第55話 手がかり

「暗殺者の2人は殺した。片方は少しやり過ぎて、塵にしてしまった」


 中里と木内を殺した限は、そのままギルドへと戻る。

 そして、魔法の指輪から木内の死体を取り出して、魔物化する薬を作っていた研究員たちを殺した犯人の殺害を証明する。

 本来は2人組だったのだが、もう1人は跡形もなく殺してしまったことをギルマスに告げた。


「そ、そうか、1人で追いかけていってしまった時は危険だと感じたが、そんな心配いらなかったようだな……」


 冒険者たちが捕まえ、ギルドの地下の牢へと入れていた研究員たち。

 その研究員たちを殺した犯人は、念のため警備に付けていた冒険者はやられ、参戦した自分も怪我を負わされて逃げられてしまった。

 2人だけだというのに、とんでもない実力の暗殺者だった。

 そのため、限が追いかけていってしまった時、返り討ちに遭う未来しか見えなかった。

 隣町のギルドからは、とんでもなく強い冒険者ということしか聞いていなかったが、予想以上の実力の持ち主だったようだ。

 たいして時間も経っていないのに、倒して戻ってくるとは全然想像していなかった。

 騒ぎを聞きつけ集まった冒険者たちに回復してもらったギルマスは、安心したように言葉を返したのだった。


「研究員たちは?」



 限がギルドに駆け付けた時、中里と木内はこの場から去る所だったことを考えると、ターゲットである研究員たちを始末したということだ。

 敷島の人間なら確認もせずに去るとは思えない。

 なので、殺害対象の研究員たちが生き残っているとは思っていなかったが、限は念のため確認するためにギルマスへと問いかけた。


「残念ながら全員死んでしまった」


「かなりの実力の持ち主たちだった。この結果は仕方がない」


 案の定、研究員たちは一刀のもとに斬り殺されたという話だ。

 捕まえることに協力してもらったのにもかかわらずみすみす殺されることになってしまい、責任者として申し訳なく思ったのか、ギルマスの言葉には力がこもっていなかった。

 ギルマスになるくらいなのだから、決して彼自身も弱いわけではない。

 しかし、敷島の人間2人を相手にしたのだから、限としては普通の警戒では突破されたのは仕方がないとしか言えない。

 中里は何もかも塵に変えてしまったので仕方ないが、限は戦利品として木内の刀を頂戴しておいた。

 それでも、服装や持ち物などから調べれば、暗殺者たちが敷島の人間だということはわかるだろう。

 そのため、限はあえて暗殺者たちが敷島の人間だということは伝えることはしない。

 下手に詳しく話して、自分まで敷島の人間だと感付かれないようにするためだ。


「それにしても残念だ。捕まえた研究員には色々と聞きたいことがあったのだが……」


 限にやんわりと慰められたが、ギルマスとしては納得いっていないようだ。

 捕まえた研究員たちには、どこであのような薬の研究をしていたのかなどを聞く予定だったからだ。

 この町の外れの建物でも研究していたようだが、建物の大きさや研究員の数などを考えると、それはあくまでも性能アップのための研究でしかないはず。

 そうなると、彼ら以外にも同様の研究をしている組織が存在している。

 もしくは、そちらの方が本体という考え方もできる。

 その本体に関する尋問ができなくなったのは痛いところだ。


「あいつらの荷物などから、ここを出て南のソーリオ王国内で落ち合う予定だったようだ」


 捕まえた研究員は殺されてしまったが、何も調べる方法がないという訳ではない。

 彼らを捕まえた時に押収した荷物などから、何か情報を得るしかない。

 尋問する時のために調べた結果、その手荷物の中に落ち合う場所としてソーリオ王国のにある町が印づけられていた。

 限たちが着たルートとは違うためその町のことは知らないが、彼らはラクト帝国から出て南に位置するソーリオ王国へと向かうつもりだったようだ。


「後は、残していった研究所の方を調査するしかない。君も参加するか?」


「あぁ、そうさせてもらう」


 調べるとすれば、彼らが研究所として利用していた建物を調べるしかない。

 研究員の1人が魔物化して破壊したが、それは極一部。

 建物内には、結構な数の書類が残されていた。

 残していった書類などから、情報を入手できるか怪しいところだが、何もしないよりかは可能性はあるため、限は建物の調査に参加することにした。






「結局、何も掴めませんでしたね?」


「あぁ……」


 レラの残念そうな声掛けに、限は同意した。

 中里と木内の襲撃のこともあり、ギルド内の修理を終えてから研究所の調査がおこなわれた。

 予定通り限とレラもも参加したのだが、残されていた資料は魔獣化に関する資料ばかりで、他の研究員たちの場所を示すようなものは残されていなかった。

 数日かけておこなった調査も終了し、限とレラはいつも通り宿屋へと帰還し、今の会話をおこなったのだ。


「手がかりがなくなっちまったな……」


 僅かな期待と共に、中里たちに殺された研究員たちの残していった資料などを調べたが、何の手掛かりも見つけられなかった。

 そのため、これからオリアーナたちを見つけるための手立てがなくなってしまったため、限はため息を吐くように呟く。


「いいえ。手掛かりはあります!」


「……本当か?」


「ゼータちゃんのお爺さんの予言があります」


「あぁ……」


 一緒に調査に参加したため、レラも何も掴めなかったはずだ。

 それなのに、自信ありげなレラの発言に、限は驚きと共に問いかける。

 そして出てきたのがゼータの祖父の予言だった。

 研究所でたまたま知り合った小人族ゼータ。

 彼女を仲間の住む場所まで送り届けた時、彼女の祖父から研究員たちの居場所が予言された。

 それによると、今限たちがいるラクト帝国内が一番有力という話だった。

 しかも、一番有力なのはラクト帝国の西側。

 レラはそのことが言いたかったのだろう。

 限もレラにいわれてそのことに気が付いた。

 何の手掛かりもなく、ゼータの祖父の言うよう範囲へ向けて旅をして来たら、ここで研究員を見つけることができたのだ。

 そのことを考えると、本当にあの予言は合っているのかもしれない。


「よし! 西へ向かうぞ!」


「ハイッ!」


 予言を信じるなら、ここから西へ向かえば手掛かりが見つけられるはずだ。

 それにすがるしかない限たちは、次の行き先を西へと決めたのだった。


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