第26話砦の異変
陽も完全に落ちてあたりは闇が支配しているが、【ライト】はもちろん松明も使えない。
砦の場所を知っているタックと、ダークエルフの種族特性で夜目が利きさらに索敵力もあるミリゼットが2人並んで先頭を歩き、オレとメルルはその後に続いている。
街道から少し外れればそこは鬱蒼とした森の中。昼間ならなんていうことのない場所なのかもしれないけど、暗闇というのはそれだけでも恐怖心を煽ってくる。
少し風が強く吹いてガサッと音がしただけでビクビクしてしまうのは、夜でも明るい都会で育ったオレにはいかんともしがたい。
だいたい夜の冒険なんて鉱山に行く前に練習でちょっとキャンプをした時くらいしかないんだ。
だからタックにミリゼットよ。オレがビクッとするたびにくすくす笑うのはやめてもらおうか。
「よし、ここからは街道を外れるぞ。罠がしかけられているかもしれないから注意を怠るな。特にミリゼットちゃんには期待してるからな。それとこの先は会話は最小限にする。ハンドサインで合図する場面もあるかもしれないから見落とすなよ」
案内に従って街道から伸びている小道に入っていく。
「上り坂になってるんだな」
「もともとはオーク対策の砦ですからね。高台に作ってあるのは、警戒できる範囲を広げるためなのでしょうね」
独り言くらいのつぶやきに、メルルが小声で返してくれた。
しばらく進んだところで、タックが止まれの合図を送ってきた。
指で何かをしめしていたので目をこらしてみると、紐に木片が吊らされた仕掛けがあるのが分かった。鳴子というやつだな。
ミリゼットがトラップを慎重に解除する。
途中でもう1か所鳴子の罠と草を結んだだけの足を取るための罠を解除して、歩くこと5分ほど経っただろうか。ようやく砦が見えてきた。
「……おかしいな」
「ああ、これはおかしい」
「何がだ?」
タックとミリゼットが何かを不審がっているが、オレには彼らが何を不審がっているのかさっぱりと分からないので、素直に聞いてみる。
「砦の門が開いている。しかも、普通に開けたんじゃなく力で強引にぶち破ったって感じだ」
「それだけじゃない。争ったような跡がいたるところにある。これは……血の匂いだ」
言われてみれば確かにそうだ。鉄臭いようなこの匂いは、魔物の解体の時に嗅いだ血の匂いにそっくりだ。
それに、門の周辺の地面に争った痕跡が見える。
「裏に回ってみよう」
砦からある程度の距離を確保したまま、裏口側まで回ってみる。近づくほどに血の匂いが強くなってくる。
「うっ……」
「これは……ひどいな」
そこにあったのは、数頭のオークの死体と、引きちぎらればらばらになった盗賊たちの死体。
「見ろ。この死体、ブルックだ」
「なんだって!?」
ブルックといえば、今回の首謀者で、盗賊の団長だ。
それが、死んでいる?
「ミリゼット、間違いないのか?」
「わたしもブルックの顔は見たことがある。これは……間違いなくブルックだ」
わけがわからない。砦がオークに襲われた? ブルックが殺された? こいつはAランクに近い実力だって言ってたよな? 正面の扉を破壊されて裏口から逃げ出して?
「血がまだ乾ききっていない。まだ襲われてからそれほど時間も経っていないみたいだ。ミリゼットちゃん、近くに人やオークの気配は?」
「いや……少なくともこの近くには何もいない。砦の中まで気配は分からないが、おそらくこの様子ではもぬけの殻だろう」
「そんな! それじゃあキャスカは……ぐはっ!」
バチンという音をたてて、オレの頬をタックがはたく。
「落ち着け。まず、ふたてに分かれて砦の中を捜索しよう。敵がいたとしても、避けられそうなら無理に戦うな。キャスカの安否の確認と、何が起こったのかの情報収集を行う。いいな?」
頬の痛みが引いてくると同時に、冷静さも戻ってきた。
「わかった。すまない、頭に血が上ってしまってたみたいだ」
「気にするな。オレだって同じさ」
その後しばらく砦の中を捜索したが、あったのはオークと盗賊の死体だけ。
キャスカの姿はどこにもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます