第93話 帰還。



 ・【+ステータス】

 ・PN【ノノン・ビーストバック】

 ・栄冠【屍山血河】【狂愛黒猫きょうあいくろねこ】【夢幻舞刀むげんぶとう】【にゃん】【到達者】

 ・種族【♀︎プライマルキャット】

 ・Lv.1,400◆

 ・HP.476,000【E】

 ・MP.1,106,000【A+】

 ・STR.1,498,000【SSS+】

 ・INT.1,512,000【SSS+】

 ・AGI.1,036,000【A】

 ・VIT.336,000【F】

 ・MIN.225,000【F-】

 ・DEX.1,456,000【SSS】

 ・【+スキルリスト】【+装備】【+ショートカット】

 ・【+マクロキット】【+称号】


 どうやら、私がこの世界に来た時、私という存在はバグ化していたらしい。

 バーラが私の頭にぶち込んでくれた詳細なデータを閲覧すると、私はまず、バーラの仲間らしいアイツ、もう良く覚えて無いけど金色の獣だったやつにこの世界へ送られた。

 その時はゲームからこの世界に遊びに来たゲストプレイヤーとしてだったんだけど、ちょうどこの世界に来た瞬間に、私は向こうの世界で死んだらしい。

 聞くと、また地震だってさ。クソがっ!

 そんな死に方したら、お父さんとお母さんが凄い気にしたはずだ。すごく申し訳ない。

 それで、現実とゲームの特性を両方持ったこの世界にゲームのプレイヤーとしてお邪魔した私は、現実で死んだ事でプレイヤーでは無くなってしまったらしい。

 そうすると、プレイヤーでも無くこの世界のNPCでも無い私は、イレギュラーでイリーガルなバグ。存在そのものが世界のエラーになってしまった。

 だからポーチが使えたりマップが使えたり、でもシステムメニューは使えないって言うか使い方を忘れたり、色々と訳分からん状態だったのか。

 その時は「そういうモノ」だと思ってたけど、バグだったんだね。

 それで、バグでしかない不安定な私は、自分の精神だけが拠り所だったんだけど、それも大きく揺さぶれるとバグがどんどん酷くなっていき、ついにはこのダンジョンでぶっ壊れた。

 それをルルちゃんが、愛しのルルちゃんがぺぺちゃんと協力して、あとレーニャさんも凄い頑張ってくれて、NPCをプレイヤーに転換させるという秘薬を入手して私を治療した。

 結果、今の私はジワルドから来たジワルド産プレイヤーでは無く、リワルドのNPCがプレイヤー化したリワルド産プレイヤーになってるそうだ。

 ちなみにリワルドとはリバースワールドの略で、この世界の名前だそうだ。

 そして久々にシステムメニューが開けた私は、思わず癖でステータスを開いてしまい、今固まってる所。


「…………なんか、名前と種族が変わってるんですけど」


 私のプレイヤーネームは「ののん」だったはずだし、種族も「プライマルキャット」なんて知らない物じゃなく、「イクシードヒューマニア」だったはず。


「あ、バグった状態で変身魔法を使い、そのまま昇華薬を使った今のノノン様は、バグったままプレイヤー化して最適化された状態になっております。なので今、正真正銘獣人種化しております。この世界で言う半獣と呼ばれる種族、その上位個体ですね」

「マジかよ」


 なるほど。変身魔法で猫の半獣に化けたままバグって、それをそのままNPC扱いとしてプレイヤー化したから、本当に半獣になっちゃったのか。

 ジワルドでもレベルを上げるとイクシード化って言う上位種族化したから、このプライマルってのも上位種族の何かなのだろう。なら、上位化前ならハーフ何とかって種族だったのかな?

 まぁ、良いか? この姿結構気に入って来たし。


「お名前の方も、新しく生まれ変わりましたので、シルルさんとお揃いにしておきましたよっ!」

「マジかよありがとう」


 そっか。ルルちゃんとお揃いなのか。じゃぁ良いや。何がお揃いなのか分かんないけど、とりあえず私は正式に、ひらがなの「ののん」からカタカナの「ノノン」になった訳だ。

 この「ののん」を丸っと別の何かに変えてたら絶対にぶっ殺したけど、「ののん」が残ってるなら良いや。許す許す。

 これさ、実はお父さんとお母さんの名前から文字を貰ってるから、本名とは違うけど、凄く大事な名前なんだよね。残ってよかったぁ。無くなってたらマジでこの場でこの兎殺してた。

 それから、えっと、……これなに? 【にゃん】?

 と言うか二つ名多い! しかも詠唱付きって事はネームドスキルじゃん。こわっ、ネームドスキルが三つ、いや四つになったの?


 詳細は……。


 ・【にゃん】

 ・効果『発動中、猫の真似をしている限り効果永続。五メートル以内に居る恋人・想い人を最大レベルで発情させる』

 ・代償『使用中、発情させた対象から受ける全ての行動に十倍の感度補正を受ける。レジスト不能』

 ・詠唱『食べて欲しい【にゃん】♡』


 ……は? えっ、は? いや神スキルなんだけど。

 ルルちゃん専用の神スキル? いや意味が分からないしネームドスキルに十八禁要素を入れるなよ運営莫迦かよでも神スキル。

 え、マジ? ルルちゃんを発情させるの? 猫の真似してる限りって、あれかな、私がぶっ壊れてて猫化してた時の感じ?

 恥ずかしいけど、まぁ良いや。二人きりの時なら、あんな感じで甘えるのも有りっちゃ有りかなって。

 詠唱もクッソ恥ずかしいけど、二人きりでイチャイチャしてたらこんなセリフも言うでしょ多分。私経験ないから分からないけど、ネットで見た世間一般のカップルってそんな感じなんでしょ?

 あれでしょ、クリスマスとかに夜中ホテルに篭って「今日の俺は、野獣だぜ?」「きゃぁ、食べられちゃう♡」とか言い合うんでしょ知ってる知ってる。

 これでも日本では年齢だけでも大人だからね! 偏ってるけど知識は有るよ!

 両腕が無いから自慰すら経験が無いんだけどね! 知識だけ有るおボコだよ!


 ……でも代償怖いな。感度補正ってなに? 十倍になっちゃうの? 完全に薄い本の薬の効果じゃん。


「…………お、恐ろしいものの片鱗を見た」


 当たり前だけど、ジワルドって普通のゲームだったからね。こんなスキル手に入らないからね。

 マジかよリワルド。ジワルドそっくりのツラしてる癖にアダルティなのかよ。


「あとこっち、何この詠唱。…………なんで詠唱の全文にもう一つの詠唱文がルビとして振ってあるんですかねぇ?」


 なんか、「ルルちゃんしゅきぃ♡」って気持ちがひしひしと感じられる詠唱のネームドスキルが二つ。

 基本の詠唱は同じなんだけど、片方はルルちゃん愛してゆーって感じのルビが振られてる。

 それでどっちも、代償が『使うほど想いが強まる』とか『支払った代償は二度と元に戻らない』とか書いてあって、めっちゃ怖いんだけど。

 ルルちゃんを好きになるのは良いんだよ。ただ感情を外部から強制させられた上に元に戻らないって仕様が普通にヤバい。これ物語とかでちょいちょい見掛けるヤバいタイプの代償じゃん。

 使えば使うほど狂っていくタイプの、代償を支払っても成し遂げたかった事があるのに代償のせいで狂って失敗しちゃうタイプのやつ。

 可愛い感じで纏めてるけど誤魔化されんからな?


「……まぁ良いや。効果めちゃくちゃ強いし」

「あの、そろそろ報酬の方をですね……」

「あっ、ごめん忘れてた」


 バーラに急かされた私は、メニューを操作してメールボックスを開いた。この感覚久しぶりだなぁ。

 ログアウトボタンがロックされてるのは、まぁログアウトする場所が無いからなんだろうね。


「……えーと、なになに。……あっ、鳴狐有るじゃんっ!」

「あー、ノンちゃん、それはあたしが貰っておいたよ。あとでノンちゃんにあげるね?」

「マジで? え、鳴狐めっちゃ嬉しい! ルルちゃん大好き! じゃぁ代わりに、私がルルちゃんに何か贈るね?」


 何が良いだろうか。このダンジョンでドロップするアイテム全てから二つ選ぶらしい。さすがに千四百も階層があるだけあって、凄い膨大な数のドロップがある。

 さすがに魔石とか誰も選ばんよな。あと普通のポーション類とかも割りに合わないだろうし、なんだろ?

