第76話 砦内騒動

「ぐあっ!!」


 ラクト帝国の生物兵器である巨大ワニの土魔法による弾岩攻撃によって、またも敷島の1人が吹き飛ぶ。

 巨大ワニたちの攻撃は、魔法によるものが多い。

 同じくラクト帝国の生物兵器である6本腕の魔物は、直接攻撃であるのとは真逆だ。

 片方の種類を相手にしているうちは何とか戦えていた敷島の者たちだが、この2種類が組み合わさるとかなり面倒なことになった。

 接近すれば6本腕の魔物の攻撃に警戒しなければならなく、距離を取れば巨大ワニの魔法攻撃が飛来する。

 かなり離れた位置まで距離を取らないと、安全な場所はない状況だ。


「このっ!!」


「待てっ!!」


 仲間をやられたからといって、怒りに任せて攻め込んでは敵の思う壺。

 連携をとって集団で攻めかからないと、タダの犬死となるだけだ。

 そのため、菱山家の奏太は単独で攻めかかろうとした仲間を止める。


「くそっ! あのワニ色んな種類の魔法を放ちやがって……」


 巨大ワニの魔法攻撃に、奏太に止められた敷島の男は思わず愚痴をこぼす。

 ワニたちは、1頭1系統の魔法を放ってくる

 どれがどの系統を使っているのかは見ていれば分かるが、分かっていてもかなり面倒だ。

 魔法攻撃を躱して接近すれば、ワニを援護するように6本腕の魔物が攻撃してくる。

 その連携で、少なくない仲間が殺られることになった。


「源斎殿!」


「何ですかな?」


 戦っている者たちだけでなく、彼らを指揮する菱山源斎と五十嵐光蔵の2人も焦っていた。

 敷島の者たちが、何人も死んでいる。

 6本腕の魔物だけでも脅威だというのに、巨大ワニまで出現したことで更なる苦戦を余儀なくされていた。

 一度撤退しているため、これ以上の撤退はアデマス王国内での敷島の地位低下は確定する。

 何としてもこの戦いに勝利しなければならないためだ。

 これ以上数を減らすようなことになる前に、光蔵は源斎に決意の表情をして話しかけた。


「このままでは数が減らされるだけだ。我々が出ましょう」


「……了解した」


 現在戦っているのは、敷島の中でも中級レベルの者たち。

 6本腕の魔物だけなら彼らでもなんとかなると思っていたが、巨大ワニの出現でそうもいかなくなった。

 このままの状況では、仲間が殺られる上にアデマス王国兵が逃げ出すようなことになるかもしれない。

 そうならないためにも、指揮官である自分たちと共に控えさせていた上級レベルの部隊を投入するしかないと判断したのだ。

 その相談を受け、源斎は首肯した。






「下がれ、奏太!」


「父上……」


 生物兵器たちとの戦闘をしている戦場に、指揮官である源斎と光蔵が上級部隊を率いて現れる。

 父である光蔵の登場に、奏太は驚きつつもその指示に従う。

 上級部隊が来たのであれば、後は彼らに任せるだけだ。


「では!」


「えぇ!」


 源斎と光蔵は短いやり取りをする。

 それだけで、戦場の空気が変わった。


「「ハッ!!」」


 源斎と光蔵の魔法を合図に、上級部隊が動き出す。

 巨大ワニたちは2人の魔法に対し、相殺の魔法を放つ。

 その隙を突くように、奏太たちよりも一段も二段も上の速度で、上級部隊の面々が巨大ワニと6本腕の魔物へと接近した。


「ガアァー!!」 


「フンッ!!」


 接近した敷島の者に対し、6本腕の魔物が襲い掛かる。

 とんでもないパワーによる攻撃が迫るが、上級部隊の中でも巨体の者が前に出る。

 パワーにはパワーと言わんばかりに、巨体の男は6本腕の魔物の攻撃を大刀で受け止めた。


「ガッ!?」


 これまで戦っていた者と違って自分の攻撃を止められたことに、6本腕の魔物は戸惑うような反応をする。


「「「シッ!!」」」


「ウガッ!!」


 6本腕の魔物が戸惑っている隙をついて、3人が同時に斬りかかった。

 3人のあっという間の剣撃により、6本腕の魔物の1体は体中から血を噴き出し、その場へ崩れ落ちた。


「ガァッ!!」


 6本腕の魔物を倒した4人に対し、巨大ワニが魔法を放とうとする。

 

「ハッ!!」


「っっっ!!」


 魔法を放とうと口を開いた巨大ワニに対し、上級部隊の男が上空から襲い掛かる。

 その男は、ジャンプによる落下速度を利用して、ワニの口に槍を突き刺し、無理やり開いたワニの口を閉じさせる。

 口を閉じさせられたワニは、放つ予定だった魔法は口の中で爆発させ、自分の魔法で自分の頭を吹き飛ばした。


「チッ!! 何だ奴らは!?」


「敷島の上級部隊ですね……」


 これまで戦っていた者たちが下がり、別の者が出てきたと思ったら、一気に戦場の情勢が変わった。

 これまで余裕をかましていたクラレンスは、舌打ちと共にオリアーナへと問いかける。

 その問いに対し、オリアーナは自分の考えを述べた。

 少数精鋭の敷島の中の更に少数。

 戦闘において強力な力を発揮する上級部隊が存在する。

 あくまで奥の手でしかない彼らを、とうとう敵は出してきたと言うことだ。


「……もう少し数を増やしますか?」


「そうしてくれ……」


 最終手段ともいえる上級部隊が出てきたと言うことは、敵はかなり追い込まれているということだ。

 いきなりで何体かは殺られはしたが、生物兵器たちは善戦している。

 このまま戦い続ければ、いくら上級部隊の者と言えど疲労で動きが鈍くなる。

 その時間を稼ぐためにも、オリアーナはクラレンスに生物兵器の補充をするか求める。

 敷島の者の相手をできるのは生物兵器のみ。

 オリアーナの問いに、クラレンスはすぐさま頷いた。


「か、閣下!!」


「……何だ?」


「騒がしいですね……」


 オリアーナが生物兵器の増援を指示しようとしたところで、1人の兵が慌てるように2人がいる指令室へと入ってくる。

 その慌てぶりに、クラレンスとオリアーナは訝し気に兵へと問いかけた。


「東西の研究棟に何者かが侵入しました!!」


「何っ!?」


「何ですって!!」


 兵の報告に、クラレンスとオリアーナは驚きの声を上げる。

 敷島の連中と戦う上で生物兵器は無くてはならない。

 その生物兵器を送り出すために研究員たちが控えている東西の棟に侵入者など、あってはならないことだ。


「警備はどうした!?」


「そうよ! かなりの数の兵を配備していたはず!」


 ラクト帝国にとって最重要の兵器。

 それが敵に潰されたら完全に勝ち目はない。

 潜入も得意な敷島の連中を警戒し、割くと帝国内でも質の高い多くの兵たちによって棟は警護されていたはず。


「……警備兵たちは、全滅しました……」


「「…………はっ?」」


 2人の質問に、兵は口ごもる。

 この兵自身も、今から自分がいう真実を信じられないでいるのかもしれない。

 いまいちはっきりしない兵からの答えに、2人は口をそろえて声を漏らして固まった。


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