第93話 避けられない戦い
「ふふふ、やーっときたー!」
「待ちくたびれて、眠くなってきたよぉ…」
扉を開けると【ロードオブアビス】はそこにはいなかった。
その代わりに可愛らしい二人の少女達が待ち構えていた。
「ありゃ、先客がいたのか。えーっと…どちら様?」
もしかすると冒険者が先に攻略していたのかと思い、思わずそう相手に尋ねてみた。
だが、ここまで敵が倒されていた形跡は無かった。
なのでそんな筈はないと、頭では分かっていたはずだが…。
だがそこで、カルマがいきなり戦闘態勢を取った。
ニケも同じく、防衛行動を取った。
「主、下がってください。あ奴らは危険です!」
『主様、私達が前に出ます!全員を下げてください』
いきなり緊迫した声を出すふたり驚いたが、冷静に全員に号令を出す。
「全員防衛体制!守りを固めて警戒を解くな!」
何事か理解できぬまま、あれがボスなのかと思い全員が守りを固める。
だが、その様子を見て二人の女の子はクスクスと笑うばかりだ。
「やだー、虫けらたちが何かを喚いるよ、おねーちゃん」
「ほんとだねー。煩いから消し飛ばそうかなぁ?」
クスクスと嗤い、ずっとこちらを見ている。
まるで、俺らなどいつでも殺せると言わんばかりだ。
俺が知る限り、ここのボスはあんな女の子ではないし、そもそも2体も出てこない。
何よりも、あんな風に会話しているモンスターなど見たことも無い。
だとするとあの二人は…。
「さーて…、そこの馬の姿に化けている悪魔。オマエは【カルマ】だろ?」
「なんであんな姿なんだろうね~?変なヤツだねー」
いきなりカルマの名前を呼ぶ二人。
カルマがやはりと言いつつ、ふたりに話しかけた。
「なぜ、お前たちがココにいる?魔都に居る筈だろう」
カルマが相手を知っているかのように質問を投げかけた。
…やはりか、だとしたら非常にまずいな。
「んー。だってさ。アモンが魔力をかなりすり減らして帰ってきてたからさ、何処で遊んできたのー?って聞いたら…、
「そうそう、私達だってさー。ほんとは遊びに行きたかったのに、魔王様がダメって言うから我慢してたのにズルイよねぇ。でもアモンがいいなら、私達だって遊びに行きたいからぁ~。…というわけで、カルマと遊びに来ました~!」
二人はとんでもない事を言って抜かす。
という事は、アモンと同格の存在。
つまりは【魔王幹部】ということだ。
「ふん、我は忙しいのだ。城に帰るがいいぞ”ヘカティア”と”ディアナ”よ」
『やはり、あの気配は【魔王幹部】ですか。なんという魔力…」
「えー、やだー。せっかくさ、いい物を持ってきてあげたんだからー、遊ぼうよ~」
「そうそう!私達がこんなめんどくさい事をわざわざやってあげたんだから、付き合ないとねぇ~。断るならぁ…、そこのニンゲンっ喰っちゃうぞ~?あはは!」
無邪気に言う二人を余所に、こっそり〈生物鑑定〉してみようとしたら”測定不可”と出た。
うわー、まじかよ。
「あ!そこのニンゲン!私の事を覗き見しようとしたなー?そんなエッチな事をしちゃダメだぞー?」
「そうそう、私達にそんなスキルは通じないんだからねぇ。無駄無駄ぁ~」
最初の登場から無茶苦茶だが、鑑定系スキルが通じないとか聞いたことが無い。
想定外過ぎて対応に困った。
ここは即逃げるのが正しいと思えるが、逃がしてくれるような気は全くしない。
カルマに用事があるようだし、ここに囮として置いていく、という手がいい気がするがその場合二度と会えない気がする。
それだけはダメだ!
