第38話 闘争と逃走

 これでなんとかガント達を脱出させれるはずだ。

 ここが勝負どころだ。


「そこのイケメン!俺らに喧嘩売ったことを後悔させてやるからな!」


 自分も、クロスボウと双剣に神秘で聖属性と光属性を纏わせて攻撃準備をしながら啖呵を切った。


「ふん、強い魔物の影に隠れるしか能のないテイマーが何をほざくか…。お前は要らないんだよ。さあ、死ね!」


 男がまさに技を発動しようとしたところだった。


「眷属召喚!”デーモン”!…食らうがいい、グラビティフィールド!…ダークネスバースト!」


 そこでカルマが俺が見たこともない眷属である悪魔を召喚し、同時に重力魔法で足止めし、さらに悪魔達と同時に闇魔法を無数に撃った。


『その刃を降ろさせません!雷の大精霊たるファルコニアが命ずる。すべてを貫く雷の炎で彼のものを撃ち抜け!〈天雷・閃〉!!!』


 カルマ達の魔法とほぼ同時に、ニケから極大の青い稲妻を纏った光が撃ちだされた!


 あたりが、二人の魔法とスキルの光で明滅する。


「ぐううううううううううううおおおおおおおおおおっ!!!!」


 男の断末魔のような声が聞こえてきた、直撃したはずだ!

 頼む、終わってくれ。

 

 光が引いて視界が戻ってくる。


 ───しかし。

 男はまだ立っていた。


 体中から煙を上げている。

 満身創痍であることは間違いない。


 だが、その手には刀が握られたまま。

 そしてその先には…


「ぐ…惜しか…ったな。だが…もうこれで終わりだ。〈絶・界〉!ふふ、楽しかったよ獣どもよ。時間が無くなってしまったのでな。さらばだ」


 刀を振り下ろすと、すぐさま男は空間に吸い込まれるように消えていった。


 だが、振り下ろされて発動したスキルは、そのままこちらに向かってきた。


 その大きな黒い球体が地面に落ちると、暗黒の巨大な光が辺りを覆いつくした。

 と、同時に。


「うがああああああああああああああああっ!」

 体がちぎれるような激痛が走った。

 一瞬で、俺の意識は飛び、失われた。


 …遠くで、「主を守れ!」というカルマの声と『私達が盾になるのです!』という、ニケの言葉だけが聞こえた気がした。



 ───その時、ガント達は全力で引き返していた。


 後ろで、すごい爆音や振動が響いてきていたのを無理やり意識から外し走り続けた。


「いくらなんでも、あんなのないぜ・・・」


 ガントはボヤかずにはいられなかった。


 いままで、無敵のように戦ってきたユートやそのペット達が、一方的にやられている姿など想像もしなかった。


 特にカルマとニケは、自分的にはあの二匹がラスボスなんじゃないかと思う程だったのだ。


 それが一瞬でも地に伏せる姿を見たときに、死を感じてしまった。

 その時に先日のユートの言葉が思い出された。


 この世界で死ねば、俺らはそこで終わりだと。

 ここはゲームの世界ではないんだと。


「ちくしょう!ちくちょう!あいつを置いて逃げるなんて!…でも、せめてこの子たちを逃がさないと、ユートに顔向け出来ないっ!!」


 唇の端を悔しさで血を滲ませながら、全速力で逃げる。


 後ろからは追ってはこない。

 幸いにも、まだ天使たちにも遭遇していない。


 そのまま、ひたすらダッシュしていたとき階段が見えた。


 …天使たちは…いない。

 まだ、生まれる時間にはなっていないようだった。


 そのまま階段を下りていき、目の前にある部屋を見渡した。

 大丈夫、誰もいない。


「くそぅ!なんだったんだ。とりあえず1時間ここで待つ。フィア、クロ、ゲンブ!頼んだぞ。ここで俺等を守ってくれ!」


 その言葉を受けて、にゃーとウォン!とグオオンと返事を貰った。

 ガントはありがとうなと言うことしか出来なかった。


 しばくらして、中から顔面蒼白になったリンとシュウが出てきた。

 二人も、あの壮絶な光景を目の当たりにしていたのだ、恐怖で泣き出してもおかしくないくらいである。


 しかし…。


「パパは…パパどうなったの!?」

「ガントさん!ユートさんは?ニケは?カルマは!?」


 だがそれよりも、二人中で大切な人になっていたユートの事が心配であることが勝っているようである。


「あいつなら、…絶対なんとかする。信じろ。信じてここで待つんだ。今の俺らでは、戻っても単なる足手まといでしかない…!」


 悲痛な表情で、だが反論は許さない厳しさを持って二人に言う。


「でも!!…ううん、そうだね。その通り、…その通りだね。それなら…ここでパパが戻ってくるのを待つ。それくらいしか出来ないから!」


 既に、こぼれた涙を気にもせずに、しっかりと前を見据えてリンが頷いて言った。

 いつも思うが、本当に芯の強い子だ。


「俺も、待つよ。まだまだ弱っちいけど、でもここを守るくらいなら役に立って見せるから!」


 シュウも、ユートがここに戻ってくるのを信じて、しっかりと返事をした。


「よし、二人ともエライぞ。そうだ、俺らがここを守ってあいつが戻ってきたらすぐ帰れるようにするんだ」


 そういいながら、ガントは荷物チェックをする。

 最悪の一歩手前を想定し、最高級ポーションの数を数えた。


 魔法で回復出来るものはここにいない。

 なのでアイテムだけが頼りだ。


 ポータルまで戻れと言っていたが、途中のボスの事もある。

 ユートの指揮が無い状態で、どこまで今のメンバーが戦えるか不明だった。


 最悪の場合は、このメンバーでSランクボスを倒さないといけない。

 それならば、雑魚相手に戦ってここで待ってたほうが安全だ。


 もし1時間が過ぎたら、かなり分が悪い賭けになりかねないが戻るしかない。

 ボスは、時間的にはぎりぎり出現してないと思われるが(LBO時代と同じ間隔ならばだが。)、出来るだけ回避したいのが本音だ。

 

 さっきの男が追ってきた場合だが、その場合はもはやどうにもならない。

 遭遇した時点で、正直諦めるしかないと思っていた。


 三人と三匹は、ユートがいつでも戻ってきてもいいように準備を進めるのだった。


「ユート…、絶対帰って来いよ。」


 ガントは、無意識に心の声を外に漏らすのであった。

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