第80話 皆殺し

“ガラッ!!”


「やっぱり、こっちの方が多いな」


 扉を開けて部屋のなかに居る者たちを見て、限は小さく呟く。

 探知をして分かっていたが、レラに任せた棟よりこちらの方が研究員の数が多い。


「な、何だお前は……?」


「その恰好……、警備の者で見たことが無いな……」


 入ってきた限を見て、研究員多たちは訝しむ。

 レラの時もそうだったが、限の姿はどう見てもラクト帝国兵のように見えなかったからだ。


「グウゥ……!!」


「どうした? アルバ」


 研究員たちが問いかけて来るが、限は完全に無視する。

 それよりも、唸り声を上げたアルバの方が気になった。


「バウッ!」


「あぁ、覚えのある奴が数人いるのか……」


 部屋に入り、研究員たちの臭いを嗅いだことで、アルバは昔のことを思いだしたようだ。

 この中に、自分を切り刻んだ研究員がいるということに。


「レラもそうだが、お前も酷かったからな……」


 アルバの反応を見て、限は昔のことを思いだした。

 限がアデマス王国の研究所の地下で訓練生活を始めて、1年経った頃にアルバが落ちてきた。

 用済みとして廃棄されたのだ。

 レラの時と同様に、限が微かに息の合ったアルバに話しかけると、目に何か訴えるものを感じた。

 そのため、限はアルバのことを治してあげることにしたのだ。

 地下に落ちてきた時のアルバは、四肢が斬り落とされ、体中に手術跡が残っていた。

 内臓をあちこちいじくられ、生きているのが不思議なくらいだった。

 自分をそのようした張本人を前にして、アルバにおとなしくしていろと言う方が酷だろう。


「じゃあ、そいつらはお前の好きにして良いぞ」


「ワウッ?」


「あぁ、本当だ」


 限の言葉に、アルバは確認するような声を上げる。

 あまり長居できない状況で、少しでも速く研究員たちの始末を済ませた方が良い。

 そう考えると、自分よりも主人である限が動いた方が速く事が済むため、まさか譲ってもらえると思っていなかったからだ。

 研究員は皆殺しにするのが限の復讐の1つだが、アルバの分まで奪うつもりはない。

 そのため、限はアルバの獲物はアルバ自身に任せることにした。


「残りは俺に任せろ」


「ワウッ!」


 アルバが鼻で指した研究員は6人。

 その6人以外は限が相手をすることにし、行動をおこすことにした。


「な、何を言って……」


「ウゥッ!!」


「っ!!」


 問いかけたのにもかかわらず無視されたままでいたため、研究員は若干イラ立っているように見える。

 しかし、アルバが魔力を見に纏った瞬間声を失った。

 敵意を向けられて、その圧力で身動きができなくなったからだ。


「ガアッ!!」


「ギャッ!!」「グアッ!!」


 アルバが動く。

 すると、一瞬にして2人の研究員の頭が破裂した。

 アルバの前足の攻撃に、耐えきれなかったからだ。


「ヒ、ヒーーッ!!」


「に、逃げろ!!」


 何が起きたのかも分からないうちに仲間が殺され、室内にいた研究員たちは恐慌状態へと陥った。

 部屋の出入り口の方には限とアルバがいるため出られない。

 なので、生物兵器のワニを戦場へ送るための放出口から脱出をしようと殺到した。


「行かせるわけないだろ?」


「わっ!!」「は、速いっ!!」


 先頭が放出口まであと少しという所まで迫るが、外に逃げることを阻止するように限は回り込んだ。

 その限の動きが全く見えず、研究員たちは驚きと共に後退りした。


「よっと!」


「へっ?」「はっ?」


 限が腰の刀に手をかけ、僅かに呟く。

 すると、先頭にいた男たちは、奇妙な声を上げた。

 何故なら、目の前に現れた限の姿がズレたからだ。

 そして、限がズレたのではなく、自分たちの首が斬られて体からズレ落ちたのだと気付くことなく、彼らは命を落とすことになった。


「ヒャ、ヒャーー!!」「うっ、うわっ!!」


 首の落ちた死体から大量ん血が吹きあがり、研究員たちに更なる恐怖が沸き上がる。

 中には腰を抜かして、その場に座り込むような者もいる。


「こ、こうなったら!!」


「フッ!」


「ギャッ!!」


 このままでは、限、もしくはアルバに殺されると判断した研究員の1人が、ワニのいる浴槽へと向かう。

 薬物投与によって生物兵器である魔力吸収のワニを作りだし、限とアルバにぶつけることを考えたらしい。

 しかし、そんな事をさせる訳もなく、限はその研究員に接近して一瞬で斬り殺した。


「余計なこともさせないし、誰も逃がしはしない!」


 逃走も出来ず、生物兵器も作れない。

 研究員たちにとって、恐怖に怯える地獄のような時間が開始された。






「……おいっ!」


「ヒッ、ヒー!!」


 限とアルバが動き回り、あっという間に残りの研究員は1人になった。

 仲間が殺され、辺り一面血の海になった部屋の隅で、蹲るようにして震えている男に限は話しかける。

 しかし、この短時間で恐怖の対象でしかなくなった限に話しかけられ、男は顔を青くして悲鳴を上げることしかできない。


「おいっ!!」


「……は、はい……」


 声をかけているだけで悲鳴を上げる男に、限はもう一度声をかける。

 先程よりも強い口調で声をかけられ、男は一瞬ビクッとして、震えながらも返事をした。


「オリアーナはどこだ?」


「…………え?」


 恐怖で頭が真っ白になため、限の問いが入って来ない。

 そのため、男は理解が追い付かず、一瞬呆ける。


「聞こえていただろ? 速く答えろ!」


「ハ、ハイ! ちゅ、中央の棟にいます!」


「そうか。あそこか……」


 反応の鈍い男に、限は若干イラ立つ。

 そのイラ立ちを感じ取ってか、男はすぐに返答した。

 自分を研究所に送り込み、散々実験体として利用してきた張本人とも言える研究員のオリアーナ。

 あの研究所内にいた研究員の中でも、限が特に始末したい女だ。

 てっきり、生物兵器を送り出している棟のどちらかにいるものだと思っていたが、どうやら違ったようだ。


「こ、答えたのだから、命だけは……」


「……あぁ、そうだな……」


「っ!!」


「聞くこと聞けたからちゃんと始末しないとな」


 この期に及んで、男は涙を流し命乞いをする。

 研究員は皆殺し。

 それを変えるつもりのない限は、何のためらいもなく刀を一閃する。

 男にとって救いなのは、あまりの剣速に悲鳴を上げる間もなく意識を失ったことだろう。


「いくぞ」


「ワウッ!」


 部屋にいた研究員を皆殺しにした限は、標的であるオリアーナを始末するため、アルバを連れて中央の棟へと向かったのだった。


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