第24話
「―――爺さん。来たぞ~?」
「おお、来たか秋よ、待っておったぞ?」
―――これは、神などという大層な名前で呼ばれておる、ただの爺の物語。今日は誠に勝手ながら、そんなただの爺の話を、少しばかり語らせてもらうとするかの―――。
◇
まず第一に、儂は、いや神という存在は眠る必要がない。故に夜中という時間の中でも起きて何かをしているか、娯楽の一環として人間の睡眠を味わうかの選択ができる。まあ儂は眠らずに他の世界を眺めたりなどをしているが―――最近はもっぱら見ている世界は二つのみじゃ、一つは秋のいる地球。そしてもう一つが秋が向かう異世界イーシュテリアじゃな。
地球を見ているのは秋がどんなところで生きているか興味があるからじゃが、大体の事は分かったの。じゃがイーシュテリアの方は見れば見る程情報が溢れてくる。やれやれ、ここの世界を管理しとる神は何をしとるんじゃ。全く少しは叱らんとあかんのかのぉ…。管理する世界には責任を持て、神からの干渉を防ぐぐらいの管理はせねばならんと神界郷里でも教えておるはずと聞いておるのじゃがのぉ…。
情報といっても、世界全般の事ではなく勇者と呼ばれる存在の事じゃがの。しかしこの人間のやっておることは中々にひどい。まさか勝手に生活を奪い召喚した挙句に平気な顔して兵器として使うとはの?おっと、ダジャレじゃないぞ?―――ああ、すまんすまん。つい気にしてしまうんじゃ、許してくれ若者たちよ。
まあ勇者として崇められたとしてもたかが学生に分かるかの?自分が人を殺すことの責任・重圧を、その覚悟もない奴がここにいちゃいけんというのに…じゃが一人面白い奴を見つけたの、確か名前は陽といったか、こ奴の心の中は覚悟の鎖で自分をしっかりと支配できているの。残念じゃがのぉ…神界忌録が無かったら秋との話題に持ち出せるというのに……本当に残念じゃ。本当に。
まあでも、こ奴らを救うために秋は頑張っておるのじゃ、精々死んでくれるなとは思うが―――本当に大丈夫かのぉ?
「やれやれ、また神器を片手ににらめっこかい。どうしたんだ?最近お主おかしいぞ?ゼウスよ」
―――やれやれ、また来たのか婆さん。ああ今は暇じゃないんじゃがのぉ……
「やれやれ、また来たのか時空神の婆さん。どうしたんじゃ?こんな夜中に」
「どうしたも何も、お主が暇じゃから話し相手になっておくれと言ってきたのではないか!もう忘れたのか?まさか老化という訳ではあるまい?」
「いやいやまさか、そんなことある訳なかろう。じゃが最近は暇が埋まっておる。もう用はないから帰ってもよいぞ?」
「はぁ…全く神使いの荒い奴じゃが、あの空っぽで何もすることがなくただひたすらにぼーっとしていたお主がそこまで暇を埋めることになった要因も、気になるんじゃが?それに、お主が最近変わったことはこの神界郷里でも噂に持ち上がっておるぞ?」
「はぁ…だからあそこは嫌なんじゃ。儂と同じような奴が儂の事を話の種にして暇を埋めておる。だから人付き合いは苦手じゃ」
「ああ、お主は昔から―――あの時から変わっておらんのぉ…全能じゃが嫌いな事はせん。逆に好きな事には全力。はぁ…全くどうしてこうなったのやら」
「お主には言われたくないわ。この婆が」
「あんたも爺じゃぞ。お互い様じゃ」
この婆さんは時空神メリッサ。神界と全世界を結びつける時空と空間を司る神であり、儂と同じ七本指に入る絶対神の一人とされている。ちなみにゼウスが子供の意識があるころからこの時空神は婆さん。もう何年生きてるか分からんとされておる。神はその権能を他の神に移し自ら朽ちる世代交代を起こすことができるのじゃが、この時空神の婆さんは一人で原初の時代から世代交代を行う事なく神界に留まり続けている数少ない一人といってもいいじゃろうて。
「それで?―――あんたの暇つぶしの正体。私にも見せておくれよ」
「嫌じゃな。ああ嫌じゃ。もう嫌じゃからとっとと帰ってくれても構わないぞ」
「知っておるかゼウスよ――神様はどうしようもなく我儘で強情なんじゃぞ?それでいて強欲だ」
「これが神界に漏れたわけには儂の目の前に娯楽大好きな馬鹿ども6柱の顔が見えるのじゃよ…勿論お主も入っておるが」
「言う訳なかろうて。信頼してよいぞ」
「じゃがお主目の前で儂の暇つぶしの事ちらつかせて他の神の表情を楽しむ気じゃろう」
「………っち、勘のいいガキは嫌いだよ」
「だからお主にも他の神にも教えるのは嫌なんじゃよ。全くのぉ…」
「さあ!吐いてみろゼウス!吐けば楽になるぞ~?」
「儂はいつから容疑者扱いなんじゃて…」
さて……この状況どうしてくれようか……この糞婆の事じゃからなぁ…何か執拗に隠し事をしている事をネタに他の神に言うてしまいそうじゃし…ううむ!!
