Turn90.勇者『先輩後輩の亀裂』
「てりゃぁああ!」
金属バットを振り回してきたブチの攻撃は単調だった。力任せに大振りでブンブンと闇雲に振るうので、目で見てからでも反応ができた。
僕は、バット握るブチの手を思い切り殴ってやった。
「いってぇっ!」
ブチはイタミからバットを離して、落としてしまう。痛みに顔を歪めるブチに隙ができたので、僕はその腹に膝蹴りを打ち込む。
「うぁああぁあ……」
ブチは土の上に倒れて悶絶した。
「ひ、ひぃいぃぃっ!」
腰砕けた樹月が地面に尻餅をつき、ガタガタと体を震わせた。
「なかなか、やるようだな……」
一方、轟は堂々として感嘆の声を漏らした。
樹月は飛び上がると、急いで轟の背中に隠れた。
「や、やっちゃえよ……」
「はぁ……。だらしのない先輩ですね……」
轟は、そんな樹月の体たらくさに呆れてしまう。
「口ばっかりで、うんざりですよ。一発、殴らせて下さい」
「えっ……? ぐへぇっ!」
樹月の顔面に強烈な轟の拳が突き刺さる。鼻血を出した樹月は、後ろに倒れた。
「まったく、迷惑なんですよ……。俺らを好き放題振り回して……少しくらいは自分も動いたらどうなんですか?」
痛みに悶える樹月に対して、轟はここぞとばかりに日頃の恨みを口にしていた。
轟の注意は樹月に向いていたが僕は油断をせずに拳を構えていた。
一通り愚痴ると、轟は満足したようだ。息を吐くとくるりとこちらの方を向いた。
「見りゃあ分かるよ。あんた、俺らより強いだろう?」
轟が頭を抱えながら溜め息を吐く。
「……だったら、始めったからこんな先輩に捕まらず、返り討ちにでもしていてくれれば、こんな面倒なことにはならなかったのにな……。こうなってしまった今更なら仕方がないことだがな……」
それに関しては、僕もそう思うことである。ブラックアウトさえしなければ、そもそもこんなことには巻き込まれていなかっただろう。
「俺にも意地ってものがあるからね。一応は、挑ませてもらうよ」
そう言いながら殴りかかって来た轟の拳を僕は受け止めた。
「おやすみ」
僕は轟の腹部を殴り付けた。
「うっ……!」
轟はそのまま意識を失い、地面に倒れた──。
「つ、強い……」
一部始終を見ていた聖愛が、感嘆の声を漏らす。
僕は顔を押さえて蹲る、樹月の襟首を掴んで引き寄せた。
「おい」
「……ひぃぃっ!」
樹月は怯え、悲鳴を上げた。
「車はどこにある?」
「あ、あそこです……」
樹月は木々の間を指差した。ここからは見えないが、そちらの方角に彼らの車があるのだろう。
僕は精一杯にドスのきいた声を出して、樹月に言った。
「お前の仲間を車に運ぶぞ、手伝え」
「……えっ?」
「こんなところに放ってはおけないだろう? だから、手伝えよ。殴るぞ?」
「は、はひぃいっ!」
威勢良く飛び上がった樹月は、僕に向かって敬礼をするのであった。
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