第124話 代償の重さ。



「まずはですね、オブさんがお城に行った後の経緯を簡単に」


 オブさんとゴザルさんたちは、隣国からレイフログに行くための船が出てる港町で別行動となった。

 原因はそこでしゅんっとしてる可愛い猫ちゃんらしい。

 その猫ちゃん、恋児魅こにびちゃんは、オブさんたちと出会って行動を共にしたけど、契約はしなかったらしい。

 それ、幼神おさながみ的には絶食じゃないの? 大丈夫なの?

 まぁ今は良い。それで、契約者が居ない幼神おさながみなんか、国が欲しがるのは当たり前で、恋児魅こにびちゃんの存在がバレてしまった一行は、面倒事を力ずくで捩じ伏せられる到達者組と、政争に巻き込まれたら危ないゴザルさん組で別れたらしい。

 そして、二人はどうにか穏便に国から出ようと頑張ってたんだけど、なにやらモノムグリ様が段々とだらしない様を見せるようになって来て、それにキレたオブさんは恋児魅こにびちゃんを連れて逃げ出したそうだ。


恋児魅こにびちゃんは最初、私と契約する為にオブさんと同行していたらしいのですが、幼神おさながみは契約して代償を食べないと飢えてしまいます。それにオブさんも見た目が国にバレてますから、変装する必要があったんですね」


 恋児魅こにびちゃんの代償は恋無離こいなりからノンちゃんが聞いた。確か幼児趣味の強制と、幼児化。そして見た目の成長の禁止。

 オブさんはその代償を逆手に取って、子供になる事で変装とした。なるほど、オブさん凄いなぁ。


「でも、代償の都合上、オブさんは恋児魅こにびちゃんと肌を重ねる必要がありました」

「…………ッッッ!」


 聞いた瞬間、サユちゃんが息を飲んだ。

 うん、サユちゃんはオブさんが大好きなんだもんね。それが、知らぬ間に自分以外の誰かと、大好きなオブさんが交尾してたら悲しいよね。

 でもなぁ、代償って本当に重いからなぁ。我慢し続けるって無理だと思う。これはあたし、オブさんに「不誠実!」って怒れない。

 幼神おさながみが求める代償の重さと濃さは、何よりも契約者が一番良く分かる。ただ幼児に対する恋心を増すだけの代償だろうと、恋が募れば欲情くらいする。これは仕方ない。


「一応ですね、どれくらい代償が重いのかを実演したいと思います。……恋無離こいなりちゃんの代償が一番分かり易いかな?」


 うん、まぁ、この場でビショビショになってるノンちゃんの下着とか見せても仕方ないよね。分かり難いし、見せられた方も困る。あたしは見たいけど。ノンちゃんの濡れ濡れ下着とか凄い見たいけど。

 ……ん? あれ、恋無離こいなりって事はあたしじゃん。権能で誰かに貼り付けても良いけど、あの辛い悲壮感を誰かに貼り付けるの嫌だなぁ。

 交尾してる時に相手を求めたくなる一環として使うなら良いけどさ、代償を経験した事の無い人に、いきなり泣き出すほどの距離でこれを経験させたら、下手したら心に傷が出来るよ。


「それじゃぁ……」

「ノンちゃん、あたしがやるよ。他の人にあれは辛いから……」

「えっ、いや別に私が……」

「やだ。泣いてるノンちゃん趣深いけど、それはお部屋で色々出来る時に見せてね?」


 人前でお嫁さんをギャン泣きさせたくない。ノンちゃんも同じ気持ちだろうけど、あたしが嫌なんだ。

 あたしはノンちゃんを遮って、抱き着いてた双子ちゃんの背中を押してノンちゃんの方に送り出した。もうこの時点で辛い。

 心配そうにあたしを見るアルちゃんとクルちゃんが一歩進む度に、あたしの心に冷たい刃がグサグサ刺さる。


 や、やだ……、置いてかないで……。


 違う、大丈夫、あたしは一人じゃない。

 まだ二人が五歩も離れてないのに、もう泣きたくなってる。歯を食いしばってそれを我慢して、あたしは自分からも一歩ずつ離れる。

 やだ、悲しい、一人はやだ……、傍に居て……、やっ、ぁぁあっ---











 ---------------------しにたぃ…。











「 ル ル ち ゃ ん ! 」


 気が付いたら、ノンちゃんに抱き締められてた。

 悲しくて、寂しくて、冷たくて、暖かいノンちゃんの体温を求めて抱き着いた。

 やだ怖かった、寂しい、もうやだ……。辛い、死にたい。


「えと、これが代償です」


 ノンちゃんの服がすぐにビショビショになる。あたしの涙でグシャグシャになる。

 嗚咽が酷くて喋れない。喉が悲しみで痙攣してる。

 あたし、自分が泣き出した瞬間を覚えてない。ただ悲しくて、このまま悲しいなら死にたかった。それだけが心にこびり付いてる。

 ゴザルさんと、サユちゃんと、オブさんが真っ青な顔であたしを見てる。あたし、そんなに酷いことになってた?


