第106話 王都のギルド本部へ

 王都から少し離れた場所に降り立ち、そこからはカルマの眷属となったナイトメア2頭に四人を乗せて、カルマに人型に戻った双子を乗せて入り口まで来た。


 カルマも翼を隠して普通のナイトメアに偽装していたが、そもそもナイトメアが3頭ともなれば、王都の警備兵も警戒するのは当たり前だ。


 俺がSランクテイマーでサニアのギルド推薦状を持っていたので、カルマとニケ以外は中に入る事が許された。

 ナイトメア達は、召喚を解いているので、中に入れたペットはグランだけだった。


「流石に王都は警備が厳しいですね。1チームで1頭しかペットを持ち込めないなんて」


「まぁな、ペットとはいえ一般人からしたら凶悪な魔獣だ。警戒するに越したことはないんだろう。ましてや、王のおひざ元だし神経質にもなるだろうさ」


 そんな真面目な話をしている横でのんきな二人がいた。


「わぁ、ディアナ。ここが人間の王都らしいよ。アッチと違って明るくて綺麗だね」


「本当だね、ヘカティア。人の表情も明るいし、魔族と戦争している国には見えないね」


 会話が聞く人が聞いたらアウトだが、素性を知らない人々は気にする様子も無かった。

 そもそも周りが騒がしくて、聞こえもしないだろうが。


 ここ【王都ハイセリア】は、人間の王都だ。

 南の大陸と、ここ西の大陸が人間領だが、南の大陸は気温が高すぎて住める土地が少ない。


 必然とこの西大陸が人間の中心地になる。

 その中でも、ここ王都ハイセリアには多くの人間が集まっている。

 

 王都だけあって、かなり広くなっているが、城に近い土地は貴族たちが独占している。

 そのため、それらを取り囲んで円環状に城下町が出来ていた。


 まずはサニアのギルドに紹介された、ギルド本部へ向かう。


 ギルド本部は、王城の南側に位置する場所にある。

 その隣には、大教会があって儀式をするならそこでやるということだった。


 カランカランと音がなる扉を開けて、中に入った。


 ギルド本部のロビーは、サニアと違ってかなり綺麗な作りだ。

 床一面に大理石のような高そうな石が敷き詰めてあって、正直滑らないか心配だった。


 まずは、クエスト受付カウンターへ向かった。


「はい、ギルド本部へようこそ。初めて見る顔ですね。紹介状はありますか?」


 眼鏡をかけた真面目そうなギルド職員がこちらを値踏みするかのように見てきた。


 一般のクエストなどは、もう一か所にある支部の方でも受けれるので、ここには上級冒険者か貴族から紹介された冒険者しか来ないらしい。

 そのため、一見普通の俺の顔を見て、勘違いしたおっさんが来たようだと思い込んだみたいだった。


「これがサニアギルドから渡された紹介状だ。ちなみにこれが俺のプレート。あと、新設したユニオンの代表をやっている証明書な」


「ほう、なるほど。では拝見いたしますね…って、Sランク冒険者!?その歳まで王都に知られていない冒険者なんて…。内容を確認しました。すぐにグランドマスターをお呼びします。奥の部屋にお通ししますので、こちらにお越しください」


 どうやら、本物と分かって驚いたようだった。

 ここでも、Sランクであることの恩恵を受けれて何よりだ。

 やはり、ゼオスに紹介状書いて貰っておいて正解だったな。


 そのまま、ギルド職員に応接間に通されて俺はグランドマスターなる人を待っていた。

 俺の後ろにはカイト達が立って控えていて、なぜかヘカティアとディアナが一緒にソファーに座って出された紅茶を優雅に飲んでいる。


 いや、お姫様だし?ランクも高いけども…それはどうなんだ?