 …………なんか媚薬とか有るんだけど、誰が選ぶんだよこんなの。て言うかリワルドの運営エロに情熱注ぎ過ぎだろ。バーラなのか? それとも仲間の誰かなのか?


「………………んー、あっ、欲しかったアイテムの上位アイテム有るじゃん。これビッカさん達へのお土産にもなるし、一個はコレでいいかな。……へぇ、こっちにはこんなアイテムあるだねぇ」

「ノンちゃん、なに選んだの?」

「んー? えっとね、『練兵の領域水晶』ってアイテム。このアイテムの効果範囲内なら、NPCもリスポーン出来るから命懸けの訓練が出来て、しかも水晶を操作するとモンスターを召喚出来るの。ドロップ何も無いけど、経験値だけ貰える感じ」

「わぁ、お城セーフの練兵所を作れるアイテムなの?」

「……あー、そう。うん、それそれ」


 私は記憶を漁って、猫化してた時に居た場所を思い出した。

 確かにあそこの練兵施設を作り出せるアイテムだと考えていい。ただ上位互換だけど。

 あの場所、本来ならNPCが来れる場所でも無いから、NPCのリスポーン効果なんて付いてないんだよね。

 だから、私が欲しがってた決闘用アイテムと練兵施設が複合したようなアイテムである。ジワルドにはコレ無かったから、たぶんコッチにしか無いんだろう。


「もう一つは、何にしよう? ……おぉ、時遡の霊薬の劣化版有るじゃん。でもルルちゃんには必要無いもんね」

「ノンちゃん欲しいなら、あたしは良いよ?」

「やだ。ルルちゃんが私に鳴狐くれるんだから、私もルルちゃんに何かあげたいもん。…………こっ、恋人、でしょ?」


 照れ照れして言ったらルルちゃんにギュッてされた。幸せ。

 ルルちゃんは何が欲しいかと聞けば、何かスキルが手に入るアイテムが欲しいという。


「あたし、ノンちゃんを騙して経験値薬を奪ったから。スキルがあんまり無いんだ。好きな人を騙したバチが当たったんだね」

「そんなの私が全部教えてあげるよもう! ルルちゃん可愛いなぁ!」


 そう言えば、ルルちゃんって凄い強くなったんだよね? 最下層のボスを倒せるくらいには。

 武器は刀で、流派は冬桜華撃流? マジかよ私ルルちゃんの舞い凄い見たいんだけど。私も使えるけどさ、好きな人の綺麗な舞いとか値千金じゃんね?


「…………あれ? これ、あたしの報酬には無かったよ?」

「ふぇ? あっ、竜の卵じゃん。……ドロップアイテムから選ぶのでは?」

「うぇぇえええっ!? ちょ、ちょっとお待ちくださいっ!? ピンクぅぅぅぅっ!? あんた何してんのぉぉおっ!?」


 リストに、運営イベントとか特殊なクエストとかをクリアしないと手に入らない、竜の卵があった。ルルちゃんの報酬リストには無かったらしい。

 これ、ドロップでは絶対に有り得ない超超超レアアイテムなんだけど?

 バーラに聞けば慌ててどこかに叫んでる。やつも知らないらしい。


「はっ!? 召喚術の試験用に混ぜたっ!? いやもうリジルさんたち居るじゃないですかっ!? 莫迦なのキミィっ!?」

「…………なんか、予想外の事らしいね」

「選んじゃ悪いのかなぁ? あ、でもあたし召喚スキルないや」

「取りえず貰っちゃえば良いんじゃない? スキルはあとで取れるけど、この卵は下手したらもう手に入らないかも知れないし」

「そっか。じゃぁあたしコレがいい。あたしもノンちゃんみたいに、この子と仲良くなりたいな」


 結局、ヤバいヤバいと呟くバーラにコレを選んだと伝え、もっと真っ青にさせる。

 何やら、竜の卵を入手出来るイベントを用意してたんだけど、今私以外の誰かが竜を手懐けるのはマズイらしい。


「じゃあ、そのイベントが終わるまで卵は孵さないでおくよ」

「助かりますっ! あとでピンクから詫び品をブン盗って来ますので、どうかご容赦を!」


 そんな訳で、私のポーチに『練兵の領域水晶』と『竜の卵【封印】』が贈られてきた。封印状態なのは、イベントとやらが終わったら解除される仕組みらしい。


「イベント終わったら育てようね? 竜の卵は放置してても孵るけど、ちゃんとお世話すると生まれ子と早く仲良くなれるからね」

「わかった! じゃぁ二人で子育てだね。ノンちゃんとあたしの子供だね」


 なにそれめっちゃ可愛い。甘やかし尽くす自信がある。


「でわでわ! 正直ワタクシ、シルルさんに会いたくて出しゃばって来ただけなので特にもうイベントはありません! もう皆様を地上にお送りしても良いのですが、どうしますかっ?」