「この代償は、心を許したり、肌を重ねた相手から距離を置く毎に、ただひたすら絶望する代償です」

「えっ、そん、だってまだ……、十歩も離れて無いのにッ……」


 みんなにノンちゃんが説明して、サユちゃんが驚いてる。でも今はどうでも良い。もっとギュッとして。痛いくらい抱き締めて。

 ノンちゃんが暖かい。この温もりがあるなら、悲しくない。でも、寒かったら死んじゃう。あたし死んじゃう。

 もっと抱き締めて、あたしをヒトリニシナイデ…………。


「これが代償です。このくらい、重いんです」

「…………そん、な」

「これは…………」

「僕、こんなに重い代償を背負ってたんだね。自分でも認識が甘かったよ。……シルルちゃん、無理をしてくれてありがとう。代償をしっかりと知れて良かった」


 オブさんがお礼を言ってくれる。あたし喋れないから、あうあうと泣きながら頷いた。

 悲しい。ただ悲しい。辛くて苦しい。死んじゃいたい。


「ルルちゃんありがとね。あとでいっぱい可愛がるから」

「…………ぅんっ、ぅ、んっ」


 喉が勝手に、ヒックヒックとしゃくり上げる。

 あたし、何か口走ってたのかな。何を言ってたのかな。

 泣き声を聞き付けた他のお客さんもリビングに入って来て、ノンちゃんが「代償です! 恋無離こいなりちゃんの代償ですから!」って言って回る。


「ぁぁぅうぅぁぁッ……、ぁあああぁぁ…………!」


 泣き声が止まらない。


 ◇


 落ち着いた。ノンちゃんがずっとギュッとしてくれて、タユ先生も、恋濡こいぬも、恋舐魔こいなばも、恋無離こいなりも、アルちゃんもクルちゃんも、フィルたんとロアにゃんも、えっちぃ事した経験がある人は、みんなあたしを抱き締めてくれる。

 みんな仲良し。あたし嬉しい。えへへ……♡


「さて、このくらい重い代償を背負ってしまい、オブさんはその結果、恋児魅こにびちゃんと肌を重ねました。これはもう、意志の弱さとか関係ない物だと思ってください」

「………………はい」


 ノンちゃんが、オブさんの事情を説明してる。

 サユちゃんはあたしの様子がよっぽど悲惨だったのか、まだ顔が真っ青だ。心配してくれたのかな。ごめんね?

 今はもう、あたしの大事なお嫁さんと、恋人と、あと本当はダメなんだけど手を出しちゃった義妹いもうとちゃんが一斉にギュッてしてくれるから幸せだよ。


「あ、あれだけの人数を前にして、勇敢にも笑って対峙した兎殿が、斯様に泣き叫ぶ程の代償でござるか……。正直、オイラは言裸ことら殿も含めて、舐めていたでござる」

「サユも、ここまでだなんて思ってなかった……」


 えと、あたし泣いただけじゃないの? あたし何したの?

 ちょっと不安で怖くなるけど、でも良いや。みんながあたしをギュッてしてくれるから。嬉しいなぁ。えへへへぇ……♪︎


「それで、代償を食む為に行為を重ねる内に、今度は恋児魅こにびちゃんがオブさんに恋しちゃいました。それはもう、重い恋です。どれくらいかって言うと、さっき見た代償を捩じ伏せるような恋です」

「………………えっ!? あ、あれをですか!?」

「なんと……」


 待って本当に、あたしってどんな状態だったの? そんなに「あれ」呼ばわりするほど酷かったの?


恋児魅こにびちゃんとオブさんは、正直そこまで相性が良くないそうです。代償とは幼神おさながみも同時に背負う物。そして代償との相性とは本来、幼神おさながみにとって無視出来ない要素の一つなはずです。同程度に相性が良ければ契約者の選り好みをするんでしょうけど、今の契約者よりも遥かに相性が良い誰かを見付けたら、幼神おさながみは狂おしい程に求めます。…………でも、恋児魅こにびちゃんは今、オブさんよりも遥かに相性が良い私を前にして断言しました。『妾はオブが良い。妾はオブだけの幼神おさながみ』だと」


 ふぇ、めっちゃ愛されてるじゃん。え、凄くない?

