第26話 返り討ち

「こちらが金額になります」


 Aランク冒険者パーティーとの揉め事によって、限は彼らの全財産を没収した。

 それを全て売却して手に入れた金額が、ようやく提示できるという報告を受けて、限たちは冒険者ギルドへ顔を出した。

 受付の女性から明細書を受け取ると、合計金額をが書かれている部分を指差してくれた。


「……はい。確認しました」


 書かれている内容を確認し、限はこの内容で了承したことを示すために受け取り書にサインをする。

 少し待たされることになったが、これでこの町にいる理由もなくなった。

 そのため、限たちは寝泊まりしていた宿屋を引き払い、小人族のゼータを故郷へ送る旅を再開することにした。


「あいつら結構溜め込んでいやがったな……」


「かなりの金額でしたね」


 町の外へと向かう道すがら、明細書のに書かれた合計金額を見ながら、限は人の悪そうな笑みを浮かべる。

 さすがAランクの冒険者パーティーになっただけのこともあり、しばらく何もしないでも余裕で食べていけるだけの財産を所持していた。

 正式な契約によるものとは言え、全くの慈悲もなく財産を奪い取っているのにもかかわらず、元とはいえ聖女見習いだったレラは、限のことを止める気配はない。

 それどころか、短期間で大金を手に入れた限を褒めるような傾向になっている。


「これで一気にゼータを送り届けられるな」


 街中では小人族である自分が見られると面倒なことになるため会話ができないゼータは、レラのポケットの中から手だけ出して、ナイスとばかりに限へサムズアップした。


「じゃあ、早速ヴェールデへ向かうか?」


「はい!」


 これまでは宿泊費や移動資金を稼ぎながらの移動をしていたのだが、これだけ資金があるならもう一気に進んで行っても大丈夫そうだ。

 ヴェールデへ向かうことにした限たちは、南へ向かうため王都の門をくぐった。







「予想通りの展開だな?」


「ですね……」


 限たちが馬車に乗らずわざわざ徒歩で外へ出たのには意味がある。

 町中から付けられている感覚から、今のような状況になることがようそうしていたからだ。


「おいっ! 全部置いて行ってもらおうか?」


 限たちに全財産を奪われたAランク冒険者パーティーの3人と、彼らに雇われたのか多くの冒険者や荒くね者たちが限たちの前に立ち塞がり、まさかの盗賊まがいの台詞を言い放ってきた。

 いや、まがいというよりも盗賊と言ってもいい。

 巻き添えにならないように馬車に乗らなくて正解だったようだ。


「冗談だろ? お前らマジで言ってんのか?」


「当たり前だろ! 俺たちの金を返せ!」


 槍使いの男、確かカトゥッロとか言う名前の男が、限たちに対しておかしなことを言って来る。

 限とアルマンドの戦いで、限が勝ったら全財産を支払うという契約になっていた。

 カトゥッロたちもその書類にしっかりサインしていたのだから、負けてから文句を言うのはどう考えても頭がおかしい。

 