 しばらくすると、扉がノックされて秘書らしき人物と一緒に、いかつい顔をした壮年のおっさんが入ってきた。


 ただし、なかなか威厳がありそうな顔だ。


「待たせたな。失礼するぞ」


 そう言って、グランドマスターらしき男は向かい側のソファーに座った。


「俺が、このギルドの最高責任者のグランドマスターのドルガーだ。覚えてくれ」


入ってくるなり握手を求めてきたので、握り返しながら挨拶する。


「初めまして、俺はユニオン『ウィンクルム』の代表のユートだ。今日は、紹介状にある通りメンバーのランクアップクエストを受けさせるために、サニアからはるばるやってきた。早急に手続きをお願いしたい」

 

 俺は簡潔に要件を伝えた。

 だがしかし、紹介状を見たドルガーは片眉をあげて質問してきた。


「ん?この紹介状にはお前もランクアップすると書いてあるが?」


「ああ、俺のランクアップは後だ。先にメンバーのクエストを受けておきたい」


「何か理由はあるか?」


「俺はやる事あるんでね、先にそっちを済ませてから受けようと思っている。今日は先に顔合わせをしとこうと思って一緒に来たんだ」


「ふん、あのゼオスに紹介状書かせたんだ、信用はするさ。

 では手配は掛けておこう。後は職員にクエスト発行させるから、準備が出来たら話し掛けろ。じゃあ、健闘を祈る」


 ドルガーはそれだけ伝えると、そのまま去っていった。

 秘書の女性が、『彼はいつもこうですから』と苦笑いしていた。


 その後、カイト達はギルドカウンターでクエスト発行の手続きをした。

 いつもの羊皮紙ではなく、金色のプレートに刻まれた小さなプレートを渡されたようだ。


「こんなのもあるんですね。初めて見ましたよ」


「俺もこっち来てからは、まだランクアップ受けてないから知らなかったよ。Sランクだからか?」


 とある理由で、見る機会を失っているのだが、それを知る由はない。

 初めてみるそれを眺めて、随分年季の入ったものだなと思った。


「じゃあ、俺らはこのまま北にある嵐の神殿に行く。カルマがいるから大丈夫だと思うけど、あまり無茶なやり方はするなよ?慎重にな」


「分かりました。あの時で懲りましたので、準備万端にして一人づつクリアしていきますよ」


「ああ、それがいい。アイナとザイン。しっかり皆をセーブするんだぞ?」


「はい、お任せください」


「承知しました。2度と危険な橋は渡らせません」


 カイトは苦笑いしていたが、アイナとザインがしっかりと返事してくれたので問題はないだろう。


「それじゃ、終わったらこの街で落ち合おう。じゃあ、しっかりな!」


「ユートさんもお気をつけて!」


「行ってらっしゃいなのです~」

 

 全員に手を振り見送られて、俺とディアナ、へカティアはニケが待っている街の外へ向かった。



 …そう、街の外へ向かった筈だったんだが、今は何故か屋台の前に来ている。


 理由は簡単だ。

 へカティアとディアナが途中であれ食べたいこれ食べたいと、色んな人間の食べ物に興味を持ったからである。

 

 最初は、ディアナが『マスターの用事が優先です、行きますよ』とへカティアを宥めていたが、途中で"クリーム巻き"というクレープに似た食べ物を見つけた途端、甘い匂いに負けて一緒になってねだってきたのだった。


「リンとか、これ見たら食い付くだろうなぁ」


 とか独り言をいいつつ、結局俺も食べていた。

 ちなみに、結構美味い。


 クリームに独特の風味があるので、牛乳ではないだろう。

 多分、めん羊乳だと思う。

 この世界で牛乳は滅多に見ないからね。


 クリームと果物を混ぜたものを小麦粉を溶かして焼いたもので巻いているだけのシンプルな物だが、その分に素材を活かしていた。


 砂糖は貴重な物の筈だから、この甘みもメイプルシロップか、ハチミツなんだろうな。


「ん〜〜!人間ズルい!ズルいよね、ディアナっ!」


「本当に、そう思うわ。これはお屋敷のルガーさんに頼んで作ってもらいましょう、へカティア」


 ふたりはクリーム巻きを食べて、口の端にクリームをくっつけながら談議していた。

 

 俺は半分ほど食べてから、二人にも食べながらでいいから向うよと言って外へ向かった。

 残した半分をニケにも食べさせてあげて、やっと3人ともニケに乗って出発するのだった。

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