第141話 しつこい『客』

 外に出ると、ガガノア達が待っていた。

 俺らを見つけると皆一斉に立ち上がり、集まってきた。


「ユート!どうだった!?」


 昨日の惨敗を見せてしまったので、かなり心配掛けたようだ。


「見ての通り、上手くいったよ!出てこい、イドラ!」


 竜玉を取り出して、俺が呼びかけるとそこから幻龍が現れた。


「おお、まさしく幻龍様だ。すげーな、伝説の魔獣を捕らえちまうなんて」


「今じゃ、俺に力を与えてくれる仲間だ。このイドラのお陰で俺は冒険者としても一皮向けるかも知れないよ」


「そうか!やっぱ、昨日声を掛けて正解だったよ!俺は凄いやつに、出会ったのかも知れないな」


 ガガノアは手放しに俺の勝利を喜んでくれた。

 やっぱ、こいつはいい奴だ。


「それで、この後はどうするんだ?」


「ああ、お前の集落に寄ってからアーカニアに戻ろうと考えてるんだ。今日はゆっくりして、明日は北の大陸に戻るつもりだ」


「なるほど、せわしないな。というかあっちから渡ってきたのか!?よくあんな所を…いや、ユート達なら何でもありな気がしてきたぜ。兎に角、上手く行って良かった。おめでとう!!」


 ガガノアはそう言うと、握手を差出した。

 俺も応じて、素直に有り難うと伝えた。


 まだ実感は沸かないが、これで念願でもある最終ランクアップが出来る。

 きっと後で沸々と喜びが湧いてくるんだろうなぁ…。


 その後はガガノアの案内の元で集落に立ち寄って、森リザードマンの長にイドラを見せた。


「これで幻龍様は現れないんですか?」


『我がこの世に存在している限りは、二代目は生まれぬ。安心するが良い。その間、森の守りは他の幻獣達がやるだろう。奴等の方が取締は厳しいからな、気をつけるのだぞ?』


 【幻夢の森】には、やってはいけない事や入ってはいけない場所があるらしく、そのルールを破ると容赦無く排除されるらしい。

 

 後で聞いたが、幻龍は悪食なので見回りの際にが酷く、その被害や損害が大きかった。


 それから比べたら他の幻獣たちの取り締まりなど大したことじゃないらしいし、元からそんな事するのはよそ者くらいなので、自分達には影響ない。

 『なので、本当に感謝していますよ。』と長に言われた。


「じゃあ、今度は品物を買いに来るから色々用意しておいてくれ」


「我らを助けて頂いたのです、優先して提供させて頂きますよ。本来なら色々と物を献上したいところなのですが、今は何分生活するだけで精一杯しかない状態でして…」


「ああ、そこは気にしないでくれ。これから長く付き合っていける関係になれればそれだけで十分さ」


 それでもと、少しばかり特産品である”幻惑草”と”パニックマッシュルーム”をいくつか持たせてくれた。


 これは、ガガノアがアーカニアで言ってたやつだな。

 主に調合や錬金に使うものらしいが、現物が少しでも手に入ったのはラッキーだったな。

 