「あー、もう帰れるのか。……私正気を失ってたからよく分かんないけど、結構長いこと居たよね? やっぱ外は大騒ぎかな?」

「もちろんです! !」


 特にこれと言ったイベントも無く、帰れるらしい。

 まぁそりゃそうか。世界の真実的な情報とか、物語だったらラストまでミスリードとか重ねて隠しに隠すような情報も、全部私とルルちゃんにぶち込まれてるみたいだしね。

 もう語ることすら残ってないんだろう。

 バーラはルルちゃんのファンみたいな感じで、あれかな、私がジワルドでしょっちゅう運営に弄られてたみたいな感じかね。

 やたらとイベントで私をピックアップするし、姫ちゃんのイベントでも莫迦みたいに完成度上げたPV作るし、凄い構い倒されてたよね。

 ゲームを始める時に許諾した利用規約に、PVとかに映像を使う許可なども含まれてたので、わざわざ私に聞くことも無くPVは作られていった。

 あまりに恥ずかしいので、お父さん達にはPVの存在は隠してたし、CMとかにも使われた映像に映る私は、「へぇ、そんな人も居るんだねぇ」って誤魔化してた。

 それは私じゃなくて知らない人だよって感じで話しを聞いて誤魔化してた。


「……結局、私のせいでルルちゃんの人生壊しちゃったね」

「大丈夫だよ。あたしバケモノになったけど、後悔してないよ。きっとお母さんもお父さんも、気にしないよ!」


 そんな事は無いだろう。娘がバケモノよりも凄まじい存在になって帰って来るのだ。

 


「帰れる! 帰れるぞぉー!」

「ああ、シルルさん達のお陰だ……」

「俺達もちょっとバケモノ臭くなってるから、みんなで支え合って行こうぜ!」

「そうだね。タユたち、もうレベル三桁だもんねっ」


 マジかよタユナちゃん達もそんなことになってるのかよ。

 ああそうか、セーフの練兵施設か。思い出した。みんなレベリングしてたんだ。


「…………みんな、ごめんね」

「気にしないでよ親友さん! 親友さんだって俺達の事守ってくれたんだろっ!?」

「そうだよノノちゃん、タユたち、ノノちゃんが居なかったら、死んでたんだからねっ?」

「て言うかこんな事になったのは、ノノンさんの荷物になってた俺達クソザコ組のせいじゃん。頼むから気にしないでくれよ」


 おぉう、皆が優しい。

 親友さんってなんだって思ったら、猫化の記憶を漁るとペペちゃんの親友だからって意味だった。ぺぺちゃんが助けた人達が主にそう呼ぶ。

 ……え、あのクソ貴族キッズの生き残りに聖女とか呼ばれてる記憶が有るんだけど。気持ち悪っ。うわ止めろよ! 私は聖女って呼ばれるのマジで嫌なんだよ殺すぞ!

 よし、アイツとは後で「OHANASHI」しよう。

 まぁそんな感じで、みんな私を責めないどころか、ごめんねって心配してくれる。めっちゃ優しい世界だね。


「俺達もさ、練兵所で戦ってから、どれだけノノンさんが大変だったか思い知ったんだ」

「だよなぁ。あんなの相手にしながら、僕達を傷一つ無く守ってさ、ご飯用意してくれて、毛布も作って、全然寝ないで見張りして……。しかも俺達が練兵所で戦うような雑魚じゃなくて、クソ強い化け物相手にしてたんだもんな」

