第47話 学校の校庭
私は学校の校庭の端にある木陰の所に座り、ボーっとグラウンドを見つめている。
昨日家に帰ってからちーちゃんからもう一度告白をするシチュエーションとして大量のメッセージが送られてきて、それの対応をするのに大変だったのだ。
いろいろな案を送ってくれたちーちゃんだけど、中には「断崖絶壁に行って付き合ってくれないと飛び降りる」と言ったとても告白ではなく脅迫と思えるようなシチュエーションまで含まれていた。
私の事を思ってメッセージを送ってくれるんでしょうけど、もう少し現実的なのが良かった。
それでも有用なメッセージも少しはあった。
どうやら紅凛の好きなパンツの色は薄緑色だったと言う事だ。好きな人の好きな物を知れるのは嬉しい。できればパンツ以外の事が良かったのだけど。
そのせいもあってか私は家にあった薄緑色の下着を今日は着けている。別に見せる訳ではないのだけど、紅凛の事だから目聡く見つけた時に喜んでくれるかなって思ったからだ。
「見せちゃえ」
無理よ。それに紅凛は偶然見える事に拘りがあるから、自分から見せても喜んでくれないもの。
そんな話をしていた私の所に野球のボールが転がってきた。
「すみませーん! こっちに投げてくださーい!」
校庭で部活をやっている野球部員が私にボールを取るようにお願いしてきた。
ここから見る限り八人ぐらいしかいないように見えるのは魔女を召喚するために魔力を吸い取られた人が多いからでしょうか。
私は立ち上がり、ボールを拾い上げると声を掛けてきた野球部員に向かって思いっきりボールを投げた。
大きく放物線を描いたボールはちょうど半分ほど行った所で落ちてしまった。
「ぷっ! ありがとうございました!」
お礼を言う前に笑ったな? 人が親切心で取ってあげたって言うのに許せない。
私の怒りは収まる事を知らず、野球部が練習をしているのも構わず文句を言いに行く。
大きな声で練習をしている野球部員は私が文句を言いに来た事に気付いてさえいないようだ。
私が「すいませ―ん!」と声を掛けても誰一人として私の対応をしてくれる人はいない。
絶対に気付いているけど無視しているわよね。私はノックをしている野球部員に近づこうとした所、誰かに肩を掴まれてしまった。
「練習中だから近づいたら駄目だ。用があるなら俺が聞こう」
振り向くとエプロンみたいなのを着けた野球部員が立っていた。すぐに肩から手を放してくれたのだが、今でも肩がジンジンしている。凄い力だ。
私よりもはるかに大きい体に気圧されそうになるけど引く事なく文句を言った。
「そうか。悪かったな。部員には俺から注意しておく。だから早くここから離れろ」
何その言い方。本当に悪いと思っているんでしょうか。
「おーい!
「分かった。今行く!」
静二と呼ばれた男はグラウンドの端にあるピッチング練習ができる所に走って行ってしまった。
そのマウンドの上には静二と同じような顔をした人物が肩を回して準備をしている。兄弟なんでしょうか。
怒りをぶつける所がなくなってしまった私は仕方なくグラウンドから少し離れてピッチング練習を見学する。
バチーン!!!
ピッチャーから投げられたボールがグローブに収まると乾いた音が響いた。
どれぐらいのスピードなのか分からないけど、私から見れば凄い速さだ。
私たちの学校は部活に力を入れている訳ではないので、大会に出てもほとんどが一回戦や二回戦で負ける部活が多いのだけど、今のボールを見る限りとてもそこまで弱いようには見えなかった。
「
どうやら投げているのは優成と言う部員らしい。優成はどんどんボールを投げ込み、そのたびに乾いた気持ちの良い音が響く。
何時までもこんな所に居ても仕方ないので、私が立ち去ろうとした時、
「よーし、次からは本気で行くぞ!」
そう言うと二人はポケットに仕舞ってあったスマホを取り出した。
野球をしている最中にスマホ? 不思議に思った私が足を止めると、
『
魔法を使う声が二人のスマホから聞こえた。部員たちが練習をしているのでその声にかき消されてしまって聞こえずらかったけど確かに聞こえた。
優成がピッチングを始めるとさっきとは比較にならないほどのスピードでボールを投げている。私から見ればあんなボールはプロでも……いえ、人間にはとても打てるような速さじゃない。
凄いのは優成の速いボールだけでなく、そのボールを難なく受け止めている静二も私からすれば考えられないほどの反射神経だ。
もしかして、あの二人、魔法を使って身体を強化しているんじゃないでしょうか。
「多分、そう」
予想外の所で魔女を持っている人を見つけてしまった。
どうしよう。紅凛に連絡した方が良いのかな? でも、悪い事に使っているようには見えないんだよね。
今話しかけた所で相手にされないか邪険に扱われるだけなので、私は部活が終わってから話を聞いてみる事にした。
大して興味のない部活だけど、帰るのを止めて部活を見学し、終わるのをじっと待った。
それにしてもグラウンドで汗を流す男性ってどうしてこんなに格好良く思えるんでしょう。
紅凛も帰宅部じゃなくてちゃんとした部活に入って汗を流せば結構人気が出るんじゃないかしら?
部活が終わったのは陽が沈みかけてきたころだった。
学校には照明設備何てないので、暗くなる前に部活は終了するらしい。
私は早速、片づけを始めた二人の所に行き、話をする事にする。
まずは魔女を持っているかどうかの確認だ。それによって対応を変える必要があるかもしれない。
「魔女? あぁ、スマホの中にいるぞ。それがどうした?」
意外にも優成はあっさりと魔女を持っている事を教えてくれた。
私は魔女を持った事でいろいろな事があり、他の人に魔女を持っているかと聞かれてもどこか警戒してしまうのだけど、そう言う警戒などどこにもなかった。
ある意味羨ましいと思ってしまった。私もエヴァレットと出会って何の事件も起こっていなかったら、この二人と同じように素直に魔女を持っているって事を言えるのに。
私は頭を振って余計な事を考えるのを止める。今は魔女を削除する事を優先しないと。
「魔女を削除しろだと? それは無理だ。 俺たちはこの力を使って甲子園を目指すんだ」
どうやら魔女に魔法を使ってもらい、体を強化して凄いボールを投げられるようになったり、そのボールを難なくキャッチできるようになっていたらしい。
それ自体が人に危害を加えるような事ではないのだけど、やはりこういう事に使う人がいるって言う事は魔女はいちゃいけないのかもしれない。
スポーツって自分の努力でどこまで上手くなるか、強くなれるかであって魔女を使って得た力で勝ってしまうって言うのは間違っていると思う。
私は何とか魔女を削除してくれるように説得をするけど、二人にはどうして魔女を削除しなくてはいけないのか理解できないようだ。
人を殺してしまうって事や操られてしまうって事を一生懸命説明するけど、実際にそんな事を見たりしていない二人はなかなか信用してくれない。
どうやって説得したら説得に応じて削除してくれるのでしょう。
「俺たちは後片付けがあるんだ。邪魔しないでくれ」
優成たちが後片付けを続けようと行ってしまおうとしている。どうしよう。このままでは魔女を削除する事ができない。
焦っていた事もあるでしょう。私は咄嗟に思いついた事を口に出してしまった。
「私と野球で勝負しなさい! 私が勝ったら魔女を削除してもらうわ!」
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