第六話 『使役』スキルを上げてみた。


 エイス大陸クロニクル正式サービス開始から現実で一週間。ゲーム内の時間で二週間が経ちますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 私は今日も無事、本日11回目の死を迎えたところでございます。


「……」


 いや、だってね?

 四日ぐらい前にジャイアント・マンティスとか言うカマキリ倒していい気になってたけど、敵はあいつだけじゃないんだよ。


 むしろあいつは前座だった。このエリアで一番ポップするような雑魚モンスターだった。先に進めば進むほど、何か化け物みたいなモンスターが増えるんだって。


『グルゥゥ?』


 ほら、歩いていると目の前に、二つの顔を持つデカいワンちゃんが。 

 二つある顔の合計四つの目が、私を見つめて睨み殺さんばかりだよ。ほんとこえぇぇ。


『グルゥゥ』


 取りあえず潰しておくかみたいなノリで振り下ろされた前足を、私は転がりながら回避する。

 だってあれ、少し掠めるだけで私死ぬからね? あいつの爪には毒があって、解毒剤もってない私は十分以内にお陀仏だよ。もう何回も試してるから間違いない。


「えいっ!」

『ぐぎゃっ?』


 素早く立ち上がり、振り下ろされた前足の爪と爪との間に木の棒を突き立てる。

 もちろん突き刺さったりはしないけれど、これが一番この犬っころには効果的みたいだ。痛がり方を見たら解る。


 怒ったようにやたらめったらに前足を振り下ろしてくる犬っころ。死ぬって、本当に死ぬってっ!


「く、うわ、おっと……えいっ!」

『ググェっ?』


 隙を見て、再び爪と爪との間に木の棒を突き込む。怯んだ顔をする相手。それを何時間も延々と繰り返し、最後に迫って来た片方の口を避け、素早く木の棒を突っ込んでようやく倒す。

 やばい、疲れた……。


――――【オルトロス】を討伐しました。経験値6752を獲得しました。

――経験値が基準に達しました。LVが43から44に上がりました。クラスLVが19から20に上がりました。

――スキルポイント17を獲得しました。


 やった、スキルポイントが17も貰えた。けど振り分ける前に素材回収しないと。

 他のモンスターに見つかったら、回収が困難になっちゃう。


――【巨大な牙】×4を入手しました。

――【猛毒の爪】×2を入手しました。

――【頑強な毛皮】を入手しました。

――【筋張った肉】を入手しました。

――入手したアイテムをインベントリにしまいました。


 初めて倒した敵だけど、オルトロスって言うんだ。

 あんまりお肉は美味しくなさそうだけど、お腹が減ったら食べるしかないよね。

 なんかゲーム内で十日間を過ぎた辺りにアップデートがあって、空腹や味覚が実装されたみたい。

 

 面倒な事に空腹になりすぎると、HPが減りだすからたちが悪い。ステータス値に変化はないけど、明らかに動きも悪くなるし……。

 おまけに死に戻っても空腹感は消えないから、何か適当なものを食べて腹を見たなさいといけない。でも味覚も実装されたから、食べられるものじゃないと身体が拒否を示すんだよね。

 選べるスキルの中に、調理スキルとかあったかな? はぁ。


 それとそのアップデートの情報を知った時に、運営から開始日にメールが来てたことに気付いたよ。そう言えば、ログインして二回目に死に戻りした時、一瞬何かが視界を覆ったっけ? あれがそのメッセージだったのかも。

 それによると、やっぱり私がこんな変なエリアにいるのはバグだったみたいだ。他の人も何人かは同じような目に遭ってるらしい。

 運営に連絡すれば対処してくれるみたいだけど……今さらだよね?

 どうせなら自力でこのエリアを脱出したいと思う。


 取りあえず、獲得したスキルポイントををさっそく技・魔法スキルに振り分けステータスの確認をする。




名前:アンズ  LV.45/100 

種族:ヒューマン

クラス:魔剣士 LV.20

スキルポイント:369



HP 340/420

MP 380/380

 攻撃力 238(+5)

 防御力 215(+10)

 敏捷性 198

 命中力 180

 魔法耐性 178

 賢さ 156


一般スキル

 『鑑定LV.6』『気配感知LV.1』『隠密LV.2』『採取LV.1』『使役LV.1』『暗視LV.6』『悪食LV.3』


技・魔法スキル

 『火炎魔法LV.1』『水魔法LV.9』『土魔法LV.8』『風魔法LV.8』『回復魔法LV.7』

 

