第22話言い知れぬ不安感の中で

 ナナから話を聞き終わった頃には、もう陽もかたむきかけていた。


 そろそろみんなも寮に戻ってる頃合いかな。オレもそろそろ戻るか。


 念のために道中にあるビキニさんから教えてもらったキャスカ立ち寄りポイントには再度寄ってみたけど、残念ながらとくに目新しい情報は手に入らなかった。


「あ、ヒカリ殿」


「悪い、ちょっと遅くなったな」


 寮の入り口前にはメルルとミリゼットがすでに待っていた。どうやらオレがいちばん最後だったらしい。


「わたしたちもさっき戻ってきたばかりですよ。それで、キャスカさんの目撃情報はありましたか?わたしたちが聞きまわったところでは、特に目撃情報は無かったのですが……」


「オレのほうも目撃情報は無かった。ただ、少し気になる話は聞けたけどな」


 ナナからの話がオレの中のモヤモヤした不安感を煽る。


「気になる話?」


「ナナから聞いた話なんだけどな。それでちょっとビキニさんに話を聞いてみたいんだけど、ビキニさんは?」


「近所の主婦たちから話を聞いてたらしいけど、今は寮で職員さんたちの食事の用意をしているみたいです。呼んできましょうか?」


「頼めるか? ああ、ふたりで行く必要はないだろ。 オレをここにひとりにしないでくれ」


 昼はここで近所のマダムたちの好奇の視線にさらされて……あれはきつかった。さすがにもう

 ごめんだぞ。


 結局メルルが呼びに行ってミリゼットが残ってくれた。ありがとう。


「メルルちゃんから聞いたよ。たいした情報は無かったんだって?」


 出てきたビキニさんはだぼだぼの割烹着にエプロン、三角巾姿の給食のおばちゃんって感じだな。うん、良かった(ビキニじゃなくて)。


「正確に言うと目撃情報は無かったんだけど気になる情報があってさ。それでもしかしたらビキニさんも知ってる話なんじゃないかと思って話を聞きたいんだけど」


「聞きたい話ねえ。アタシにもちょっとした話はあるんだけど、それじゃあお兄ちゃんの話から聞こうかねえ」


 キャスカにしつこく言い寄る冒険者の男がたくさんいたこと、そして冒険者行きつけの居酒屋でオレのことで既成事実だなんだとキャスカとナナが盛り上がっていたことを伝えると、ビキニさんがどんどん真顔になっていく。


「どうやら、だいぶきな臭いみたいだねえ。いいかい、アタシの話っていうのはねえ……」


 彼女の話はオレの考えを裏付けしていく。


 どうやらビキニさんも、キャスカに言い寄る奴……もうストーカーでいいか。そのストーカーには気が付いていて、何度か寮を覗いているところを追っ払ったこともあるそうだ。


 そして今日、近所のおばさん達に詳しく話を聞いてみたところ、そのストーカー冒険者が近隣を荒らしまわって手配されている盗賊団のメンバーらしき男と話しをしているのを目撃したという人がいたんだそうだ。


 オレの中の嫌な想像がどんどん膨らんでいく。


 キャスカに何度言い寄っても全く相手にされなかったストーカー野郎。


 そいつが、オレとキャスカが親しくしている噂を耳にしていたとしたら?


 ナナとキャスカがふざけて既成事実だなんだと居酒屋で話していたのを聞いていたとしたら?


 キャスカに一方的に抱いてた愛情が愛憎を飛び越えて憎悪に変わったとしたら?


 キャスカを他の男に取られるくらいなら、いっそ……と考えたということは、充分にあり得るか。


「ギルドへ戻ろう。ギルドマスターにその冒険者のことを詳しく聞く必要がありそうだ」


 オレの言葉に、全員が真剣な顔で頷く。


「キャスカのこと、頼んだよ」


 ビキニさんの言葉に片手をあげて答えると、ギルドまでの道を一目散に駆け出した。




 ガララン


 扉を勢いよく開けギルドに飛び込むと、昼と同じ受付嬢にすぐにギルドマスターの部屋に案内された。


「待っていたぞ。どうだった?」


 ナナから聞いた話とビキニさんから聞いた話、それらの情報から推理したオレの話を聞いたギルドマスターは、眉間を抑えながら声を絞り出す。


「……その冒険者の名前はブルック。そしておそらくバックにいるのは……盗賊団【死の牙デス・ファング】だ」


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