第152話 開門

「フゥ~……」


「お疲れ様でした。限様」


「あぁ」


 平出家・高木家の当主倒して一息ついた限は、傷だらけのアルバを伴ってレラとニールの所へと向かう。

 限が近付いてきたことに気付いたレラは、頭を下げて迎えた。


「まず、アルバだな」


「ワウッ!」


 レラとニールも怪我や疲労しているようだが、アルバの方が全身傷だらけでボロボロだ。

 そのため、限は最初にアルバを回復させることにした。

 頭を撫でられたアルバはその場に座り込み、大人しく限による傷の回復を受け入れた。


「さて、全員の回復が完了したことだし、もうすぐ中央の兵たちが門をこじ開けるだろう。それまで俺たちは姿を消しておこう」


「そうですね。あれだけ派手に動きましたからね……」


 アルバに続いて、限はレラとニールの傷も治す。

 そして、限はこれからの行動について簡単に説明し、レラはそれに頷いた。

 限やレラたちは、少数で敷島の人間を相手に大立ち回りをしたのだ。

 アデマス王国軍の連中はこれまで勝利を収めてきたが、明確な理由が思いつかなかった。

 神の導きによるものとしてひとまず棚上げしていたが、それが限たちによるものだということに気付くはずだ。

 限たちとしては、敷島の一族を葬り去るために協力しているのだけであって、慣れ合うつもりもなければ当てにされても迷惑だ。

 アデマス軍の者たちには、得体の知れない協力者が存在しているとだけ理解してればいい。

 そのため、限たちはこれまで通り戦利品として、倒した平出家と高木家の兵たちが使用していた刀をもらって、門が開くまでの間姿を消すことにした。






◆◆◆◆◆


「「………」」


 アデマス軍を率いるラトバラと、その右腕であるリンドンは開いた口が塞がらないでいた。

 王都の防壁を突破するために軍を動かしたら、多くの敷島兵たちが飛び出して来て、両翼となるこちらの兵を瞬く間に減らしていった。

 このままでは両翼どころか、防壁の門を攻める中央の兵たちまで潰されてしまう。

 そんなことになったら、とてもではないが勝利を収めることなんてできない。

 撤退の文字が2人の頭に浮かんでいたが、そこから異変が起きた。

 今度は、両翼を攻めてきた敷島兵たちが倒れて行った。

 何が起きているのかと思っていたら、両翼とも少人数で敷島兵を倒している者が存在していたのだ。

 しかも、右翼に関してはたったひとりであの一騎当千とも言われる敷島兵たちを相手していたのだ。

 そして、最終的には両翼とも敷島兵たちを殲滅するという結果になった。

 そのあまりの強さに、2人の思考が追い付かないのも仕方がないといえるだろう。


「な、なんだ!? あの者たちは……」


「わ、分かりません! ですが、こちらの装備を付けている所を見ると敵ではないはず……」


 アデマス軍の中に、あれほどの強者が存在しているなんて聞いたことが無い。

 他国の援軍の中にもだ。

 そのため、ふたりは慌てたように言い合う。


「あの者たちを最前線に置き、兵たちを援護に付ければ、被害はもっと少なく済むのではないか?」


「……えぇ、しかし……」


「どうした?」


 あれほどに強い者たちがいるのならと、ラトバラは良いことを思いついたとばかりにリンドンに話しかける。

 その案に対して返事をするリンドンだが、どこか表情が優れない。

 そのため、ラトバラは先程の案のどこに問題があるのかを尋ねた。


「もしもそれで勝利した時、彼らには相当な報酬を与えないとなりません。そうなった場合、援軍を出してくれた隣国以上の褒美を与えなければならなくなるかと……」


「……む、むう~……」


 先程のラトバラの案でアデマス軍が勝利した場合、あの者たちには軍功一等になることは間違いない。

 そうなれば、それ相応の褒賞を与えないわけにはいかなくなる。

 他国からの援軍よりも活躍した者に対し、相応の褒賞と考えると、どれだけの領地を与えなければならなくなるのか。

 それに、個人であれだけの強さを誇っている者に大規模な領地を与えたとなると、いつ敷島の者たちのように反旗を翻すか分からない。

 そのため、彼らを主力として利用するのは悩ましいところだ。

 そのことをリンドンが告げると、ラトバラも同じように表情を曇らせた。


「っっっ!?」


「消えたっ!?」


 限たちをどう利用するか話し合っていたラトバラたちだったが、その結論が出る前に変化が起きる。

 先程までいた限たちが、いつの間にか姿を消していたのだ。


「……どこへ行ったのか分かりませんが、我々としては良かったのではないでしょうか?」


「そ、そうだな……」


 あれだけの敷島兵を倒した時点で、彼らは軍功一等と言える。

 しかし、名乗りも上げず、姿を消してしまった。

 これでは、後から自分の功績だと言ったとしても証明のしようがない。

 褒賞を与える側になるラトバラたちからすると、ある意味喜ばしい状況だ。

 そのため、限たちがいなくなったことに、どこかホッとしたような雰囲気に変わった。


「……もしかして、これまでの不可解なことはあの者たちによるのでは?」


「……そうかもしれませんな」


 ホッとしたの者束の間、よく考えたらここまでの戦いで不可解なことが何度か起きている。

 そもそも、敷島の人間を相手に順調ともいえるペースで勝利を収めて来た。

 それらは先程の者たちが密かに動いていたのではないかと気づいたラトバラは、ふとリンドンに問いかけた。

 その問いに対し、リンドンも言われてみればというように頷いた。


「ラトバラ様!」


「どうした?」


 居なくなったというのに、ラトバラたちは限たちのことで頭が占拠される。

 そんなふたりの所に、ひとりの兵が駆け寄ってきた。

 そのため、ラトバラは考えるのをやめて話しかける。


「門が開きました!」


「……そうか!」


 時間の問題ということもあって、中央を進めていた兵のことを忘れていた。

 どうやら考え事をしている間に、彼らは開門に成功したようだ。


「……リンドン。まずは残った敷島の者たちを始末することに集中しよう」


「畏まりました!」


 開門したのなら、後は王都内へと攻め込み、王城にいるであろう斎藤家の者たちを亡き者にするだけだ。

 そう考えたラトバラは、リンドンに先程の者たちのことをひとまず置いておき、この戦の勝利を優先するよう伝える。

 その言葉に頷き、この戦いの仕上げをするために、リンドンは兵に王都内への進軍の合図を送ったのだった。


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