第124話 代償の重さ。
「まずはですね、オブさんがお城に行った後の経緯を簡単に」
オブさんとゴザルさんたちは、隣国からレイフログに行くための船が出てる港町で別行動となった。
原因はそこでしゅんっとしてる可愛い猫ちゃんらしい。
その猫ちゃん、
それ、
まぁ今は良い。それで、契約者が居ない
そして、二人はどうにか穏便に国から出ようと頑張ってたんだけど、なにやらモノムグリ様が段々とだらしない様を見せるようになって来て、それにキレたオブさんは
「
オブさんはその代償を逆手に取って、子供になる事で変装とした。なるほど、オブさん凄いなぁ。
「でも、代償の都合上、オブさんは
「…………ッッッ!」
聞いた瞬間、サユちゃんが息を飲んだ。
うん、サユちゃんはオブさんが大好きなんだもんね。それが、知らぬ間に自分以外の誰かと、大好きなオブさんが交尾してたら悲しいよね。
でもなぁ、代償って本当に重いからなぁ。我慢し続けるって無理だと思う。これはあたし、オブさんに「不誠実!」って怒れない。
「一応ですね、どれくらい代償が重いのかを実演したいと思います。……
うん、まぁ、この場でビショビショになってるノンちゃんの下着とか見せても仕方ないよね。分かり難いし、見せられた方も困る。あたしは見たいけど。ノンちゃんの濡れ濡れ下着とか凄い見たいけど。
……ん? あれ、
交尾してる時に相手を求めたくなる一環として使うなら良いけどさ、代償を経験した事の無い人に、いきなり泣き出すほどの距離でこれを経験させたら、下手したら心に傷が出来るよ。
「それじゃぁ……」
「ノンちゃん、あたしがやるよ。他の人にあれは辛いから……」
「えっ、いや別に私が……」
「やだ。泣いてるノンちゃん趣深いけど、それはお部屋で色々出来る時に見せてね?」
人前でお嫁さんをギャン泣きさせたくない。ノンちゃんも同じ気持ちだろうけど、あたしが嫌なんだ。
あたしはノンちゃんを遮って、抱き着いてた双子ちゃんの背中を押してノンちゃんの方に送り出した。もうこの時点で辛い。
心配そうにあたしを見るアルちゃんとクルちゃんが一歩進む度に、あたしの心に冷たい刃がグサグサ刺さる。
や、やだ……、置いてかないで……。
違う、大丈夫、あたしは一人じゃない。
まだ二人が五歩も離れてないのに、もう泣きたくなってる。歯を食いしばってそれを我慢して、あたしは自分からも一歩ずつ離れる。
やだ、悲しい、一人はやだ……、傍に居て……、やっ、ぁぁあっ---
---------------------しにたぃ…。
「 ル ル ち ゃ ん ! 」
気が付いたら、ノンちゃんに抱き締められてた。
悲しくて、寂しくて、冷たくて、暖かいノンちゃんの体温を求めて抱き着いた。
やだ怖かった、寂しい、もうやだ……。辛い、死にたい。
「えと、これが代償です」
ノンちゃんの服がすぐにビショビショになる。あたしの涙でグシャグシャになる。
嗚咽が酷くて喋れない。喉が悲しみで痙攣してる。
あたし、自分が泣き出した瞬間を覚えてない。ただ悲しくて、このまま悲しいなら死にたかった。それだけが心にこびり付いてる。
ゴザルさんと、サユちゃんと、オブさんが真っ青な顔であたしを見てる。あたし、そんなに酷いことになってた?
「この代償は、心を許したり、肌を重ねた相手から距離を置く毎に、ただひたすら絶望する代償です」
「えっ、そん、だってまだ……、十歩も離れて無いのにッ……」
みんなにノンちゃんが説明して、サユちゃんが驚いてる。でも今はどうでも良い。もっとギュッとして。痛いくらい抱き締めて。
ノンちゃんが暖かい。この温もりがあるなら、悲しくない。でも、寒かったら死んじゃう。あたし死んじゃう。
もっと抱き締めて、あたしをヒトリニシナイデ…………。
「これが代償です。このくらい、重いんです」
「…………そん、な」
「これは…………」
「僕、こんなに重い代償を背負ってたんだね。自分でも認識が甘かったよ。……シルルちゃん、無理をしてくれてありがとう。代償をしっかりと知れて良かった」
オブさんがお礼を言ってくれる。あたし喋れないから、あうあうと泣きながら頷いた。
悲しい。ただ悲しい。辛くて苦しい。死んじゃいたい。
「ルルちゃんありがとね。あとでいっぱい可愛がるから」
「…………ぅんっ、ぅ、んっ」
喉が勝手に、ヒックヒックとしゃくり上げる。
あたし、何か口走ってたのかな。何を言ってたのかな。
泣き声を聞き付けた他のお客さんもリビングに入って来て、ノンちゃんが「代償です!
「ぁぁぅうぅぁぁッ……、ぁあああぁぁ…………!」
泣き声が止まらない。
◇
落ち着いた。ノンちゃんがずっとギュッとしてくれて、タユ先生も、
みんな仲良し。あたし嬉しい。えへへ……♡
「さて、このくらい重い代償を背負ってしまい、オブさんはその結果、
「………………はい」
ノンちゃんが、オブさんの事情を説明してる。
サユちゃんはあたしの様子がよっぽど悲惨だったのか、まだ顔が真っ青だ。心配してくれたのかな。ごめんね?
今はもう、あたしの大事なお嫁さんと、恋人と、あと本当はダメなんだけど手を出しちゃった
「あ、あれだけの人数を前にして、勇敢にも笑って対峙した兎殿が、斯様に泣き叫ぶ程の代償でござるか……。正直、オイラは
「サユも、ここまでだなんて思ってなかった……」
えと、あたし泣いただけじゃないの? あたし何したの?
ちょっと不安で怖くなるけど、でも良いや。みんながあたしをギュッてしてくれるから。嬉しいなぁ。えへへへぇ……♪︎
「それで、代償を食む為に行為を重ねる内に、今度は
「………………えっ!? あ、あれをですか!?」
「なんと……」
待って本当に、あたしってどんな状態だったの? そんなに「あれ」呼ばわりするほど酷かったの?
「
ふぇ、めっちゃ愛されてるじゃん。え、凄くない?
あたしがノンちゃんに向けてる恋心並じゃないのそれ。端的言うと狂ってるレベル。
「……あ、僕ってそのレベルで愛されてたんだね。……うわ照れるッ」
『ずっと言ってる。妾、オブが好き過ぎて狂うって』
「言ってた! 言ってたけど!」
『でも妾、サユも裏切りたく無い。契約もせずに付き纏った妾に、最初に優しくしてくれたのはサユだから』
「あっ、覚えててくれたんですね……」
『忘れない。妾は、オブに恋する前なら、あの中で一番好きなのはサユだった』
仲良しだ。そっかぁ、そこまで愛し合ってるなら、ノンちゃんと一緒に食べちゃダメだよね。……残念だぁ。
て言うか
『だから妾、オブとサユの仲を邪魔したくない』
「……
『でも、妾もオブが好き。離れたくない。離れられない。……サユ、妾は、どうすれば良い? サユが望むなら、妾は壊されても良い。
「だっ、ダメだよ!