 あたしがノンちゃんに向けてる恋心並じゃないのそれ。端的言うと狂ってるレベル。


「……あ、僕ってそのレベルで愛されてたんだね。……うわ照れるッ」

『ずっと言ってる。妾、オブが好き過ぎて狂うって』

「言ってた! 言ってたけど!」

『でも妾、サユも裏切りたく無い。契約もせずに付き纏った妾に、最初に優しくしてくれたのはサユだから』

「あっ、覚えててくれたんですね……」

『忘れない。妾は、オブに恋する前なら、あの中で一番好きなのはサユだった』


 仲良しだ。そっかぁ、そこまで愛し合ってるなら、ノンちゃんと一緒に食べちゃダメだよね。……残念だぁ。

 て言うか恋児魅こにびちゃん、凄い筆談するね? うちの幼神おさながみって全然しないのに。

 恋無離こいなりがあたしに隠れてノンちゃんとイチャイチャ筆談してるのは知ってるけどさ、あれって特にノンちゃんが好きだからでしょ? こんなに誰にでも筆談してくれる幼神おさながみって珍しいんじゃないの?


『だから妾、オブとサユの仲を邪魔したくない』

「……恋児魅こにびちゃんッ」

『でも、妾もオブが好き。離れたくない。離れられない。……サユ、妾は、どうすれば良い? サユが望むなら、妾は壊されても良い。幼神おさながみは壊せる。壊せば死ぬから』

「だっ、ダメだよ! 恋児魅こにびちゃん、死ぬなんて言わないでッ? サユは、そんなの望んでない!」

『でも、妾は邪魔じゃない?』

「あの、そもそも、サユはオブくんと、その…………」


 ……あ、そっか。盛りがってるけど、まずサユちゃんとオブさんの仲がそもそも成立してないんだった。


「サユちゃん」

「ぁうっ、……オブくん」

「正直今からクソみたいなこと言うけど、聞いて欲しい。気に食わなかったらユノスケくんが僕の首でも落としておくれよ。プレイヤーだからそれでも死なないけど、まだ僕はヘリオルートの聖堂にも行ってないし、ここのベッドも使ってないから、一回殺せばリスポーンで遠くに飛ばせるはずさ。そしたら一生二人には近付かないようにする」

「いや薬師殿、確かに色々兄としては複雑でござるが、オイラがそんな事したら一生サユが口を聞いてくれんでござるよ。オイラはサユの兄でござるが、でも保護者ではござらん。サユの人生も色恋も、サユの物にござる。本人が納得してるならそれで良し。納得出来なかったとしても、薬師殿の首を落とすのはサユの役目でござる。そこまで果たさずに好きだの愛だの言っていた訳ではござらんだろう?」

「……うん、ありがとうお兄ちゃん。この恋は、ちゃんとサユの物だから」


 うーん。なんか、良いなぁ。こう言う、兄妹って感じのやり取り。

 あたしもお兄ちゃん欲しかったなぁ。今からでも、妹か弟で良いから、お母さんとお父さん頑張らないかなぁ。


「サユちゃん、もし恋児魅こにびちゃんと一緒で良いと、そう許してくれるなら、僕の恋人になって欲しい」


 そして、オブさんはそう言った。

 あたしの泣き声で集まった宿泊客も居るリビングで、床に正座して頭を下げた。周りがヒューヒューうるさい。


『サユ、妾からもお願いする。妾、サユと一緒が良い。サユと一緒に居るオブの二番目が良い。そんなオブの幼神おさながみで居たい』


 どうしよう、あたしもキュンキュンしてきた。

 これ誰か、バーラさんたち、最初からこの物語を撮ってショップに売ってくれない? あたし買うから。 


「………………オブくんは、サユで、良いんですか?」

「君で良いんじゃない。君が良いんだ」

「はぁぅ……、あの、恋児魅こにびちゃんは、オブくんを、独り占めしたく無かったんですか……?」

『それも、考えた。でも、オブの優しさを踏み躙って、優しいサユを踏み躙って、妾は幸せになれるとは、思えなかった』

「…………恋児魅こにびちゃんッ」


 まって恋児魅こにびちゃん凄い良い子じゃない?

 ちょ、恋無離こいなり! 見習って! あの子を凄く見習って!

 あたし知ってるんだからね! 恋無離こいなりがちょこちょこノンちゃんを誘惑して浮気させようとしてるの、あたし知ってるんだからね! ほら目を逸らすな恋無離こいなり! 良く見ろ!

