第9話 私、実は……
「うーん……どれにしよう……こっちも美味しそうだし……でもカロリーが……」
「どんだけ悩むんですか……」
現在、俺と優美さんはケーキ屋さんに出向いていた。というのも学校が終わった後、二人で家の近くのスーパーに行き買い物をしていたのだが俺は料理を作ってもらうのに何もしてないのは流石に悪いと思い優美さんに「ケーキ買って行きませんか?」と提案をしたのだ。
すると優美さんは目を輝かせて
「おっ! いいね! じゃあさっさと買い物終わらせてケーキ屋さん行こっ!」ーーと言ってすぐに買い物を終わらせ今に至る。
だが、かれこれ20分ほど優美さんはどれを買おうかガラスケースの中のケーキとにらめっこしていた。
いや流石に店員さんも苦笑いしてるからそろそろ決めたほうがいいと思うんだけどなぁ……だけどめちゃくちゃ真剣そうな表情してるんだよなぁ……
俺が優美さんとは別のことで頭を悩ませていると優美さんは涙目になりながら俺の方を振り返る。
「ね、ねぇどうしよ春樹くん! 全然決められないよ!」
いやケーキくらいでそんな泣きそうにならなくても……
「そんなに決められないなら二つとも買ってきますか?」
「えっ……でも、カロリーが……」
「別に今日で食べ切らなくてもいいわけですし、ね?」
俺は優美さんは少し強引だが言いくるめるようにして店員さんに優美さんが食べたがっていたケーキを両方注文した。てか今日で食べ切らなくてもいいって言ったけど実際大丈夫かな……まぁ最悪俺がどうにかするか。
「あ、ありがとね。お金は後で渡すから」
「いいですよ。俺のご飯を朝から夜まで作ってもらってるんですしこれくらいはさせてください」
「で、でも……」
優美さんは申し訳なさそうに下を俯きながらもじもじしている。そしてそのタイミングでちょうど店員さんがケーキを箱に包んで持ってきてくれた。すると店員は優美さんに教えるように少し大きめのハキハキとした声でニコッとしながら
「こちら3日ほど持つので今日で食べきれなくても大丈夫ですからね」
この人俺が不安そうに思ってたのわかってたのか? なんて神店員なんだ……
俺が店員さんに色々な意味を込めて「ありがとうございます」と言って優美さんの方を振り返ると少し頬を赤らめながらも嬉しそうにしていてその様子がとてつもなく可愛かった。
そして俺と優美さんは改めてお礼を言ってお店を後にして二人で家に向かった。
「優美さんって意外に食いしん坊なんですね」
「ち、ちがうんだよ?! そ、そのあれはどれも美味しそうで……もぉ! 春樹くんの意地悪!」
俺が揶揄うようにいうと優美さんはポカポカと両手で俺を叩いてくる。本当に毎回、反論の仕方お子ちゃますぎるだろ……まぁ可愛いけどさ。
俺がそんなことを思いながら優美さんの攻撃を受けていると優美さんがいきなり歩いている足を止めた。
「どうしたんですか?」
俺が尋ねると優美さんは下を俯いて自分の髪先をくるくるしながらもじもじとしながら
「あ、あのさ一つだけお願いごとしてもいい……?」
優美さんはそう言って袋を持っていない方の俺の手を指を絡めるように握ってきた。
こ、これってまさか巷でよく聞くこ、恋人繋ぎって奴では?! や、やべぇ手汗吹き出そう。てかもう出てる気がするぞこれ……てか手の感触すべすべすぎるだろマジで……
「あ、あのこれって……」
「わ、私実はね男の子と手を繋いだこともなくてだからその最初は好きな男の子と手を繋ぎたくてそれで……」
優美さんは俺のことを上目遣いで見ながら震えるような声でそんなことを言ってくる。いやさ? だからそういうのは反則じゃん? 可愛すぎるじゃん? てか手繋いだことない人が朝からキスとか胸とか押し付けたりするってそんなことあるか……? 女子ってわかんねぇ……
俺が疑問に思っているとちょうどいいタイミングでその解答が優美さんの言葉から発せられる。
「私、本当は男の子と目を合わせて話すのも苦手で……だけど「好きな男の子を落とすには積極的に!」ってサイトに書いてあったから頑張ったけどやっぱり恥ずかしくて……それに手慣れてる女って思われてそうで……」
はいその通りです思ってましたね……なんかごめんなさい。
「だから私本当に手慣れてないしだからその私のことビッチとか思わないでね……? そ、その私しょしょしょ処女だし……」
優美さんは顔を真っ赤にし涙目になりながら俺に必死に伝えてくる。俺はその優美さんの姿があまりにも愛らしかったのか気づけば袋を地面に置いて優美さんの頭を優しく撫でていた。
「あ、あのは、春樹くん? いきなりどうしたの?」
「えっ?! あ、いや、これはその……」
いや無意識で頭撫でるとかなんだよこのありがちなシチュエーション?! 優美さんめっちゃきょとんとしてるし。いやそりゃそうかいきなり頭撫でられたらそりゃ驚くよな……てか正直に言うのめっちゃ恥ずかしいしどうしよ……
だがもうしてしまった以上、後には引けないので素直に言うことにした。
「優美さんの姿があまりにもそのか、可愛くて……」
自分でもわかるくらい体温が上昇していき胸の鼓動が早くなる。俺は恥ずかしさのあまり顔を背けた。すると優美さんは勢いよく俺の胸に飛び込んできた。
「ゆ、優美さん?」
「……嬉しすぎて死んじゃいそうだよバカ」
優美さんは俺の胸を一回ぽんっと叩きながら小さい声で言ってくる。
「す、すいません……」
「……もう一回言って」
「い、今なんて?」
「悪いと思ってるならもう一回可愛いって言って……」
い、いやそれはずるくないか?! こっちも死ぬほど恥ずかしいんだけど……てか優美さん周りの人がすごく暖かい目で見てます……だけど言わないと絶対引いてくれないよね……
「か、可愛いです」
「……名前呼びながら」
なんか注文増えてね……?
「優美さん、可愛いです」
「どれくらい?」
「め、めちゃくちゃ可愛いです」
「…………えへへ」
俺が言い終えると優美さんはさらに俺の胸に顔を埋めじたばたと身悶えだした。
そしてしばらくして顔を上げた優美さんは満足そうな顔で「よしっ! じゃあ帰ろっかっ」と俺の手を先程のように指を絡めるように握り、手を引っ張ってくる。
「ほんと調子いいよな優美さんは……」
「ん〜? なんか言った?」
「優美さんは甘えん坊って言っただけですよ」
「あ〜! 年下のくせに生意気な〜!」
俺と優美さんはそんな他愛のない話をしながらまだ帰り進める。俺は優美さんとのこんなやり取りでさえも気づけば楽しいと思っていた。
そして俺はこの時、心の中で優美さんへの気持ちが変わりつつあることに少しずつ気づき始めていた。
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