異世界から生放送中~雑談配信で鍛えたトークで勝ち上がる~
桐生細目
序章 雪那さんが配信を開始しました。
「いやぁすごいね。あっという間に満員になっちゃったよ」
パソコンに接続しているマイクに喋りながら、自分を写すカメラはまだ起動していないので、最後の身だしなみのチェックをしている少女。
「みんな大丈夫? ちゃんと入れた?」
彼女がなにか言うたびに、画面の下に設置されたコメント欄が荒ぶるように動く。
ランダムで動きが止まるように設定されているので、止まった時に目に写ったコメントを拾っていく。
「そっか、そうだよね。入れたからこうして見られているんだもんね」
ものの数分で、生配信のページに入ることのできるユーザーの人数が埋まるとは思ってもいなかった。さすがにこれには驚きを隠せなかった。
覚悟を決めていたとはいえ、さらにプレッシャーがのしかかってくる。でもそれはちゃんと隠さなくてはいけない。
「よし、っと」
最後の深呼吸。
マウスを動かしてカメラのマークのアイコンをダブルクリック。すると起動を確認するポップアップが表示されて、OKボタンを押した。
「どうもどうもみんな。改めて、こんばんわ~」
パソコン上部のカメラに笑顔を浮かべて手を振った。視聴者からのコメントが更に増えて、たまに止まって見えるコメント以外はまったく見えなくなってしまっている。そのコメントもいまは『こんばんわー』しか見えてこない。
「今日は、
今度は『おめでとう』のコメントが殺到する。嬉しかった。
「ありがとう、みんな」
こんな日が来るとは思ってもいなかった。
「でもね、私はみんなにありがとうって、言いたいんだ」
今でも思い出す。最初に生配信をした時のことを。
「いま私がこうしてここで、この配信をしているのって、みんなのおかげなんだよ。
知ってた?
みんなが私のことを応援してきてくれたから、今の私がいるんだよ。だから」
目をつむって思い出す。
最初の生放送はなにを喋っていいのかもわからず、その時はカメラもなく声だけの放送だったのに慌てて声も出なくなって、でもそんな時にコメントがあった。
『見てるから、落ち着いて』
あの時あのコメントがなければどうなっていただろうか。あの時のコメントをしてくれた人がまだ見ていてくれているかどうかなんてわからない。それでも
「みんな、ありがとう」
カメラの向こう、沢山の人へと向けてお礼を口にする。
「え、あれ」
視聴者からのコメントで気づく。自分が今、涙を流していたことに。
「ごめっ、あれ?」
指先で涙を拭っても拭っても涙が溢れ出てきてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってて」
一旦カメラのスイッチをオフにして、マイクの電源も切ってしまう。
ティッシュで涙を拭って、それから涙が化粧で崩れていないか鏡で確認する。
「おまたせ」
笑顔で答える。
コメントは『おかえり』『まってた』『大丈夫?』で溢れかえっていた。嬉しい。自分を待っていてくれたことに。
「ただいま!」
少女は、雪那は目を醒ました。
寝ぼけ眼でまだよく周りは見えていない。目をこすりながら、体の痛みに気がつく。
変な格好で寝てしまったんだなぁと、そうと思っていた。
「ん~~~~~」
大きく背を伸ばす。
「いつの間に寝ちゃったんだろう」
思い出してみる。
昨日は遅くまでチャンネル10万人記念放送をしていた。それを無事に終えて、そのまま机で寝てしまったんだろうと、結論をつけた。が、それは違った。
目をこすって少したち、ようやく視界がクリアになっていく。
「へ?」
思わず変な声が出た。周りを見回して、それでもと辺りをもう一度見回す。背伸びをしてみたりしゃがんでみたり。いまこの野原の岩の上でできることを試してみる。結果はわかりきっていた。
「なにこれ」
なにもわからないことはわかりきっていた。
「え? なにこれ? ここどこ?
私どこにいるの?」
質問を投げつけても誰も答えてはくれない。少女は、見知らぬ土地にいた。
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