「早くしないと…お主が出し渋る程のネタじゃと他の神に告げ口するぞ?」
ほら来た!畜生あの外道婆めえ……はぁ。まあ良いじゃろう、ここは一つ巻き込んでやるとするかの。儂はただでは転ばん男じゃ!
「ちっ……まあ良いじゃろう。教えてやるわい…それに、これを聞いたら誰も他の神には言えんじゃろうしなぁ…」
「ん?まあ良いわ、教えてくれる気になったのなら答えよ。さあ早く!」
「ああ、そうじゃの、今儂が気にしているのは一人の少年。名は仲岡秋という」
「おお!それで?」
「儂はその少年を異世界に召喚するべく呼んだんじゃが、その際のスキル譲渡の際に『地球に帰ることのできるスキル』を手にしてしまった。儂が出し抜かれてしまってのぉ」
「―――ほぉ!!あの何柱もの神を破滅に追い込んだお主がか!」
「今は儂の事は関係ないじゃろう。じゃが、そのスキルの名をお主。答えられるか?」
「答えられるわけないじゃろう。何を言うか」
「【運命と次元からの飛翔】じゃ」
「…………は?お主。今何と言った?」
「ああ、そうじゃろう。じゃからもう一度だけ言ってやろう。【運命と次元からの飛翔】。じゃよ」
「お、お主。それは…」
「ああ、そうじゃ。運命神がその命の大半を削り完成させたスキル。文字通り神からの運命と神界からの飛翔を果たすことのできたスキルで―――儂に使う事ができない。文字通りのゴッズ・スキル。じゃ」
「お主……そんなものをどうして…はっ」
「そう、見えたじゃろう?今や“あの話”は上級・下級問わず話題に出すことすら憚られる。なんせ神界忌録やルールの厳格化を招いた事件じゃったからなぁ。まあ、少なくともお主ぐらいは巻き込んでおきたかったからの、儂と同じように運命神に期待しておった儂たちはの」
「―――聞きたくなかったよ。やっぱりアンタは全能神さね。ゼウスの坊や」
「ああ、そして儂は秋に期待しとる。秋はあ奴の様に他者の期待などを一切受け付けない。自分で完結しているような、全てにおいて自分を優先しているような、そんな何を差し置いても自分の身を案じ、行動する。そして次に自分の中にいる人間を守ることのできる。言ってしまえば“他者の命を捨てる事が出来る人間”じゃ。だからこそ儂は期待しておる。秋に期待しても秋はそれに応えようという気概がない。むしろまだ疑ってすらいる。儂が次に何か害を成そうものなら、おそらく秋は関係を絶つか、儂を殺そうとその命をかけてやってくるじゃろう」
「―――ゼウス。全能神たるお前がそこまで言うとは、似ておるんじゃな」
「儂と運命神は似ておらんかった。そして儂と秋は似ておる。全能とは他者を助けるものではない。他者を支配し一番に成りあがる。つまりは唯我なのじゃよ。全能とは全にして一。全にして個。他にして自分なのじゃ。お主には分かるじゃろう?時空神や」
「……ああ、そうさね。今日は確かにいい話が聞けた。じゃがこれは私の胸にしまっておくよ。これ以上坊ちゃんの悪口が囁かれている所なんて、見たくはないからね」
「それがええ。儂らの罪は、儂らの中でじゃ」
「じゃあな、ゼウス。また近いうちに来るよ」
「―――もう来んでええぞ?秋が儂に飽きるか、儂が秋に飽きたらまた連絡するわい」
「今度はお前に会いに来るんじゃない。お前のお気に入りに会いに来るんだ―――またな。ゼウスや」
「はぁ……全く。うまくいかんもんじゃの…」
こうして時空神メリッサは時空を超えて帰っていった。
「はぁ……今度こそ。必ずじゃ。秋。お主には必ず生きてもらわねばならん」
―――もう、運命神の二の舞にはなってほしくない。
そう、脈絡もなく思いながら、白い天井を見つめながら力なく座っていたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます