第91話 目覚めの黒猫。



 えと、なんか色々と貰ったよ。


「まずはこちら、今お使いの『恋刀【想葬恋華絹淑そうそうれんげきぬよし】』をシルルさんの専用装備に進化させます! あっ、同じ物をもう一本用意して持ち主には返しますので、その辺はご心配無くぅ〜! ワタクシ、気が利く兎ですので! ね!」


 ノンちゃんに借りてた大太刀、ノンちゃんが鍛治のお師匠様と一緒に作ったと言う綺麗で可愛い大きな刀が、なんか私専用の物になるらしい。

 借りたまま盗んじゃう事になるの嫌だけど、バーラさんが同じ物を複製して返すって言うから大丈夫だよね。あたしもノンちゃんの手作り武器がずっと使えるのは嬉しいな。


「『恋刀【想葬恋華絹淑】』を『初恋刀【銀恋桃花兎丸淑雅ぎんこいももはなうさぎまるよしまさ】』に進化! どぅーん! いやぁ名前なっがいですねぇ! アイテム担当のピンクがノリノリで作ってたので性能は折り紙付きですよ! 厨二臭い名前はワタクシの責任じゃないので悪しからず! そして次に今お召になっている『精麗装【宵闇桜吹雪】』も進化しますよ!」


 朱色に金の彫りが入った鞘に、薄紅色の刀身が鮮やかな恋刀が淡く光る。

 バーラさんの「どぅーん!」という掛け声と共にあっという間に姿を変えたのは、白銀に地に漆黒の彫りが入った打刀の鞘。そして鯉口を切って刀身を覗けば、銀の刃と桜色の鎬地しのぎじが美しい宝刀があった。

 完全に鞘から抜いてみると、まず重心が信じられないくらいあたしに合ってて驚いた。手に馴染むとか、そんなちゃちな話しじゃなくて、まるであたしの手と一つになっちゃったみたいな感覚になる。

 完全に、あたしが望む重心になってる。

 あとは大太刀から短めの打刀になっちゃった恋刀、改め初恋刀は、だけど魔力を込めると半透明な桜色の刃が刀身から伸びて、大太刀の長さにまで達した。

 そのままでも伸ばしても、重心の素晴らしさは少しも変わらず、そのどっちでも問題無いように作られたのか刀身の反りも素直だ。

 打刀では浅く反ってる初恋刀は、魔力の刃を伸ばして大太刀にすると程良い反りの長物になる。

 …………凄いなこれ、反りも重さも全部計算して作られてる。

 鞘に彫られた意匠も、銀地と黒彫りが見事に合わさって、花吹雪の中で銀の兎と黒の猫が戯れる綺麗な逸品に仕上がってる。

 これ、あたしとノンちゃんの事だよね? えへへ、良いなぁこれ、気に入っちゃった。


「本当ならそのまま進化させても良いんですがねぇえ? シルルさん、大好きな大好きな黒猫様の手作りじゃないと嫌でしょう? それ課金装備ですものねぇ。ええ分かってますよ。分かっていますとも! ワタクシは気が利く兎ですので! なので精麗装のパラメータだけをベースに、シルルさんのポーチに入ってる黒猫様の手作り着物ドレスのアップデートする形で合成進化させますねっ! はいどぅーん!」


 余りにも綺麗で手に吸い付く新しい武器に見惚れていると、バーラさんがまた「どぅーん!」と口にして、今度はあたしが着ているノンちゃんの服がふわって光る。これも同じのを複製してノンちゃんに返してく「もちろんですとも!」ああそうですか。もしかして心読めるのかな。神様だもんね。


「『精麗装【宵闇桜吹雪】』を『銀桜装【宵闇恋兎】』に進化しましたよ! ……いやムッチャ可愛いですねっ!? ワタクシ驚いておりますっ! さすがリバースワールドの筆頭アイドル! あ、リワルドの略称は使わせて頂いておりますぅ! 素敵な案をあざまーす! いやいやピンクのやつ張り切り過ぎでしょこれ可愛すぎてもっと人気出るのでは?」


