第10話 サーバー調査

 学校に着くと昇降口は当然のように閉められており、学校には簡単に入る事ができないようだった。


「もう生徒がいないんだから昇降口が締まってるなんて当たり前だろ。だが、ボクはちゃんと違う所から学校に入れる方法を知っているのだ」


 チラチラと神前を見ながら自分は優秀だとアピールする串間だが、神前の反応は薄い。どうでも良いけど、そんな事は後でやってくれ。

 少し落ち込みながら串間が僕たちを連れて行ったのは一階にある教室の前だった。何の変哲もない教室なのだが、こんな所から入れるのだろうか。


「この教室の一番端っこの窓は鍵が壊れているんだ。これはこの教室を使っている人とボクしか知らないんだ。凄いでしょ神前さん」


 再び神前に自分の優秀さをアピールする串間だが、神前は串間の毎回のアピールに疲れてきており、辟易した顔になっている。


「ちょっと。串間君を何とかしてよ。毎回毎回アピールしてきて気持ち悪いし、鬱陶しいんですけど」


 神前が小声で僕に不満を言ってくるが僕にはどうする事もできない。だって串間は僕がいないものだと思って行動してるんだもん。


「神前さん。行きますよ。あんまり学校の外でウロウロしていて誰かに見つかったら怪しまれちゃう」


 串間が鍵が壊れている窓を開けて教室の中に入って行く。それに続いて僕が教室に入り、神前も続こうとするが、上手く登れないようだ。

 串間の言った通り、苑であんまりノロノロとしていると誰かに見つかってしまうかもしれないと思い、手を握って教室に引っ張り上げてあげると神前も無事に教室に入る事ができた。


「あ、ありがとう。手伝って貰わなくても一人で入れたんだけどね」


 そっぽを向いてお礼を言ってくる神前の耳が赤くなっているように見えるのだが、電気の付いてない教室では良く分からない。

 そんな僕たちの様子を見ている串間の視線が痛いので、急いで後を付いて行く。僕は学校のサーバーがどこにあるのかもしないが、串間はどこにあるか知っているようで迷いなく廊下を進んでいく。


「誰も居ない学校って何か不気味ね」


 すでに日も暮れ、灯りの点いていない学校は確かに不気味で夏だと言うのに嫌な涼しさすら感じられる。

 だが、それは精神的な物であって、実際、学校の中は蒸し暑く、サウナに入っているように汗は留まる事を知らず流れて着けている。

 串間は職員室を通り抜け、その隣にある部屋に入っていった。こんな所にサーバーがあるんだ。良く知ってるな。


「ボクだから知っているんだ。凄いでしょ。神前さん」


 神前は串間の事が怖くなってきたのか僕の後ろに隠れてしまっている。止めてくれよ。僕が串間に睨まれているじゃないか。


「だってあそこまでアピールされたら怖くなるわよ。私もう帰っていい? 気分が悪くなってきたんだけど」


 もう少しだけ我慢してくれ。サーバーの中を確認できたら帰って良いから。

 アピールをし終えた串間がパソコンを操作し始める。パスワードとかIDとかは知っているのだろうか。


「そんなのは確認済みだ。サーバーを管理している先生のメモにパスワードとIDが書かれていたのを見た事があるからな」


 おぉ、久しぶりに僕の問いかけに普通に答えてくれた。串間も神前に怖がられているのが少し分かったのか?

 それにしても先生がパスワードとかメモするってこの学校は大丈夫なのだろうか。


「ダウンロードだけならかなりの人数がしているな。数からすると全校生徒の数を上回っているから他の学校の生徒や普通の人もダウンロードしているんじゃないのか?」


 マジか。予想以上にたくさんの人がダウンロードしていたんだな。そんなに持っている人がいるならやっぱり一人一人確認していくって言うのは無理なようだ。

 それならダウンロードの履歴かなんかで魔女を持っている人が分かるとありがたいのだが……。


「そんな情報はどこにもねぇよ。少しはボクみたいに頭を使えよな。ねぇ、神前さん」


 神前は完全に怖がってしまい、僕の後ろから全く出てこなくなってしまっている。そんなに背中にくっ付かないでくれるかな。僕からの熱と神前の熱で凄く背中が暑いんだけど。


「仕方がないでしょ。だって私を見る目が何か怖いんだもん」


 僕は人の色恋沙汰には首を突っ込まないようにしているので、そこは自分で何とかしてほしい。


「何よ。私がこんなに困っているのに。分かったわよ。人の恋愛には首を突っ込まないって言うなら突っ込まざるを得ないようにしてあげるわよ。紅凛。私と付き合いましょ」


 えっ!? 何? なんでこんな所で告白してきてるの? 串間が凄い形相で僕を睨んできているんだけど。


「これで紅凛も無関係ではなくなったわね。さあ、存分に私を守ってちょうだい」


 何て奴だ。自分が串間から逃れるために僕に告白をして巻き込んできやがった。

 こんな事を平気でできるなんてある意味、串間より神前の方がやばい奴なんじゃないかと思えてくる。


「何なんだよお前! さっきから。散々邪魔してきたと思ったらボクの神前さんにまで手を出して。絶対に許さないからな!」


 神前さん。完全に僕が標的になってるではありませんか。何とかしてもらえませんか?


「自分の事なら何とかするんでしょ。が・ん・ば・っ・て」


 悪い顔で笑顔を浮かべてやがる。


「イリーナお前の出番だ! 花音を痛めつけてやれ!!」


 串間が元気よく僕に向かって指を差し出すが、何も起こらない。


「なになに? 私の出番? 魔女相手に戦うなんて久しぶりね」


 フォルテュナさんには悪いがもう少し大人しくしていてもらいたい。何やら串間の方の様子がおかしいんだ。


「なんで私が魔法を使わなくちゃいけないの? 面倒臭い」


「お前のご主人はボクだろ? だったら僕の言う通り動けよ! 面倒臭いって言ってないで立ち上がって攻撃しろよ!!」


 どうやらイリーナは攻撃するのを拒否しているようだ。僕の事を思ってと言うより戦うこと自体が面倒臭いような感じだ。


「ご主人? 馬鹿な事を言うんじゃないわよ。面倒臭い。私に主人何て……面倒臭い」


 おい! ちゃんと会話をするのも面倒臭くなったのか? 最後の面倒臭いの前に何を言おうとしたか分からないじゃないか。


「良いのよ。どうせ言っても分からないんだから。面倒臭い」


 イリーナには全く戦う気がないし、僕を攻撃するような雰囲気もない。啖呵を切ってしまった串間はどうするんだろう。


「クソッ! 今日の所は大人しく引いてやるよ。ボクは帰るから後はお前の好きにしな。神前さん、帰りましょう」


 串間が部屋から出て行くが神前が付いて行く事はない。良いのか? 折角誘ってもらったのに。


「行く訳ないでしょ。一緒に帰ったら何をされるか分からないし、誰かと一緒に帰るなら紅凛の方がまだマシだわ」


 僕の存在価値は串間よりもマシな程度か。まあ、良いんだけどね。


「全部お前のせいだからな! 覚えておけよ!!」


 そう言うと串間は一人でサーバー室を出て行ってしまった。僕としては完全にとばっちりだ。神前に責任を取ってもらいたい。


「なんで私が責任を取らなくちゃいけないのよ。自分の事なんだから自分で何とかしてよね」


 もう良いや。サーバーにも手掛かりはありそうにないから僕たちも学校から出ようとしたけど、一つだけやっておきたい事を思い付いた。

 それは学校のサイトからアプリをダウンロードできるリンクを消しておく事だ。三人ともアプリを入れた事がきっかけになっているのでリンクを消しておけばこれ以上、アプリを入れる人は増えないはずだ。

 だが、ここで改変しようとしたファイルの所に名前を見つけた。「旗持はたもち 環季たまき」と書いてあるファイルは製作者の名前ではないだろうか。


「旗持? その名前なら聞いた事があるわ。去年卒業して私たちとは入れ違いになってしまったけど、高校始まって以来の天才って噂されてた人よ」


 そうなんだ。そんな人がこのサイトを作っていたんだ。って事はアプリを作ったのも旗持先輩なのかもしれない。その旗持先輩って今どこにいるんだろう。


「どうだろう? 大学に行ったって話は聞かないし、他の先輩とかなら知ってるかな?」


 そんなに頭がよかったのに大学に行かなかったのか。頭が良すぎる人は時々理解できない行動をするからな。

 今日はもう遅いし、明日ちょっと探してみた方が良いかもしれないな。旗持先輩がこのアプリを作ったのだとしたらどうして魔女がいるようになったのかも聞いておきたいし。

 これが分かっただけでも学校に来た意味があったかもしれない。僕たちは元来た廊下を戻り家に帰る事にした。

 途中で串間が待っているかとも思ったが、そんな事はなかった。外も蒸し暑いのだが、校舎の中に比べればはるかに天国のように思えた。

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