第46話 隣町へ

「昨日はこの町のために犯人を捕まえてくれてありがとう。この町のギルマスとして感謝する!」


 この町の冒険者を、夜な夜な襲撃していた犯人を捕まえた限。

 治安所の人間に渡した犯人の尋問が開始され、その知り得た情報が話されることになった。

 呼ばれたのは治安所で、そこへ行くとこの町のギルマスだという人間が限たちを待ち受けていた。

 彼は限が犯人逮捕した人間だと知り、すぐさま感謝の言葉と共に頭を下げてきた。

 何でも、彼は他の町へと用事があって出かけていたらしく、冒険者狩りが横行しているという話を聞いて急いで戻ってきたとのことだ。

 冒険者の殺害だけでも許しがたいというのに、ギルドの建物まで破壊されたらしく、腸が煮えくり返る思いで戻ってみたら、犯人が捕獲されていたと聞いて少しだけ安堵したと言っていた。

 

「自分を襲ってきたのを捕まえただけだ。そんなに感謝する必要はない」


 まっすぐな目で感謝されて少し照れくさく思った限は、そう言ってギルマスからの感謝の言葉を受け入れた。

 その照れかくしに気付いたレラは、密かに笑みを浮かべていた。


「早速先日の男の話をして欲しいんだが?」


「分かった!」


 冒険者がやられた事件のため、犯人の情報を得るためにギルマスも戻って早々治安所に来たそうだ。

 被害者が冒険者で、捕まえたのも冒険者。

 そのこともあって、治安所の人間もギルマスへ知り得た情報を話してくれたそうだ。

 ギルドの建物も壊されてしまったため、限へ説明をするために治安所の一室を借りてくれたらしい。

 借りたからといって、長時間という訳にはいかない。

 限としては情報に興味があるため、手に入れた情報の説明を促した。


「奴が冒険者を狙って犯行を繰り返していたのは、結婚を約束した恋人を強姦殺害されたことによる恨みからだそうだ。その犯人が冒険者ということしか分からなかったため、冒険者全体を恨むようになったらしい」


「手あたり次第の仕返しか……」


 恨みを晴らしたいという気持ちは共感できるが、もう少し相手を選ぶべきだった。

 高ランクの冒険者も倒せたことで、相手の実力を見極める必要がないと感じていたのだろうか。

 限に当たってしまったのが運の尽きという所だ。


「奴のことは良いとして、渡したビンの中の薬のことが知りたい」


「そ、そうか……」


 どうせ処刑でもされるのだろうから、犯人の男のことははっきり言ってもう興味がない。

 それよりも、限はあの薬のことに関しての情報が知りたい。

 限が犯人のことを知りたいのではと思っていたのだが、ギルマスはどうやらあまり興味ないことを悟った。

 あまりにも犯人に興味がなさすぎのような気がして、ギルマスは面食らったような反応した。


「奴の話では、あの薬の効力は1時間から2時間、隣町の酒場で知り合った男から貰ったそうだ」


「俺と戦った時、奴はそれよりも速く戻った気がするが?」


 捕まえた時に犯人から直接聞いていたので分かっていたことだが、やはり貰い物の薬だった。

 しかし、効力の時間が正確でないように限は思えた。

 限と戦った時は、1時間もしないうちに元の姿に戻っていたからだ。


「使えば使う程効力がなくなってきていたそうだ」


「体内の抵抗力によるものか……」


 体内であの薬に対する抵抗力が上昇したのではないかと、限は予想立てた。

 それによって、効力が落ちたのだろう。


「あのビンを渡した者のことは何か言っていたか?」


「自分が作り出した薬だと言っていて、何かから身を潜めるようにしていたという話だ」


「身を潜めるようにという話なら、町を移動してしまっているかもしれない。速く捕縛へ向かった方が良い」


 やはり、限たちを実験台にしていた研究員の1人の可能性が高い。

 しかし、身を潜めるようにというのが気になる。

 理由が明からないが、もしも本当に追われている身なら、隣町にいつまで潜んでいるか分からない。

 そのため、限はその者が町から出ないうちに捕まえることを提案した。


「あぁ、だからその人間を捕まえに冒険者を行かせる予定だ」


 限の言うように、もしかしたら隣町から出て行ってしまうかもしれない。

 冒険者に被害が及び出して2週間経っている。

 もしかしたら、もうとっくに移動している可能性もあるため、ギルマスもすぐに動くつもりのようだ。


「あの薬を作っている張本人の可能性がある。ということはそいつも同じ薬を持っているかもしれない。この町の冒険者で、大丈夫なのか?」


「……確かに、この町の冒険者では無理かもな……」


 限が捕まえた犯人によって、多くの冒険者が命を落としている。

 高ランクの冒険者までも被害を受けて、恐れを抱いた低ランク冒険者たちは他の町へと移ってしまっている

 つまり、質も数も落ちている状況で、頼める冒険者がいるのか疑問だ。

 それが分かっているギルマスは、限に視線を向けてきた。


「俺はお前たちに頼みたい……」


「了解した」


 元々、研究員の可能性が高いので、限は最初から行くつもりだった。

 そのため、ギルマスの頼みを受け入れることにした。


「生かしておいてもらえるとありがたいが、最悪始末してもらっていい」


「あぁ、分かった」


 ギルマスとしては、薬の作り方などのデータをすべて消去したいため、生け捕りにしてもらいたい。

 しかし、限の言うように、自分で作った薬を使ってくるかもしれない。

 そう考えると、殺さないように気を配って戦うと、限の方が危険になるかもしれない。

 まずは薬の制作者の捕縛を試み、危険なら始末も致し方なしといったことになった。


「あちらのギルドには連絡を入れておく。協力が必要なら頼ってくれ」


「そうか。では、すぐにでも向かうことにする」


「頼んだ」


 たいして犯人から聞いたの以上のことはなかったが、聞けたいことは聞けた。

 まだ隣町に潜んでいることを期待しつつ、限は隣町へ向かうことにした。






「研究員らしき人間の情報が得られて良かったですね?」


「あぁ!」


 犯人逮捕時に待機させられたのは気分が良くなかったが、レラは限が若干嬉しそうなので良しとした。

 結構な距離を移動してようやくといったところなので、レラとしても嬉しいところだ。


「薬の製作者がいなくなっては探しようがなくなる。急いで隣町に向かおう!」


「ハイッ!」


 理由が分からないが、薬の製作者は追われている可能性があるということだ。

 逃げられたらどうしようもないので、限は急いで隣町へと向かうことにした。

 レラの足では付いてこれないため、アルバに乗って移動することになった。

 限の従魔は神の使い。

 そう考えているのか、レラは恐縮している様だった。

 しかし、急ぎなので仕方がないため我慢してもらい、限たちは一気に隣町へと向かうことにした。


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