 ノンちゃんに初めて会った時に着ていた黒い服が、その形を踏襲したまま華やか衣装に変化した。

 黒地なのは変わらず、代わりに純白のフリルで飾られてたそれが桜色に変わって、桜色の蝶柄が銀色の桜吹雪と戯れる兎の柄になった。

 フリルも増えて、衣装もより可愛くなって、……これあたしが着てて良いの? 可愛過ぎない?

 それにノンちゃんに初めて会った時はただ可愛いなって思っただけだし、自分で着てる時もあんまり気にしなかったけど、ノンちゃんが着てた時を今思い出すと、この服すごいえっちだよね。

 裾が凄い短くて太ももばっちり見えてるし、ちょっと下から覗かれるだけでお股見えちゃいそう。肩もがばーって開いてるし、やっぱりコレすごいえっちだよ。可愛いけどえっちだよ。

 あたし今えっちな服着るのか。そっか。……早くノンちゃん起きないかなぁ。今のあたし見て欲しいなぁ。


「あとはそうですね、まだ使い慣れてない向こうの言葉などの不足してたデータの追加インストールと、本当のダンジョン完全攻略報酬を渡して終わりでございます! 色々と聞きたいことも有るでしょうから、代わりにインストールデータで対応させて頂きますねっ! ああ、本当なら報酬は一つなんですが、リワルドの記念すべき最下層ボス初討伐を成し遂げたシルル・ビーストバックさん、ペペナボルティーナ様、レーニャ・キュリルキア・ミーネ・エスプーマさんの三名は、それぞれ三つの報酬をご用意致します! セーフに篭っていました皆様も一つはどうぞ! ワタクシ、今機嫌がとても良いので!」


 痛だだだだだだだだッッ…………!?

 ちょ、バーラさん待って、頭にデータ入れるならもっと心の準備させて欲しかったっ……。

 これ凄い痛いんだよっ? もう、バーラさんは意地悪だ!

 でも、うん。知らない知識を知ってる事にされるのは二回目だから、最初ほど混乱はしないね。知識をすぐに使えそうだし、ペペくんが良く使ってる言葉もだいたい分かるようになった。

 それに、……ふーん。これがリワルドの仕様なんだね。うん、色々と知った。バーラさんに質問する必要は無さそうだ。


「……報酬って?」

「初回特典で、このダンジョンでドロップ出来るアイテムから、望むアイテムをこの場で進呈します! あ、昇華薬はワタクシのサービスですので報酬にはカウントされませんよ! ワタクシ、気が利く兎ですので!」


 バーラさん、気が利く兎って言葉フレーズをすごい推してくるなぁ。

 ダンジョンのせいで学園のみんなが凄い死んじゃったけど、その他はまぁ、こうやってお薬くれたし、あたしは恨んでない。気が利くって言うのも本当だし。


「それでは、ドロップアイテムのデータをリストで送りますので、メールボックスでご確認下さい。その中から三名は三つ、他の方は一つお選びいただけます。……あープレイヤーじゃない人達はメールボックス使えませんね。どうしましょうか?」

「あー、じゃぁ俺のメニューから見せっから、それで良いだろ」

「おお妖精様! ありがとうございますっ! 貴方様も気が利く妖精様で御座いますねっ!? ワタクシ、シンパシーを感じてしまいますっ!」


 ペペくんが凄い嫌そうな顔をしてるのを見つつ、あたしはメニューを意識で呼び出して、メールボックスを確認した。

 うわ、なんかすごい数のアイテムがあるよ。……っ!? こ、これ欲しい。コレは決定。悩みが解決しちゃった。えへへ、あと二つ何にしよう。


「おい、どうする?」

「この昇華薬っての選べば、俺達もプレイヤーになれんだろ?」

「それ良いな」

「でも武器とかの方が良くね? プレイヤー化したら死ななくなるけど、そもそも死にたくねぇぞ。生き返れるとしてもシルルさんみたいな死に方絶対嫌だ」

「でも、タユたちはプレイヤーになった方が良いんじゃないかなぁ? 一つしか選べないし、武器と防具が揃わないなら、プレイヤーになってショップから装備買う方が良いと思うよ?」

「ッッ! さすがタユ先生、天才か」

「タユ師範は頼りになるぜ」

「もっ、もう! それ止めてよぉ〜!」


 タユ先生はやっぱり凄い。みんなの悩みを一発解決だ。

 ペペくんとレーニャさん以外のみんなは半数以上が昇華薬を選んで、残りの人はスキル獲得の為のアイテムを選んだみたいだ。

 生産系の道を選んだ女の子たちは、プレイヤー化して死ななくなるより、生産に使うための獲得しずらいスキルを得た方が良いと考えたみたい。

 あたしも早く決めよう。一つはこれでしょ。もう二つは、どうしよう。……たしかこれってノンちゃん欲しがってたやつじゃない? じゃぁこれも選ぼう。ノンちゃんにプレゼントしたら喜んでくれるかな。お礼にキスして貰おう。

 …………あれ、お礼無くてもキスしてるね、あたし。まぁ良いや。

 最後の一つは…………、ぅえ、何このお薬。こんなのあるの?

 えっ、すごっ、……凄いえっちなお薬だ! これにしよう! ノンちゃんと恋人になれたらノンちゃんと一緒に使おう!

 でも、もしノンちゃんに振られたら、売っちゃおう。こういうお薬って、多分高く売れるよね?


「おや、決まりましたか? ではお選びください!」

「あいっ、『薬創薬やくそうやく』と、『獣刀-鳴狐』と、『超高感度媚薬一年セット』でお願いするね」

「欲望丸出しの選択! ワタクシ、嫌いじゃ無いです!」


 あたしが選んだのは、お薬を作るためのお薬と、ノンちゃんが欲しがってた刀コレクションと、……物凄く気持ちよくなれちゃうえっちなお薬の一年分。

 お薬を作るためのお薬は、お薬の材料になるお薬。手に持って欲しい効能を思えば、そのお薬の作り方を教えてくれる。あたしはこれで、ノンちゃんの赤ちゃんを産むためのお薬を作る!

 それで、ノンちゃんが欲しがってた鳴狐をプレゼントして、ノンちゃんとえっちなお薬を使う。完璧だ。完璧だよ。あたしとノンちゃんが幸せになれる最高の選択をしたよ。

 超好感度媚薬一年セット。これは毎日二人で一つずつ使っても一年分ある、気持ち良すぎて死んじゃうくらい気持ち良くなれるお薬らしいよ。凄いよね。ノンちゃんと一緒に壊れちゃおう。えへへ、ノンちゃんしゅきぃ♡


「はい皆様、それぞれのポーチに報酬はお送りしました! NPCの皆様にはゲストポーチの方へお送りしましたので、誰かに奪われないようにお気をつけ……、ああ今使っちゃいますかそうですか。確かにそれが一番確実ですねっ!」


 確認すると、本当にあたしのポーチの中に報酬が入ってた。えへへ、早くノンちゃん起きないかなぁ。早く告白したいな。ノンちゃん大好きだよ。好き好き、ずっと一緒に居ようね。いっぱい赤ちゃん産もうね?

 …………ダメだ興奮してきた。え、バーラさんがネームドスキルの代償を一時的に緩和しててこれなの?