 あれが想い合う理想系だからね! あたしも独占しようとするから人のこと言えないけど!


恋児魅こにびちゃんは優しいんだぜ? 僕が、リワルドの人との間に子供を作れないって知ってさ、僕がサユちゃんを諦めようとしたらね、『それはおかしい』って凄い怒ってくれたんだよ。子供は養子を取ったって良いのに、サユちゃんと話しもせずに結論を出すのは絶対におかしいって、凄い怒ったんだ」

恋児魅こにびちゃんッ…………!」

『そ、それをバラすのは狡い。妾、そんな点数稼ぎの為に怒ったんじゃ無い』

恋児魅こにびちゃんも優しいよ! サユ、もし同じ立場だったら……」

『サユは優しい。絶対にあの時、サユでも同じことを言う。もしかしたら、もっと良い事を言う。妾は知ってる。サユは優しい』


 ほら見ろ恋無離こいなり! あれが同じ恋神こいのかみなんだよ! 恋無離こいなりと同じで交尾が必要無い代償を持ってる恋神こいのかみなんだよ!

 お手本にしなさい! ノンちゃんと隠れてイチャイチャしてるの許してるあたしって優しいんだからね!

 ほらほら! 恋児魅こにびちゃんもサユちゃんも泣き出して、抱き合ってる! 凄い尊いよ! よく見て恋無離こいなり! そして反省して!


「ぁぅぅうッ……、サユは、サユは恋児魅こにびちゃんと一緒が良いですぅぅ……」

『サユ』

恋児魅こにびちゃんと一緒にお嫁さんになりたいですぅ……!」


 ほらぁ! 見習ってぇ!


 ◇


 落ち着いた。

 サユちゃんと恋児魅こにびちゃんは、めでたくオブさんのお嫁さんになった。あたしも嬉しくなっちゃう。

 恋児魅こにびちゃんなんかもう、この世に今以上に幸せな事なんか無いって断言するような笑顔だよ。ニッコニコだよ。超可愛い。

 やっぱりノンちゃんと一緒に食べたいなぁ……。ダメかなぁ。

 地球の人はこういう時、「先っちょだけ! 先っちょだけだから!」ってゆうんだよね。あたしも恋児魅こにびちゃんに「先っちょだけ!」ってお願いしようかな。

 ……でもオブさん、ノンちゃんの師匠なんだよね。薬師だけどメチャクチャ強いって聞いたんだよね。怒らせたら殺されちゃうかな。

 うん、あたしもお嫁さんに「先っちょだけ!」とか言ってる人が居たら取り敢えず殺すや。うん。だめだ、殺される。


恋児魅こにびちゃん、良かったね? ふふふぅ、ニコニコしてる恋児魅こにびちゃん超可愛い。あ、そうだ。代償どうします?」

「あ、そうだ! サユちゃん! 僕ってこのままで良いかい!? 見た目子供でも愛してくれるかいっ!?」

「え、もちろんですよ? サユはオブくんの見た目をお慕いしていたのではありません。オブくだからお慕いしたのです」

「これ何回目か分からないけどもう一回言いますね? オブさんめっちゃ愛されてるじゃないですか」

「ほんとにね! ビックリするんだけど! 向こうの僕なんて、四十前で未だに独身なのにさ!」


 どうやら、サユちゃんが「え、子供はちょっと……」ってなったなら、恋児魅こにびちゃんの代償を恋無離こいなりの権能で貼り付ける計画だったらしい。


「え、別にそれやっちゃっても良いんじゃないの? て言うか、子供のままのオブさんとイチャイチャしてると、サユちゃんの外聞があんまり良くないでしょ」

「確かに」

「……うわ、そうじゃん。僕のせいでサユちゃんが幼児性愛者のレッテル貼られるじゃん! 代償で幼児性愛者になってるの僕なのに!」

「えと、サユは構いませんが……」


 構わないらしい。だけど全員にダメ出しされた。

 結局サユちゃんにも代償を貼り付ける事になった。えいや!


「…………ンンンッッ、ロリサユちゃんがクッソ可愛い!」

「おお、確かに幼少の頃のサユでござるな」

「えと、えへへ……♡ 可愛いですかっ?」

「「「「「可愛い」」」」」

『可愛い』


 みんなハモった。ハーモニックした。どうでも良いけど、日本の言葉って便利過ぎない? 「マジ」とか「ハモった」とかすごい使い易いんだけど。

 でも確かに、幼女になったサユちゃん可愛いなぁ。黒髪幼女が増えた。趣深い。

 でも、効能模倣の権能って永続効果じゃ無いんだよね。その辺どうするの?