「コレで文句言うやつ居たら俺達がボコるよ。ふざけんなってさ。文句あるなら同じ事やって見ろって」

「………死んじゃった子もさ、仕方ないよ。少なくともノノンちゃんのせいじゃないよ」


 なんだよ皆めっちゃ優しいじゃん。どうしたんだよ、私泣いちゃうだろ。止めてよこう言うの弱いんだよ。

 皆が思い思いに、私とルルちゃんとぺぺちゃんにお礼を言う


「あーでも、もう帰れんのか。そう思うと練兵所がちょっと恋しいな」

「そうだなー。あんな便利な場所、早々無いよな」

「……良かったら、練兵の領域水晶使う? 黒猫荘に設置するつもりだし、来てくれたら使えるようにしとくよ?」

「本当!?」

「やったー! これでまだ戦える! あ、でも金貨は出ないんだっけ?」

「あそこ使いたかったら最低でも自力で五百階層だもんな。しかもセーフがある場所より上のモンスターしか呼べないから、自力で行ける場所だとレベリングにならないし」


 ちなみに、練兵の領域水晶は使用者本人が出会ったことの有るモンスターが対象なので、私がモンスターを出しあげればほぼ全種類選べるし、みんなも千階層付近のモンスターなら、見るだけならしてるので呼べる。


「帰れるって分かったら、ちょっと練兵所で金貨稼ぎたいよな」

「わかる」

「ここだと金貨とか端金だけど、外だったら普通に大金だもんね」

「おれ、それより外に出たら食べれなくなる親友さんの料理が恋しい」

「猫化してた私って料理したんだ……。まぁいいや、それなら別に、黒猫荘に来て頂けたら振る舞いますよ? ひと月宿泊で金貨一枚です」

「「「安っ!」」」

「タユも行こうかなっ」

「おいお前手持ちいくら有る? 俺、直前に素材買っちゃったから二十枚くらいしか残ってないんだけど」

「俺は貯める派だから一万くらいあるぞ」

「マジかよ泊まり放題じゃん!」


 ああ、みんなの金銭感覚がダンジョンによって盛大に壊れてる。

 そうだよね。金貨は一枚とか「安っ!」てなるよね。


「よろしいです? 送りますよー?」

「あ、お願いしまーす」


 帰れると分かった途端にダンジョンを惜しむ現金な子供たち。

 沢山の人死や長時間のダンジョン探索で、心なんてもうボロボロなはずなんだけど、見た感じは凄く元気に見える。

 そんなにセーフの生活が楽しかったのかなぁって思ってると、バーラが「どぅーん!」と言って地面が光る。


 そして、次の瞬間には、青空の下に居た。


「……うわっ、なにこれ」

「人いっぱい……、うるさっ」

「あっ、お母さん!」

「父上ぇぇえええええッッ!」


 私たちが出て来た場所、ダンジョンから飛ばされた外は、ダンジョンの目の前だった。

 そこには沢山の、いや夥しいと言って良いほどの群衆が居て、私たちの出現を確認すると大喝采を上げた。

 地面がまた割れるんじゃ無いかと思う程の歓声が響くなか、皆の視界に映る人混みの中に、それぞれの家族を見付けた子供たちが我先にと走り出す。


 ……感動的な場面なんだけど、


 なんで、皆、そんな、の?


 そして私は、見てしまった。振り返ってしまった。

 まるでリーマレーヴ大聖堂そっくりに作られたダンジョンの入口と、その上で手を振るバーラ…………、が、映ってる大画面液晶みたいな四角いディスプレイに、ダンジョン内部で戦う人達の様子。


 …………ライブ配信っ、だと!?


 最悪の可能性が頭を過ぎり、私は信じられない面持ちで画面に映るバーラを見た。

 すると奴は、凄い素敵な笑顔で頷くと、親指をビシって立てた。


 ……私達、配信されてたっ!

 私とルルちゃんがちゅっちゅしてる様子、この大群衆に見られてたっ……!?


「ぐぅぉぉおおおおッッ!? アイツには人の心がねぇのかぁっ!?」

「うわびっくりした、ノンちゃんどうしたの?」


 私がバーラの所業をルルちゃんに伝えると、「ふーん。そうなんだ」で話しが終わってしまった。

 ……ああ、慣れちゃったんだっけ。くそっ、自業自得の影響がこんな所にっ。


「シルっ! ノノン!」


 身悶える私を介抱するルルちゃんは、懐かしく聞き慣れた声に弾かれて顔を上げる。


「お母さんッッ……!」

「シェノッテさん!」


 それはルルちゃんのお母さん、シェノッテさんの声だった。


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