『でも、妾は邪魔じゃない?』
「あの、そもそも、サユはオブくんと、その…………」
……あ、そっか。盛りがってるけど、まずサユちゃんとオブさんの仲がそもそも成立してないんだった。
「サユちゃん」
「ぁうっ、……オブくん」
「正直今からクソみたいなこと言うけど、聞いて欲しい。気に食わなかったらユノスケくんが僕の首でも落としておくれよ。プレイヤーだからそれでも死なないけど、まだ僕はヘリオルートの聖堂にも行ってないし、ここのベッドも使ってないから、一回殺せばリスポーンで遠くに飛ばせるはずさ。そしたら一生二人には近付かないようにする」
「いや薬師殿、確かに色々兄としては複雑でござるが、オイラがそんな事したら一生サユが口を聞いてくれんでござるよ。オイラはサユの兄でござるが、でも保護者ではござらん。サユの人生も色恋も、サユの物にござる。本人が納得してるならそれで良し。納得出来なかったとしても、薬師殿の首を落とすのはサユの役目でござる。そこまで果たさずに好きだの愛だの言っていた訳ではござらんだろう?」
「……うん、ありがとうお兄ちゃん。この恋は、ちゃんとサユの物だから」
うーん。なんか、良いなぁ。こう言う、兄妹って感じのやり取り。
あたしもお兄ちゃん欲しかったなぁ。今からでも、妹か弟で良いから、お母さんとお父さん頑張らないかなぁ。
「サユちゃん、もし
そして、オブさんはそう言った。
あたしの泣き声で集まった宿泊客も居るリビングで、床に正座して頭を下げた。周りがヒューヒューうるさい。
『サユ、妾からもお願いする。妾、サユと一緒が良い。サユと一緒に居るオブの二番目が良い。そんなオブの
どうしよう、あたしもキュンキュンしてきた。
これ誰か、バーラさんたち、最初からこの物語を撮ってショップに売ってくれない? あたし買うから。
「………………オブくんは、サユで、良いんですか?」
「君で良いんじゃない。君が良いんだ」
「はぁぅ……、あの、
『それも、考えた。でも、オブの優しさを踏み躙って、優しいサユを踏み躙って、妾は幸せになれるとは、思えなかった』
「…………
まって
ちょ、
あたし知ってるんだからね!
あれが想い合う理想系だからね! あたしも独占しようとするから人のこと言えないけど!
「
「
『そ、それをバラすのは狡い。妾、そんな点数稼ぎの為に怒ったんじゃ無い』
「
『サユは優しい。絶対にあの時、サユでも同じことを言う。もしかしたら、もっと良い事を言う。妾は知ってる。サユは優しい』
ほら見ろ
お手本にしなさい! ノンちゃんと隠れてイチャイチャしてるの許してるあたしって優しいんだからね!
ほらほら!
「ぁぅぅうッ……、サユは、サユは
『サユ』
「
ほらぁ! 見習ってぇ!
◇
落ち着いた。
サユちゃんと
やっぱりノンちゃんと一緒に食べたいなぁ……。ダメかなぁ。
地球の人はこういう時、「先っちょだけ! 先っちょだけだから!」ってゆうんだよね。あたしも
……でもオブさん、ノンちゃんの師匠なんだよね。薬師だけどメチャクチャ強いって聞いたんだよね。怒らせたら殺されちゃうかな。
うん、あたしもお嫁さんに「先っちょだけ!」とか言ってる人が居たら取り敢えず殺すや。うん。だめだ、殺される。
「
「あ、そうだ! サユちゃん! 僕ってこのままで良いかい!? 見た目子供でも愛してくれるかいっ!?」
「え、もちろんですよ? サユはオブくんの見た目をお慕いしていたのではありません。オブくだからお慕いしたのです」
「これ何回目か分からないけどもう一回言いますね? オブさんめっちゃ愛されてるじゃないですか」
「ほんとにね! ビックリするんだけど! 向こうの僕なんて、四十前で未だに独身なのにさ!」
どうやら、サユちゃんが「え、子供はちょっと……」ってなったなら、
「え、別にそれやっちゃっても良いんじゃないの? て言うか、子供のままのオブさんとイチャイチャしてると、サユちゃんの外聞があんまり良くないでしょ」
「確かに」
「……うわ、そうじゃん。僕のせいでサユちゃんが幼児性愛者のレッテル貼られるじゃん! 代償で幼児性愛者になってるの僕なのに!」
「えと、サユは構いませんが……」
構わないらしい。だけど全員にダメ出しされた。
結局サユちゃんにも代償を貼り付ける事になった。えいや!
「…………ンンンッッ、ロリサユちゃんがクッソ可愛い!」
「おお、確かに幼少の頃のサユでござるな」
「えと、えへへ……♡ 可愛いですかっ?」
「「「「「可愛い」」」」」
『可愛い』
みんなハモった。ハーモニックした。どうでも良いけど、日本の言葉って便利過ぎない? 「マジ」とか「ハモった」とかすごい使い易いんだけど。
でも確かに、幼女になったサユちゃん可愛いなぁ。黒髪幼女が増えた。趣深い。
でも、効能模倣の権能って永続効果じゃ無いんだよね。その辺どうするの?
