれば…。


 ギャアアアアアアオオオオオオオオオオオ!!?


 と断末魔と共にオーガたちが横に真っ二つになった。

 切れ味は問題なしと。


 また奥からオーガファイターが出てきたので、今度は投げやりをイメージする。

 良く使うジャベリン系の魔法と同じ形をイメージする。


 それがオーガファイターの頭上に出来るようにし、そこから落としてみた。


 ザクッ!と頭から串刺して一撃で絶命させた。

 あまりの不意をついた攻撃に、声も出なかったようだ。


「だいたいイメージ通りだな。これは慣れれば本数増やしたり、大きさを変えたり出来そうだ」


『今までと使い方を変えたんですか?面白いスキルですね』


 そう言い、ニケも感心していた。

 覇王の資格とやらは全く要らないが、このスキルに関しては本当に有り難い。

 この世界のユートに冥福を祈ると共に感謝の念を送る。


「ニケ達の闘気は形を固定したり出来るのか?」


『いいえ?カルマもそのまま纏う形でしか使っていませんね。私に出来るのか分からないです』


「そっかー、カルマの場合はそんな工夫とかいらないかもだけどなぁ」


 そんな事を考えながら先に進んでいくと、リン達が大きめの部屋に入っていった。

 あそこは確か…。


 

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