Turn109.勇者犬『白龍様の祠』
日が暮れるとマローネは何やら荷物をまとめ、外出の用意を始めた。
「ワンちゃんは、お家で待っててね」
そうは言われたが、家の中でじっとしている気にもなれなかった。
「ワンワンッ!」
不本意であったが、一応、駄々をこねるように鳴き声を上げるとマローネにもその意思が伝わったようだ。
「あら、ワンちゃんも行きたいの? うーん。でも、大丈夫かしら……?」
マローネは少し躊躇しつつも、最終的には僕の体を抱き上げた。
「これから『白龍様の祠』に捧げものをしに行くのだから、ワンちゃんには余り面白くないかもしれないわよ? それに、目を付けられたらワンちゃんだって食べられてしまうかもしれないし……」
マローネは紫色の宝石が入った麻袋を手に取りながら、困ったように首を傾げた。
「ワンッ、ワンッ!」
「あら? そんなに行きたいのなら……うーん。多分、大丈夫だと思うけど、大人しくしていてね」
マローネは僕の頭を優しく撫でながら頷いてくれた。荷物と僕を抱えつつマローネは家を出て行った。
◆◆◆
村の広場には村人たちが集まり、手にはそれぞれ松明を持っていた。
「フムフム……」
ゴードンが広場に集まった村人たちの顔を順々に見ていく。
「どーやら、全員、集まったようですねー」
村人全員が集結したことを確認するとゴードンは頷いて、お供に金銀財宝や食料品などを積んだ荷車を引かせた。それは村人ひとり一人が持ち寄ったものを乗せたもので、かなりの量になっている。
重量もそれなりにあるようで、村人たちも手伝いながらなんとか荷車を動かした。
「それじゃあ、我々も白龍様の祠に参るとしようぞぉー」
荷車が動き始めると、ゴードンが残った村人たちに呼び掛けて歩き始める。その後に続いて、残りの村人たちもゾロゾロと移動を始めた。
──白龍様?
マローネもそうだが、このゴードンが口にした白龍様なるものの実態が分からず首を傾げる。
「なぁ、白龍様の貢物はどうなった? お前んとこ、苦しいって言ってたじゃないか?」
「そりゃあ、なんとか生活を切り詰めて持ってきたさ。白龍様のお供え物を、ケチるわけにはいかんからなぁ……」
『白龍様の祠』なる場所に向かって歩く中、ふと村人たちの会話が耳に入ってきた。
「おー。よく、頑張ったじゃねぇか」
「当然だろう。白龍様に目ぇつけられて、襲われたらたまらねぇからな」
「そーいや、村長さんが言ってたな。お供え物をケチって白龍様のお怒りを買って噛み殺された者も居るってな。恐ろしいものだな……」
村人たちはブルリと身を震わせた。
──なるほど。
どうやら、白龍『様』などと敬称されてはいるが、村人たちにとっては恐ろしい存在であるのだろう。
白龍──。
それがどんな姿形をしているかは分からないが、人々を苦しめるのであれば見過ごすわけにはいかないだろう。
僕は大人しくマローネの手に抱かれながら、様子を見守ることにした。
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