あ、
そっか。代償って
ネームドスキルのコピーとか一時間持てば良い方なのに。戦闘用のネームドスキルは三分も持たなかったよ。効果の軽い【にゃあ】とか【にゃん】は一時間いけたけど。
「どうせならさ、ノンちゃんの魔法でサユちゃんも猫にしてあげれば?」
「あ、それいいねっ! タユも賛成だよぉ!」
「任せろ! 《遍く光よ》《蠢く闇よ》《揺蕩う水よ》《その身に装飾を施せ》ッッ!」
実はこれさ、四節詠唱なんだけどさ、難易度高過ぎてノンちゃんとぺぺくんレベルじゃないと使えないんだよね。
あたしには無理。レーニャさんも鬼の形相で「…………無理」って言ってた。四節詠唱が制御出来ないの悔しかったみたい。
「…………ぁう、えと、にゃんにゃん?」
変身したサユちゃんが、手を猫ちゃんの形にして、クイクイっと動かしながらにゃんにゃんした。可愛い。
「かはッ……!?」
「ぐッ、ぅぅうッ……!」
そしてロリコンなノンちゃんと、サユちゃんが幼くなって代償に刺さり過ぎるオブさんが、二人して血を吐いた。
…………あの、それ比喩だけにしてくれる? 本当に血を吐くの心配するからさ、冗談に手が込みすぎるよ。
ほらサユちゃん心配してるじゃん。どうせアレでしょ、赤い水が入ったカプセルをポーチから口に出して噛み砕いたんでしょ。
さすが師弟だよ。やることソックリだよ。
『……サユとお揃い。嬉しい。ノノン、感謝する』
「あっは、サユちゃんが可愛くなって
『妾、ノノンが気に入った。今から妾、ノノンを愛称で呼ぶ。何が良いか?』
「え、待って選べない。お姉ちゃんも捨て難いし、おねぇたんも良いし、お姉様でも姉ちゃんでも嬉しいし、お姉ちゃんシリーズは捨て難い。名前でノノたんも可愛いし--」
『だめ!』
どうしたの
『む、名前は確か
『ののたんをののたんって呼ぶのは、イナリなの!』
ほほう? それは聞き捨てならないよ
て言うか、
『ふむ。それは悪かった。でも、提案したのは妾じゃない』
『とにかくダメ! ののたんをののたんって呼ぶのはイナリなの!』
『分かった。妾はそう呼ばない。間をとって姉たんでどうだろうか』
「姉たん呼び尊い嬉しい……。オブさん、私幸せだよぅ」
「良かったねノノンちゃん。こんなに立派なロリコンになって……」
「えへへぇ……。お嫁さんが可愛かったので仕方ないのです」
「確かにシルルちゃんは可愛いよね」
え、なんか飛び火してきた照れる……。
「あの、ノノン様!」
「ふい? サユさん、どしました?」
「あぅ、ぇと、あのっ、サユは…………」
「はいはい。大丈夫ですよ。落ち着いてください?」
「………………さ、サユをッ! 弟子にしてください!」
「……? えと、なんのです?」
「お料理と、お裁縫と……、あの、花嫁修業がしたくて……」
「あーオッケ任せてください! オブさん! お嫁さん預かりますよ!」
「任せたよー。ノノンちゃんなら何も心配せずに預けられるよね」
「あのぅ、サユは、オブくんが特に好むと言う、ノノン様のみねすとろーね、なる汁物料理が学びたいのです」
『む、それは妾も気になる。姉たん、妾も料理出来るだろうか?』
「もちろん、教えますよ。頑張りましょうね! 二人でオブさんのほっぺたをぶっ殺しましよう!」
「物騒だよ。すごい物騒だよ。落とすだけで勘弁して。僕の頬を殺さないで」
こうして、黒猫亭に新しい仲間が加わった。
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