 ここらでしか採れないので、外国では高価らしいと稀に来る人間が教えてくれたらしい。

 なるほど、戻ったら王都でどのくらいで売れるか確かめてみよう。


「ありがとう、必ずまた来る。それまで生き延びてくれよ?まぁ、ガガノアがなんとかするんだろうけど」


「はは、厳しい激励だなユート。もちろんさ!一番の憂いが無くなったんだ、すぐに元の生活に戻れるよ。じゃあ、アーカニアに送っていこう」


「おう、よろしく頼むよ」


 ”幻龍”であるイドラを仲間にしたことで、【幻夢の森】とその周りの地形は分かるようになっていたが、折角の好意を無下にする必要はない。

 それに、そうすることで彼らの安全も確保出来るのでその方がいいと思った。



 ───

 リザードマンの集落から小一時間ほどでアーカニアに着いて、俺等はそこで別れた。

 中には、泣きながらあんたらは俺らの救世主だって感謝を伝えてきたヤツもいてちょっと困惑したが、本当に困っていた様子を知っていたので悪い気はしなかった。


 その後酒場では例の仮面を着けながら、食事をとり村唯一の宿で一番大きな部屋を取って全員で泊まることにした。

 もちろん、イドラは竜玉の中のままだ。


 次の日、朝食を取りに酒場に向かった。

 朝食を取ったらすぐに北の大陸に戻るつもりだったので、宿もその時に引き払いいつでも出発可能だ。


 仮面があるのでもう俺が話しても大丈夫ということで、俺がすべて注文したら獣人の店員にすこし変な顔をされたが、チップを渡してあげたら上機嫌になって対応が各段に良くなった。


「マスタ~、またあの雪山に向かうの?わたし、寒いの苦手~」


「こら、ヘカティア。私も同じですが、口に出して言うとカルマに叱られますよ?」


 ドラゴンの癖に寒さが苦手とか、弛んでるとしか言いようがないが、温室育ちの彼女らは本当に苦手らしい。


 そのせいか、冷気の耐性が一番低いらしい。


「もうクエスト終わったし、ここに置いて行ってもいいけど?」


 と俺が冗談で言ったら、


「単なる冗談であります!」


「右に同じであります!」


 と敬礼しながら変な口調で弁解していた。

 どこで覚えて来たんだそんな喋り方…。


 朝食を存分に味わい、また来るよとさっきの獣人の店員に声を掛けてから出ると、必ずですよ!と念を押されたので、どうやら俺らを上客だと認識したらしく苦笑いするしかなかった。


 外に出ると、何やら騒いでいる声が聞こえてくる。

 なんか、騎士風の戦士がわらわらと集まってこちらに向かってくる。


「いたぞ!アイツらだ!絶対逃がすな、俺のメンツを丸潰れにした事をあの世で後悔させてやる!」


 俺らを見つけるなり、騎士たちが取り囲んできた。

 

 …ああ、あの時の黒騎士か。

 どれ、価値があるように見えないが一応視ておくか。

 

 黒騎士バルバトス ランクS 種族:悪魔族

 HP:2800/2800 MP:1100/1100 SP:800/800 属性:闇 耐性:無し

 特性:闇属性耐性 闇属性攻撃増幅 精神異常耐性

 STR(力):580 MAG(魔):400 VIT(耐):380 INT(知):200 SPD(速):200

 

 うーん、スキルまでは視えないから何とも言えないけど、ハッキリ言って雑魚だな。

 この先も付きまとわれては困るし、ここは俺がやるか。


 そう思って、俺は黒騎士の前に立った。


「なんだ貴様。従者が我に敵うと思っているのか?雑魚は引っ込め。俺はあの女と男に用があるんだ!!」


 そう言って、片手で俺を薙ぎ払おうとしてきたので、そのままパシッと受け止めてみた。

 え?って顔をするので、ついでに蹴りもいれておく。


「ぐほぅっ、な、なんだ貴様ぁ!?」


「なんだ?それくらいもまともに受け止めれないのか?雑魚はお前だろ?」


 わざとらしく挑発をしてみる。

 これで乗るなら本当の雑魚だ。


「ほう、どうやら死にたいようだな?ならば望みどおりにしてやろう!シャドウジャベリン!<連鎖チェイン><バーストストライク>!」


 闇魔法からの槍スキルでの連携技か。

 ノークールで繋げて隙を見せない高度なスキルだな、さすがSランクなだけはある。


 しかし、相手が悪かったな。


 俺は、純粋に<幻体龍神>のスキルだけの力でどのくらいパワーアップするのか試したかったので、丁度いいと思っていた。


 カルマ達もそれが分かっているようで、何もせずにただ見ているだけだった。


「発動、<幻体龍神>!」

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