 あたしノンちゃん好きすぎない? ああ寝てるノンちゃん可愛いよっ、チューしていい? 良いよねっ、するよっ。

 ちゅっちゅ♡ ノンちゃんおいしっ♡


「あ、多分そろそろ黒猫様もお目覚めになられますよ!」


 ほんとっ!? ああでも、寝てるノンちゃんも可愛いから、起きるまでは寝てるノンちゃんにちゅっちゅして楽しもう。早く起きて。でも寝てて。ノンちゃん大好きだよ。愛してるよ。ああ好き好き、ノンちゃんしゅきぃいい♡


「…………ん、んんっ」


 早く、早く起きて。あたしの名前を呼んで、頭を撫でて、いっぱい褒めて。

 あたし、頑張ったんだよ。凄いいっぱい、頑張ったんだよ。

 痛かったけど、怖かったけど、我慢したよ。ちゃんと戦ったよ。

 ノンちゃんの方が辛かったから、ノンちゃんの方が痛かったから、ノンちゃんが消える方がもっとずっと怖かったから。


「…………ノンちゃん」


 ああ、やっと会える。

 お目々がキラキラしてて、ギラギラしてて、優しくて、カッコよくて、誰よりも可愛くて何よりも強い、あたしの好きな人。

 お寝坊さんだよ。ほらノンちゃん、ペペくんも待ってるよ。違う世界から死んだノンちゃんを追いかけてきた、ノンちゃんの親友さんも待ってるんだよ。


「…………る、るる、……ちゃ?」


 身動ぎして、薄目を開けて、あたしを見た。

 ああ可愛い。好き、大好き。やっと戻った。ノンちゃんに戻った。


「………………わた、ひ、…………はれ?」


 寝惚けてるノンちゃん可愛い。可愛過ぎる。

 ちゅーしていいかな? びっくりして目が覚めないかな?


「ノンちゃん、おはよ」

「るる、ちゃん…………、おは、よ?」


 ああ答えてくれた。返事が来た。嬉しいな。ノンちゃんとまたお喋り出来て、嬉しいなぁ。


「私、…………あれ、なんっ、…………寝て?」


 体を起こして、お目々をしょぼしょぼ摩するノンちゃんが超可愛い。

 寝坊助さんかな。お眠なのかな。可愛いな。好きだな。愛しいな。


「ノンちゃん起きたね。ここがどこか分かる? 記憶はある?」

「…………えと、どこ? あー、うん? 巣窟、だっけ」

「そうだよ。ここは巣窟だよ」


 お目々が段々とぱっちりしてきた。可愛い。黒くてくりくりのお目々が愛おしい。

 見てると吸い込まれそうな茶色い黒が、あたしの赤い目と合わさる。ああ見て。もっと見て。あたしを見て。


「…………あれ、えっと、私巣窟で、みんなと落ちて、登って、ぺぺちゃん……?」

「そうだよ。ぺぺくんに会ったね」

「それで、それで……、あれ? 私それから、なにしてた?」


 意識がハッキリしてきたノンちゃんは、まだ少しぼーっとする様子で周りを見る。

 近くに居たバーラさんに首を傾げ、王子様達を見て首を傾げ、ネネちゃんやアルペちゃん、クルリちゃんを見て、頷いて、タユ先生とペペくんを見てまた頷く。


「…………うわぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁああああッッッ!?」


 そして顔を「ボンッ!」て赤くしたノンちゃんが、絶叫した。


「ひにゃぁぁああああああっ!? 私っ、なにっ!? 何してたのっ!? なんであんなっ…………!」


 あ、これノンちゃん猫化してた時の記憶全部残ってるやーつ?


「しっ、死ぬ! 恥ずか死ぬ! あわわ、私ルルちゃんにッッ!? なにしたのっ!? シェノッテさんに殺されるぅぅっ……!」


 大丈夫だよノンちゃん。お母さんは多分許してくれるよ。

 怒られるとしても無茶したあたしだよ。ノンちゃんは怒られないよ。


「ああああああああああ誰か私を殺せぇぇえッッ!」


 それから、ノンちゃんが正気に戻るまで五分かかった。


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