第165話 虹の翼。



 ペペナボルティーナ、オブラート二世、ものむぐり。三名は必死に戦った。

 三桁か四桁か、はたまた五桁か。どれだけ居るか分からない無限湧きノノンモドキを相手に、死力を尽くして戦った。

 そして、あっと言う間に追い詰められた。


「…………何この無理ゲー。流石に萎え落ちするでしょコレさ」

「るっせぇぞ。落ちたきゃ勝手に落ちろや」

「いや、だってさ。僕らは良いけど、恋児魅こにびちゃん達が殺られたらどうすんのさ」

「………………モノムグリだけ置いて帰るか?」

「おい貴様ら聞こえてるぞ。と言うかリワルドが滅んだらどこで幼神おさながみと会う気だ貴様ら」


 軽口を叩きながらも、最早打つ手が無い。

 なにせ、無限に湧き出るノノンはスペックこそ流石に本物とは程遠いが、それでも五割近い再現度があった。

 

 並のプレイヤーの五割再現だったなら、ここに居る三人の内の誰が担当しても鎧袖一触に出来ただろう。

 

 しかし、夜刀神やとのかみが再現して『くろいぬま』から生み出したのは、他ならない『ジワルド最強ノノン・ビーストバック』なのだ。


 夜刀神やとのかみが記憶してる、ジワルドで夜刀神やとのかみを救う為に死力を振り絞ってた時のノノンが、再現されてるのだ。


 それでも三人なら勝てたはずだ。…………敵が一人、二人程度なら。


 流石に十人、百人なんて相手に出来ない。雑魚ならそんな数居てもまとめて潰せるが、ノノンの五割再現体が三桁なんて無理がある。上手くやって拮抗がせいぜい。


 だと言うのに、夜刀神やとのかみはそんな存在を好きなだけ生み出して行くのだから、堪ったものじゃない。四桁など不可能で、五桁も出されたら何も出来ない。


 三人が耐え凌げた時間は、たったの五分だ。


 幸い、最早この都市に生存者は居ない。全て夜刀神やとのかみ飲み込んで殺してしまった。


 三人は「ノノンが大量殺人犯になる」事を阻止したかっただけなので、夜刀神やとのかみが皆殺しにしてくれるなら是非も無かった。


 むしろ、この後ノノンを呼ぶにしても、被害が増えない事を思えばむしろグッジョブと褒めたいくらいで、そこだけは三人とも良かったと思ってる。


 ただ問題は、その「皆殺し」の中に自分達も入りそうって事だけだ。


「くそっ、どうする…………」

「どうしようも、無くない? もうノノンちゃん呼ばない?」

「余りにも情けない結果だがな……」


 破壊し尽くされた都市の一角で、三人は背中合わせで座り込んでいた。


 その周囲を夜刀神やとのかみが生み出した漆黒のノノンモドキが取り囲み、手を出さずにただ見ている。


 たたずむノノンモドキの足元からは依然として『くろいぬま』が広がり続けて居るが、最早三人に打つ手は無い。


 回復薬などのアイテムも、MPも、HPも、ほぼ使い果たして瀕死なのだ。


 特にオブラートなどはアイテム特化型のプレイヤーであり、インベントリが空になると戦闘力が激減するし、MPが切れた妖精種だって置物より無価値になる。


 この場でまだ戦えそうなモノムグリと言えば、物理しか手段が無い故に夜刀神やとのかみと最も相性が悪く、斬っても斬ってもダメージを与えられない。



 文字通り、詰み。




 だから。





「…………《フォール・オブ・サンライト》」






 その四人目は必然だった。


「やっぱ、来たのか--…………」


 妖精の呟きをかき消す様に、

 破壊し尽くされた都市の瓦礫も、今この場で戦っていた三人のプレイヤーも、何もかも吹き飛ばし、消し飛ばした。

 まさに太陽と呼ぶしか無いその魔法は、空より来たりて国を焼いた。


『な、なに…………?』


 墜ちたに焼かれ、焼け焦げた更地と化したロードハートの王都全域に残ったのは、体積を大きく減じた『くろいぬま』のみ。


「…………師匠に、オブさんに、ぺぺちゃん。諸共もろとも消し飛ばして、ごめんね。でも


 全てを焼き滅ぼして天より現れたのは、



 それを一言で表すならば、虹色に輝くネコミミ天使。



「ここで名乗り口上…………、と行きたいところですが」


 虹の黒猫は『くろいぬま』に向けて手を伸ばす。



 かつて届かなかったその手が、今度こそ届く様に。


「まずは、お話し出来るくらいに。…………ヤるよ! 久々の全力だッッ!」


 その身から迸る魔力は、たった一人のプレイヤーが持ちうる上限値を遥かに超越していて--…………


「最大出力っ、《エターナルフォースブリザード》! 相手は死ぬ!」


 --そして、世界が凍った。


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