 あ、恋児魅こにびちゃんが代償のコントロールすればほぼ永続? マージ? ならたまに更新すれば大丈夫そう?

 そっか。代償って幼神おさながみそのものみたいな物だし、一度繋がっちゃえばコントロールは幼神おさながみ側で出来るのか。凄いなぁ。

 ネームドスキルのコピーとか一時間持てば良い方なのに。戦闘用のネームドスキルは三分も持たなかったよ。効果の軽い【にゃあ】とか【にゃん】は一時間いけたけど。


「どうせならさ、ノンちゃんの魔法でサユちゃんも猫にしてあげれば?」

「あ、それいいねっ! タユも賛成だよぉ!」

「任せろ! 《遍く光よ》《蠢く闇よ》《揺蕩う水よ》《その身に装飾を施せ》ッッ!」


 実はこれさ、四節詠唱なんだけどさ、難易度高過ぎてノンちゃんとぺぺくんレベルじゃないと使えないんだよね。

 あたしには無理。レーニャさんも鬼の形相で「…………無理」って言ってた。四節詠唱が制御出来ないの悔しかったみたい。


「…………ぁう、えと、にゃんにゃん?」


 変身したサユちゃんが、手を猫ちゃんの形にして、クイクイっと動かしながらにゃんにゃんした。可愛い。


「かはッ……!?」

「ぐッ、ぅぅうッ……!」


 そしてロリコンなノンちゃんと、サユちゃんが幼くなって代償に刺さり過ぎるオブさんが、二人して血を吐いた。

 …………あの、それ比喩だけにしてくれる? 本当に血を吐くの心配するからさ、冗談に手が込みすぎるよ。

 ほらサユちゃん心配してるじゃん。どうせアレでしょ、赤い水が入ったカプセルをポーチから口に出して噛み砕いたんでしょ。

 さすが師弟だよ。やることソックリだよ。


『……サユとお揃い。嬉しい。ノノン、感謝する』

「あっは、サユちゃんが可愛くなって恋児魅こにびちゃんからも感謝されて、お得過ぎる!」

『妾、ノノンが気に入った。今から妾、ノノンを愛称で呼ぶ。何が良いか?』

「え、待って選べない。お姉ちゃんも捨て難いし、おねぇたんも良いし、お姉様でも姉ちゃんでも嬉しいし、お姉ちゃんシリーズは捨て難い。名前でノノたんも可愛いし--」

『だめ!』


 恋無離こいなり参戦。

 どうしたの恋無離こいなり? 急に荒ぶったね?


『む、名前は確か恋無離こいなりだったはず。何がだめ?』

『ののたんをののたんって呼ぶのは、イナリなの!』


 ほほう? それは聞き捨てならないよ恋無離こいなり

 て言うか、幼神おさながみ同士なら筆談しなくても会話出来るはず……、ああそっか、ノンちゃんに見せる為か。


『ふむ。それは悪かった。でも、提案したのは妾じゃない』

『とにかくダメ! ののたんをののたんって呼ぶのはイナリなの!』

『分かった。妾はそう呼ばない。間をとって姉たんでどうだろうか』

「姉たん呼び尊い嬉しい……。オブさん、私幸せだよぅ」

「良かったねノノンちゃん。こんなに立派なロリコンになって……」

「えへへぇ……。お嫁さんが可愛かったので仕方ないのです」

「確かにシルルちゃんは可愛いよね」


 え、なんか飛び火してきた照れる……。


「あの、ノノン様!」

「ふい? サユさん、どしました?」

「あぅ、ぇと、あのっ、サユは…………」

「はいはい。大丈夫ですよ。落ち着いてください?」

「………………さ、サユをッ! 弟子にしてください!」

「……? えと、なんのです?」

「お料理と、お裁縫と……、あの、花嫁修業がしたくて……」

「あーオッケ任せてください! オブさん! お嫁さん預かりますよ!」

「任せたよー。ノノンちゃんなら何も心配せずに預けられるよね」

「あのぅ、サユは、オブくんが特に好むと言う、ノノン様のみねすとろーね、なる汁物料理が学びたいのです」

『む、それは妾も気になる。姉たん、妾も料理出来るだろうか?』

「もちろん、教えますよ。頑張りましょうね! 二人でオブさんのほっぺたをぶっ殺しましよう!」

「物騒だよ。すごい物騒だよ。落とすだけで勘弁して。僕の頬を殺さないで」


 こうして、黒猫亭に新しい仲間が加わった。


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