第38話 北へ

「町の皆さん喜んでいらっしゃいましたね」


「あぁ、結構な金になったな……」


 巨大ワニを退治した限たち。

 そのワニに被害を受けた町へと戻り、町の人にはワニの退治が完了したことを伝えた。

 脅威となる魔物が消えて、町の人たちにかなり感謝された。

 2体の内小さい方の1体は町で買い取ってくれるということになり、限たちは結構な金額を得ることができた。

 金を手に入れてすぐに町を出ることを告げると、町の人には感謝されて見送られた。

 人に感謝されたことに嬉しそうにしているレラとは違い、限の方は手に入った金額の方が嬉しかったようだ。


「これからはどちらへ向かうのですか?」


 特殊な魔物の出現に来てみれば、巨大ワニの番に遭遇することになった。

 研究所の人間によって作り出された魔物かと思っていたが、関係なかったようだ。

 今回も空振りに終わってしまったため、研究員の捜索は継続するしかない。

 そうなると、次はどこへ向かうのかが気になったレラは、限に行き先を問いかけた。


「ギルドのある町へ行って、同じように魔物の被害に遭っている所を紹介してもらう。無ければ北のラクトへ向かう」


「分かりました」


 ワニによる被害を受けた町は規模が小さく、ギルドの支店が置かれていなかった。

 そのため、限は以前ニールのことを教えてくれた一番近い町へと向かうことにした。

 そこで未確認の魔物に関する情報がなければ、小人族のゼータの祖父に占ってもらった通りに来たのラクト帝国へと向かうことにした。

 レラたちは限について行くだけなので、どこに向かうことになろうがあまり興味がない。

 なので、限の言葉をそのまますんなり受け入れた。






「いらっしゃいませ!」


 町に着き、限たちはすぐにギルドへと顔を出す。

 情報を得ようと、受付の女性の所へ行くとにこやかな笑顔と共に挨拶を受けた。


「何か魔物の異変が起きている町や場所の情報はありませんか?」


「魔物の異変ですか? 少々お待ちください」


 レラが受付の女性に質問をすると、彼女は資料に目を通し始めた。

 よく見たら、以前も限たちの担当をした女性だ。

 もしかしたら、限たちが来ることを期待していたのだろうか。

 受付の女性は、レラの要望に合いそうな2件の情報を提示してきた。


「こちらの依頼は、南の方角にエアレーらしき魔物が出現したとの話です」


「……そうですか。これはパスですね」


 最初に提示してきたのは、エアレーという魔物の討伐だ。

 馬ほどの大きさをした黒い毛を纏う四足獣で、山羊のような体を持ち、猪の顎と牙と尾を持つという魔物だ。

 どの角度にも自由に動かせるという二本の角を使った攻撃を得意としていて、倒すのにはなかなか苦労すると言われている。

 倒すのであれば数人のメンバーを用意した方が良い案件だ。

 限とレラだけならこの受付の女性も紹介しなかったかもしれないが、白狼のアルバと、本性は巨大亀のニールがいるからの提案なのかもしれない。

 たしかに限たちならエアレー討伐くらいなんともないが、ゼータの祖父の占いの範囲から外れる。

 占いを絶対とは思っていないが、一時でも仲間だったゼータの祖父のことを信用したい。

 なので、南ということなので、レラは受けるのは拒否する。


「こちらは北のラクト帝国の側にある森で、大量の魔物が出現しているという話です」


「大量の魔物?」


 次に受付の女性が説明を始めたのは、限たちの望む方角で起きている依頼だった。

 魔物の大量発生なんて早々起こるようなことではない。

 それが起こるなんて、限は僅かな引っかかりを感じた。


「ここの森の魔物は特別に強い魔物はいませんでいた。しかし、それが増殖したとなると話は別です」


 受け付けの女性の説明に、限は尚のこと違和感を感じる。

 強い魔物は討伐しなければ繁殖してしまうということがあるが、弱い魔物が増えるというのは変に思える。

 どこの国でも、冒険者を使って魔物を狩るという行為をおこなっているはず。

 特に初心者の冒険者向けの魔物ばかりがいる森となると、訓練代わりに最適だと重宝されるような気がする。

 毎年冒険者になろうとする人間は多くいるため、この町にも初心者は多いように思える。

 それなのに大量発生するなんて、人為的な何かが介入している気がしてならない。


「魔物の大量発生か……」


「いかがいたしますか?」


 魔物の大量発生と聞くと、繁殖力の強い魔物を思い浮かべる。

 ゴブリン、一角兎などの弱い魔物は、生存競争を生き抜くために繁殖力が高い。

 その森の魔物もそれらの種類がいるため、もしかしたらその中の何かに上位種が生まれたのかもしれない。

 その可能性と共に、限はなんとなく研究所の人間の関与も頭をチラつく。

 英助から聞いた研究員がしていた研究というのは、合成獣の作成。

 魔物の作成というと、既存の生物の強化などもしていたという可能性も考えられる。

 もしかしたら、その魔物の大量発生の原因も研究の一環なのかもしれないと思える。

 考え込む限に、レラはどうするかの選択を求めた。


「……北に向かおう」


「かしこまりした!」


 限たちは北に位置するラクト帝国へ向かうつもりでもいるので、そこに近い場所の問題なら都合がいい。

 研究員の個人情報なんて入る訳もないし、可能性があるなら手を出してみるしかない。

 そう考えた限は、その依頼を受けることを決定した。


「依頼達成後はそのままラクト帝国へ向かうつもりなのですが、ラクトへの報告でも依頼達成になりますか?」


 どうせならそのままラクト帝国に向かってしまうのもいいかもしれない。

 レラは、そのことについてギルドの規定ではどうなっているのかを問いかける。

 登録した時に説明を受けたが、依頼を受けた所へ報告に行くのが基本となっているというのは聞いている。

 しかし、今回のように他へ向かう途中で依頼を達成した場合のことを聞いていなかった気がする。

 単純に聞いていなかった問う可能性もあるが、念のためそのことを尋ねることにした。


「基本依頼を受けたギルドへと依頼達成を報告するものなのですが、今回のように事前に行き先も報告していただけるのでしたら大丈夫ですよ」


 分からないことは恥だと思わず聞いてみるものだ。

 向かう先が決まっているのなら、その向かう先周辺にあるギルドへ話を通しておけば済む話なのだそうだ。

 ギルド間の連携がとれているからできることなのだろう。


「しかし、残念です。皆様のような実力のあるパーティーはこの町を拠点にしてもらいたかったです」


 この町へ来て数件だけだが依頼をこなした。

 そのどれもが印象に残るものだったからか、受付の女性は残念そうに話し始めた。

 ギルドとこの町のことを考えるならば有力な冒険者が1組でもいてくれた方が、もしもの時に依頼を頼むことができるためいなくなって欲しくないのだろう。

 限たちは拠点なんて考えを持っていないため、そう言われても特になにも思わない。


「ラクトへ向かうというお話ですが、またアデマスとの戦争の火種が燻っています。どうかおきをつけて」


「そうか……」


「忠告ありがとうございます」


 研究員がいなくなってもアデマス王国には敷島の連中がいる。

 そのため、王や貴族連中は他国への侵攻を諦めていないのかもしれない。

 何かあればすぐにでも攻め込むつもりなのだろう。

 受付の女性の忠告に、限とレラは感謝の意味も込めて軽く頭を下げた。


「では行くとしよう」


「北の森ですね」


 北の魔物の繁殖問題解決に向かうことにした限たちは、ギル斧度から出て装備や薬品などの準備を整える。

 そして、目的地となる北の森へと向かうのだった。


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