「あの真面目君とボコボコにしてやった奴がいないな?」


 限が気付いたように、真面目君ことアルマンドとボコボコにしたルッジエロの姿が見えない。

 こいつらのことだから、またアルマンドに気付かれないようにこのような計画を立てたのだろう。

 前回、限たちにちょっかいをかけてきた張本人であるルッジエロがいないのも、ある程度理由は思いつくが、とりあえず聞いてみることにした。


「アルマンドには教えるわけないし、ルッジエロはお前にやられてから大人しくなっちまって、誘いにも乗ってこなかったんだよ」


「あっそ……」


 ルッジエロには限たちにちょっかいをかけた責任として、念入りに痛めつけたことがトラウマになったのだろう。

 そうなっても構わないつもりでボコボコにしたのだが、どうやら成功していたようだ。

 予想通りの返答に、限は興味なさげに呟いた。


「お前たちもルッジエロって奴と同じように大人しくしていれば死なずに済んだのにな……」


「何っ!?」


 30人程の戦闘自慢たちを連れてきているのに、どうして自分たちが死ぬことになるのか。

 カトゥッロは限の言葉の意味が分からない。


「アルバ、レラたちを頼むぞ?」


「ワウッ!!」


 この状況になるのを予想していたということは、どうするかも決めていた。

 予定通りアルバにレラたちのことを任せ、限は一人で集団に向かってゆっくり近付いて行った。


「何だ? この人数と面子相手にやろうってのか?」


 素直に所持品を置いて行くのなら見逃してやろうと思っていたのだが、全くそんな素振りを見せずに寄って来る限に、カトゥッロたちだけでなく他の者たちも怒りを滲ませる。

 まるで自分たちのことなど相手にならないと言っているかのようだ。


「何を条件についてきたのか知らないが、お前ら殺されても文句ないんだろ?」


 近付きながら、限はゆっくりと右手で刀の柄を握る。


「てめえ! 調子に……」


 余裕そうな限へ、集団の一人が限へ向かって怒号を飛ばそうとした。

 しかし、それが言い終わる前に、限はその男の目の前へと接近していた。


「っ!!」


“ニッ!!”


 男が限の姿を確認して目を見開いた頃には、笑みを浮かべた限の振った刀が首へと迫っていた。

 そして、次の瞬間には血しぶきを巻き散らし、何かを発することができない肉片へと変わっていた。


「お前! いきなり……」


「何だ? 今から斬り殺しますよって言ってからかかって来いとでも言いたいのか?」


 いきなり斬りかかった限に、カトゥッロが非難めいたことを言おうとする。

 しかし、これだけの人間を集めておいて、そんなことを言われる筋合いがないので、バカにしたようにカトゥッロを咎める。

 何も返せなくなったカトゥッロを無視し、限は刀を振り回して敵たちを屠っていった。 







“ドサッ!!”


「ヒッ、ヒ~……!!」


 30人程いた冒険者や荒くれ者たちは、限によって一人残らず骸と化した。

 辺り一面が血の海へと変貌を遂げ、多くの四肢が散らばる中、限は全身返り血で染まった状態のままゆっくり足を進める。

 もう残っているのはカトゥッロ、ファブリツィオ、デチモのAランクパーティーだった3人のみ。

 彼らの武器である槍、弓、魔法も全く通用せず、わざと最後に残された状況だ。

 自分たちも地面に散らばっている他の者と同様に斬り殺されると分かり、3人は恐ろしさから腰を抜かして動けないでいる。


「う、うぅ……助けて……」


「オイオイ! 泣くなよ。Aランクだろ? 潔くかかって来いよ!」


 弓使いのファブリツィオは、恐ろしさのあまり泣き出してしまった。

 あまりにもみっともない反応に、限は思わず檄を飛ばす。

 しかし、むしろそれすら恐ろしいのか、小さく縮こまってしまった。


「う、うわー!!」


「おっと!!」


「がっ!!」


 ファブリツィオの相手をしているのを隙と判断したのか、魔法使いのデチモは見苦しくこの場から逃げ出そうとした。

 しかし、限が逃がす訳もなく、ファブリツィオに追いついて首を斬り飛ばした。


「駄目だろ? お前らのせいでこんなに死んでんだから……」


 もう何も聞こえない状態のファブリツィオの首に対し、限は注意するように告げる。


「………………」


「……静かに逃げようとするなよ!」


「ギャッ!!」


 恐怖で縮こまったのは演技だったのか、音を立てないようにデチモが逃げ出そうとしていた。

 それに気付いた限は、ツッコミを入れるが如く刀で心臓を突き刺した。


「あ、あぅ……」


 これで残ったのはカトゥッロのみ。

 仲間や雇った者たちは全員死んでしまった。

 まさか限がここまで恐ろしい強さをしているとは思っていなかったため、カトゥッロは口をパクパクして呻くことしかできなくなっていた。

 完全に誤算だった。

 限を脅して財産を奪い返し、雇った者たちへ依頼した時の条件通りに資金を払って、少しでも気持ちをスッキリさせたかった。

 ただそれだけだったのだが、蓋を開けてみれば限によって全滅させられた。

 こんなDランク冒険者がいるなんて思わず、ちょっかいかけた自分たちが愚かだったとようやく理解したのだった。


「じゃあな!」


 目の前に立つ限が刀を振り上げて一言呟くと、次の瞬間にカトゥッロの意識はなくなった。


「さあ、行こうか?」


「はい!」


 大量殺害をしたばかりなのに、もう興味が失せたような反応をし、限はレラたちと共に南へ向けて歩き出したのだった。

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