第168話 地下の戦闘①
「ハァ、ハァ……」
「ぐうぅ……」
魔物と化した限と重蔵が戦いをおこなっている頃、城内の地下ではレラが新型強化薬を使用した敷島奴隷たちと闘っていた。
新型強化薬を使用して強力になった敷島奴隷たちだったが、この場にはレラだけではなくニールもいる。
そのため、どんな攻撃をしてもニールの魔力障壁に防がれ、レラの魔法と薙刀を使用した武術攻撃によって痛めつけられていった。
4人いた敷島奴隷たちのうち、2人は大量の出血をして倒れており、残り2人も体中に切り傷や打撲痕が付いて膝をついている。
「ハァーーッ!!」
「セイッ!」
「がっ!?」
残った2人のうち、1人がレラに向かって殴り掛かるが、その攻撃はニールの魔力障壁に防がれた。
その瞬間を分かっていたレラは、攻撃に合わせて反撃に出る。
振り下ろした薙刀が、攻撃してきた敷島奴隷を袈裟斬りにした。
「残り1人……」
残っている敷島奴隷は膝をついている1人のみ。
そのことを、レラは敷島奴隷の背後にいるオリアーナに伝えるように呟いた。
「くっ!!」
レラが自分に言っていることはオリアーナにも分かっている。
しかし、新型強化薬を使用しても、所詮は兵になり損ねた敷島人でしかない。
そのため、レラを倒すことはかなり難しいことは、戦闘においては素人の自分でも理解している。
『あと少しだっていうのに、このままでは……』
この城から脱出する出口まであともう少し。
しかし、敵はレラだけではない。
アデマス軍の者なら、もしかしたらこの地下通路のことを知っている可能性がある。
そのため、脱出してきた者を仕留めるために兵を待ち伏せさせているかもしれない。
そんなところを、自分のような戦闘素人だけで突破することなんてできない。
何としても、残った敷島奴隷にレラを倒してもらい、脱出する自分のことを守ってもらわなくてはならない。
絶対絶命の状況に、オリアーナは焦るしかなかった。
『何か……っっっ!!』
焦りつつも現状の改善策を見つけ出そうとしていたオリアーナは、自身のポケットに手が当たり、何かが入っていることに気付く。
それが何なのかは、すぐに気が付く。
液体の入った注射器だ。
『これを使えば……』
注射器に入っている液体は魔物化する液体だ。
これを敷島奴隷に使用すれば、もしかしたらレラを倒せるかもしれない。
そんな思いがオリアーナの頭の中を駆け巡った。
『……でも、これを使ってこの奴隷が耐えられるかしら……?』
敷島人ですら、新型強化薬はかなりの負担を体に強いる。
そのうえ、肉体を魔物に変化させる劇薬を投与したら、いくら敷島人だからと言って耐えられるか分からない。
そのため、オリアーナはその薬の投与を一瞬ためらう。
「やるしかない! おいお前!」
「ハッ!」
悩んでいる暇はない。
そう判断したオリアーナは、注射器を奴隷に投げ渡す。
その注射器を受け取った敷島奴隷は、研究員に打ったのと同じものだったため、すぐに中身が何かを気づく。
「それを使いなさい!」
「……了解しました!」
渡した注射器を使うことを命令するオリアーナ。
注射器の中身はミノタウロスに魔物化する液体だ。
それを打てば魔物へと変化してしまうことが分かっているため、奴隷の男は少し躊躇う。
しかし、奴隷である自分に拒否する権利は存在しない。
人間でなくなることを否定したくても、命令に従わなくてはならず、男は自分に注射器を刺した。
「うぐっ!!」
「っっっ!!」
何をするのかと思っていたら、奴隷に変化が起き始めた。
その薬が何か分からないレラは、僅かに戸惑ったのち、放っておいては危険と判断したのか変化途中の敷島奴隷に攻撃を加えようとした。
“ガシッ!!”
「なっ!?」
「さ…せん!」
変化途中の敷島奴隷を斬りつけようと床を蹴ろうとしたレラだったが、突如足を掴まれた。
何が起きたのかと思ったら、先ほど斬りつけた敷島奴隷がまだ生きていたらしく、攻撃をしようとするレラの左足を掴んで止めたようだ。
「このっ!!」
「ぐっ!!」
薬品を使用した敷島奴隷の変化を見て、レラはまたも魔物へと変化するのだと理解した。
強化薬を使用した上に魔物化されたら、どんな強さになるのか分からない。
そのため、レラは足を掴んでいる敷島奴隷の手を右足で踏みつけて、なんとか離させようとした。
「ガアァーーッ!!」
「……くっ!」
何度か踏みつけることで、ようやく足から手が離れた。
しかし、その時にはもう敷島奴隷の魔物化は終了しており、巨体のミノタウロスが出現していた。
「グルル……!!」
「やるしかないですね。ニール様……」
「キュッ!」
荒々しい息を吐くミノタウロスと化した敷島奴隷。
普通の人間が魔物化することで、強力な戦闘力を有することができる。
それが、敷島の人間が使用したのだから、相当な強さになっているはずだ。
たとえ、それが兵に成り切れなかった者であろうともだ。
しかも、この敷島奴隷は強化薬まで使用していた。
そのため、もしかしたらとんでもない強さに変化しているかもしれない。
そんな嫌な予感がしたレラは、ポケットで防御担当をしているニールに話しかける。
ニールも警戒しているのか、レラの言葉にすぐに返事をしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます