第175話 嘘つき

「フゥ~……」


 天祐への説明し終えたところで、重蔵に深く切り裂かれた腹部の傷を回復を終えた限は大きく息を吐く。

 その表情は疲労の色が濃く、鬼の姿から人間の姿に戻っている。

 重蔵との戦いと傷の回復で、一気にかなりの魔力を消費したからだ。


「……なあ」


「んっ?」


 天祐が限に話しかける。

 残り僅かな命でありながら何か聞きたいのか気になったため、限はそれを受けることにした。


「この敷斎王国を潰して、お前は何を求めているんだ?」


「フッ! 敷斎王国ね……」


「何だ?」


 天祐の質問に、限は鼻で笑う。

 その反応に、天祐は若干ムッとしながら説明を求めた。


「ここが敷斎王国だろうとアデマス王国だろうと、俺はどうでもいい」


 重蔵に続き、天祐までも死んだとなったら、ここは外にいるアデマス軍に奪還されることになる。

 そうなれば、敷斎王国なんてものは消滅。

 新生アデマス王国の誕生ということになるだろう。

 しかし、限からすると、全く興味のないことだ。

 重蔵と天祐、それとオリアーナに復讐を果たすことが目的であって、国がどうこうということは二の次だ。


「じゃあ何でアデマス軍と行動していた?」


「都合が良かったからだ」


 敷斎王国を潰すことが目的ではなかったというのなら、どうして限はアデマス軍と共に行動をしていたのか。

 その問いに対し、限は間髪入れずに返答する。

 いくら自分でも、レラと従魔たちだけで敷島の人間を倒すことなんて危険すぎる。

 なので、敷斎王国の打倒に決起したアデマス軍を隠れ蓑にすることで、目的を達成することができたのだ。

 別にアデマス軍でなくても、敷斎王国に敵対する組織ならどこでも良かったというのが限の本音だ。


「……なあ、お前は王になる気はないか?」


「……俺が? 王にだと……?」


 天祐の突然の提案に、限は面食らったように声を漏らす。

 国王になろうなんて、これまで一度として考えたこともなかった。

 そのため、そんな提案がされるとは思ってもいなかったからだ。


「そうだ。お前も父の血を継いだれっきとした敷斎王国の王族だ」


「…………」


 言われてみれば、確かに敷斎王国の王である重蔵は実の父だ。

 天祐の言ったように、ある意味では自分も王族と言っていいだろう。

 ならば、確かに王になる資格はあるといっていいかもしれない。

 そのことを、限は無言で思考した。


「お前が王となるのなら、俺が国民に証明してやる。敷島の人間なら、お前のことを覚えている人間もいるはずだ」


「なるほど……」


 重蔵の血を引く自分なら、確かに王になる資格はあるだろう。

 そして、本当に王になるとしたら、国民に証明する必要がある。

 その時天祐がいれば、証明することも難しくなくなるため、限は納得の声を漏らした。


「それは面白そうだな」


「そうだろ?」


 この国を自分の好きにできる。

 そのことに、限が笑みを浮かべて納得の声を出した。


「っっっ!!」


 会話をしながら距離を詰め、天祐はずっと限の視線を追っていた。

 そして、その視線が自分から完全に外れた瞬間。

 そこを狙って、天祐は限に切りかかった。

 重蔵との戦闘と回復魔法。

 それによって魔力を大量消失し、疲労している今の限なら、自分の至近距離からの不意打ち攻撃には対応できないはず。

 あと少しで、魔物兵器となった重蔵を使った最強の敷斎王国国王となる予定だったというのに、それが目の前で崩れ落ちたのだ。

 まともにやっても勝てないからと言って、死を待つだけなんて天祐には我慢ができなかった。


「……フッ!」


“ガキンッ!!”


「なっ!?」


 天祐の攻撃を、限は顔を向けることなく刀で受け止めた。

 当たると思っていただけに、天祐は信じられないといった表情だ。


「何を驚いているんだか……」


 種明かしと言わんばかりに、限は自分の首を指差す。

 その首には目が付いていた。

 先程も言ったように、自分は肉体を操作することができる。

 腕を生やすことができるし、目もそうだ。

 天祐のように殺気をギリギリまで抑えた感知しづらい攻撃だろうと、ちゃんと見ていれば問題ではない。


「くっ!! この……」


 不意打ち攻撃を止められ、もう引き下がることはできない。

 ならばと、天祐は破れかぶれに限へと攻撃を開始した。


「シッ!!」


「がっ!!」


 連続攻撃を躱し、限は隙のできた天祐に刀を振るう。

 その攻撃により、天祐は腹を斬り裂かれ、その場に崩れ落ちた。


「く……そっ!」


「あんたは噓つきだからな。最初から何か企んでいると思ってたんだよ」


 辛うじて息のある天祐は、自分に近付く死に絶望する。

 そんな天祐に、限は自分が警戒していた理由を話す。

 父の人形として生きてきたため、天祐の口から出る言葉は信用できない。

 その考えから、天祐の提案は最初から信用していなかった。

 それが正解だったらしく、結局は自分が生き抜くために企んでいたようだ。


「グ…フッ!」


 限の言葉を聞いて、最初から生き残ることは無理だったのだと理解した天祐は、血を吐いて動かなくなった。


「王になんてなる気はないさ。そんなの面倒なだけだろうが……」


 王になることを提案された時、面白い話だと思ったのは事実だ。

 しかし、王になったとしても何が面白いのか全く理解できなかった。

 そのため、限の中でその提案はすぐに却下していた。


「……さてと、行くか……」


 重蔵と天祐への復讐。

 それが成された今、もうこの場にいる必要はない。

 そう判断した限は、自分の刀を鞘に納め、重蔵と天祐の刀を拾って、玉座の間から退室していった。


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