自分の相棒を犠牲にして、自分だけ助かるとかは二度としないと決めたんだ。
とはいえ、どうしたもんだかな…。
あ、そういえば、いい物持ってきたって言ってたな。
一体何だろう?
「えっと…、ヘカティアとディアナが持ってきた”いい物”ってなんだい?」
ひとまず、恐る恐る二人に質問を投げかけてみる。
「ぶー、オマエになんかと話をしてませーん。でも、折角だから答えてあげるね」
「そうそう、だからってチョーシに乗るなよ~?…ふふふ、”いい物”それはね~。カルマの”本体”だよ!」
俺と話なんかしないと言いつつ、答えちゃう辺りは子供っぽい反応だな。
てか、…え、何?”本体”って。
言っている意味が全く分からないな。
「!貴様ぁ…、それを何処で見付けてきた!」
カルマが珍しく動揺した反応を見せる。
あのカルマがそんな反応するなんて、かなり重要な物みたいだな。
「あはは、驚いているねぇ~。ふふふ、この間暇だったから”たまたま”さ【闇の神殿】に行って来たら、地下の奥ふか~くに置いてあったから、貰ってきちゃった!あははっ!」
「そうそう!なんか、闇の精霊たちが守護してったっていうの?ウザかったから、消し飛ばしてきたけどね~。あ、大丈夫だよ?飾るためにちゃんとキレイに保管してたから、傷一つないから!」
そう言うと、どこからかポンっと取り出したと思うと、大きな水晶の塊が出現した。
中には、なんだろう…男の俺から見ても美しいと言えるほど整った顔の男が眠ったように封印されている。
しかも、今のは…"ストレージ"から出した?
もしかして、魔族も使えるのか!?
「さーて、じゃあ今からゲームを始めます!参加者はカルマとそこの白いやつ!」
「うんうん、ゲーム内容は…この砂時計の砂が落ち切るまでに、この水晶を護りきる事!簡単でしょう?」
と、今度は人間大ほどある砂時計をポンと出した。
内容からして、あの水晶はカルマの
持ち出された時点で受けるしか無いと言う訳だ。
うわあ、エゲツない内容だな。
二人は俺から見てSSを超えた存在と思われる。
強いとは言ってもSランクの魔物達がそんな存在から攻撃を耐えるだけなんて、楽勝どころか何分持つかも分からない内容だった。
なんとか俺も参加しないと、かなり厳しいな。
「えっと…このゲーム、二人から見て取るに足らない存在の人間である俺が補助しても問題ないよな?」
「!?駄目だ主よ!すぐにここから離脱するのだ!」
俺の意図を理解して慌てて止めようとするカルマ。
だが、そもそも逃げれる相手ではないのだ。
最善の手を打つしか方法が無い。
「んー、いいよぉ。君等が何人居ても変わんないし」
「そうだねー。んー?…そこの飼い主君は、面白い魂持ってるね。よし、君だけ許そう!他は、ウザいから寝てなよっ!!」
そう言って天に手を翳し、詠唱も無く魔法を発現させる。
俺たちの上空に無数の魔法陣が現れたかと思うと、そこから大きな表情の無い顔がいくつも現れる。
現れたそれは、──
ビリビリと空気が震えるほどの絶叫が、フロア全体に広がった。
俺以外のメンバーとピューイが、抵抗する暇もなく気を失ってしまった。
大勢のAランクをたった一発の魔法で昏倒させた。
まさに、規格外だ。
てか、あれは一体何だ!?
「くっ、"スケアリスクリーム"か、厄介な魔法を使う」
とカルマは知っている魔法のようだと、その言葉で判明した。
「カルマ!どっちにしろ逃げられないんだ。やるしかないぞ!」
「くっ、アヤツらを全く感知出来なかったとは不覚。主よ、ここは何とかしますので支援をお願いします!」
『ここで勝つにはカルマ、貴方に掛かっていますよ!』
ニケも覚悟を決めたようだ。
カルマに秘策があるようだし、ここはなんとかしないと。
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