称号  オプション効果を表示する ▽

 『二兎を追う者』

 『下剋上』

 『不屈の闘志』


武器・装備 説明欄を表示する ▽

武器

 『木の棒』レア度:E 品質:―― 耐久値:―― 効果:攻撃力+5 

装備

 『布の服』レア度:E 品質:―― 耐久値:―― 効果:防御力+5

   『布のズボン』レア度:E 品質:―― 耐久値:―― 効果:防御力+5




 うん、うん。中々良い感じなんじゃないかな。


 周囲に人がいないので、私のステータスを見比べる相手もいないけれど、きっとなかなかのものなはず。たぶん。おそらく、そう願う。

 

 特に技・魔法スキルの欄がすごいよね。

 一切魔法使っていないのに、スキルポイントのおかげで軒並みレベルが上がってる。『火魔法』なんて『火炎魔法』に進化してるし。ほんと、一回も使ったことなかったのになぁ。


……いや、明らかな格上相手に、良く分からない魔法とか撃ってる暇ないから。それならまだ、格闘ゲームで慣れてる近接戦闘の方が勝ち目あるから、ね? 仕方ないよ。


 一般スキルの中で重宝してるのが『暗視』と『隠密』。『隠密』は『忍び足』が進化したものだけど、『暗視』と『隠密』でほぼ相手の不意を打つことができる。圧倒的に戦闘力の差があるからね、不意打ちは大事だ。

 レベルは上がってるけど、『鑑定』はまだそんなに役立ってない。相手のレベルが高いせいなのか、モンスターの情報とかあんまり表示されないし。

 せめて名前ぐらい……まぁ、仕方ないか。


 『採取』や『使役』は『鑑定』よりも悲惨だ。息してない。本当に使う機会が全然ないよ、どうしよう。

 というより、使役ってどうやってレベル上げるんだろう。スキルポイント振れないし、レベルが1でもモンスターを使役できるんだろうか?


『ギギ?』


 あ、ちょうどカマキリが現れたし、色々と試してみよう。もしかしたら使役できるかも。


 振り下ろされた鎌を躱し、その鎌に飛び乗る。

 カマキリは振り下ろした鎌を直ぐ上に上げる癖があるので、私の身体は軽々とカマキリの頭上へと到達。そこから飛び降りて木の棒を振り下ろす。


「お手っ!」

『ギっ?』


 脳天へと木の棒叩きこみながら、取りあえず躾けるつもりでそう指示を出した。分かっていたけれど、カマキリは衝撃によろめいて後退っただけだ。

 この方法じゃ駄目なのだろうか――いや、まだだ。


「おかわりっ!」

『ギウっ!』


 カマキリの鋭い斬撃を躱しつつ、足元に潜り込んで飛び上がりながら木の棒を腹に打ち込む。カマキリは怯んだように飛びあがった。


「こらっ降りてこいっ!」

『ぎ、ギギギっ!』


 大きな翅をバサバサと羽搏かせ、私の言葉に反応したわけではないだろうけれどこちらへ突っ込んでくる。そのスピードはなかなかのものだ。

 けれどこのダンジョンには天井があって、なおかつそれほど高いわけじゃない。カマキリの大きさを考えると飛べるだけ広いと言えるのかもしれないけれど、やっぱり機動性では損をしてるのだろう。

 特に捻りなく一直線に突っ込んできたその巨体を、転がりながら躱す。カマキリは着地した後に羽を仕舞ってからこちらを向くまで隙ができる。そこが狙い目だ。


「お手っ!」

『グガっ?』


 それから延々と指示を出しながら攻撃を続けた。結果、数時間後――カマキリは骸に成り果てた。やはりこのやり方は駄目だったのかもしれない……いや。


「あれ? 『使役』がレベル2になってる。嘘……やったっ!」


 カマキリを倒してレベルが上がったのでステータスを見れば、『使役』がレベル2になっていた。これはやはり、意味があったと見るべきかもしれない。


『グルゥ?』


 ステータスを確認していると、再びオルトロスとか言う二つ頭の犬が『気配感知』に引っかかる。

 よし、確かめるためにもう一度やってみよう。


「わんちゃんっ! お手っ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る