第94話 影人

 ヴァージュとリアーナは小屋の方へ駆けて行き、俺は回復術を自分に使って何とか動ける状態に。


「残りHP半分まで回復か」

「集中力で度合いが変わるのじゃ」

「瀕死の状態で使うと効果が下がるって事か」

「そう言う事じゃ」


 どんな状態でも効果は同じだと思ってたわ。


「それにしても、よく何度も切断出来たの? 初めて会った頃からは想像もつかないのじゃ」

「んー、リアリティが無いって言うか、血が出なかったからさ」

「りありて……とは何じゃ?」

「現実感って言うか、現実味っていうか……」

「なるほどのう」


 そう、ずっと頭の中で駆け巡っていた違和感は、相手を傷付けても出血が無いって事だった。その所為か、腕やら首を斬り落としても怯まなかった様だ。勿論、罪悪感緩和のスキルが発動しているのが大前提だけど。


「居たよー!」


 二人は守衛小屋の奥から、ロープでグルグル巻きになった男を引き連れて戻ってきた。


「くそっ……」


 捕まった男は悪態をきながらヴァージュに引っ張られる。


「良く捕まえられたね?」

「まーねー!」


 ん、リアーナが震えてる?


「ヴァージュさんを敵にしてはいけない……ヴァージュさんを……」


 一体なにが? 取り敢えず、尋問タイムだ。


「で、アンタは魔術結社か?」

「ふん! 知らんわ!」

「へー?」


 ヴァージュが手甲鉤てっこうかぎの爪の部分を舐めながら聞き返す。


「わ、分かった! そうだよ!」


 相当、脅したのだろうか?


「他に仲間は?」

「……」

「ふーん……」


 再びヴァージュがニヤリと笑う。


「仲間は……」

「仲間は?」

「仲間は……ぶはぁっ!」


 男は血を吐き出し、動かなくなってしまった。


「どうした! しっかりしろ!」

「死んでいますわ……」

「え……なんで……?」


 何故死んだ? 混乱する中、声が聞こえてくる。


「だらしないねぇ」

「誰だ!?」


 直ぐに声の主の方を見ると、そこにはローブを纏った女性が立っていた。


「来なさい」


 女性がそう言うと、死んだ筈の男は灰になって崩れ落ちた。崩れ落ちた灰は女性の元に飛んでいき、女性は掌で灰を吸い込んでしまった。


「何だ?」

「吸収されたのじゃ」


 あ、魔術結社の奴らは、犠牲者を力に変えるんだったか……。


「転移者が二人か。今日のところは帰ってあげる」


 女性は光輝く石を掲げると、一瞬で跡形もなく消え去ってしまった。


「何者なんだ……」


 あの人、今日のところはって言ってたな。また来るって事だよな? 今はそれよりも助けなきゃ。


「レティシアとヴァージュは、俺と一緒に生存者の確認を!」

「分かりましたわ!」

「あーい!」

「リアーナは水の魔法とか使える?」

「あ……うん」


 歯切れが悪いな、どうしたんだろ?


「守衛小屋の燻っている火を消して貰えるかな?」

「分かったわ……」

「どしたの? 何か有った?」

「……ううん、何でも無い」


 倒れていた兵士の内、二人は亡くなっていた。残る兵士達は辛うじて生きてると言うだけで重傷の者ばかりだった。

 足の速いヴァージュに救護要請をお願いし、残った俺達は回復術やポーションで時間を繋いで救護を待った。

 その甲斐もあって、他の死人を出さずに事態を収拾する事が出来た。


「巡回警備殿!」


 一人の兵士……にしては立派な装備をしている人が近付いてきた。


「あなたは?」

「私は南の門守衛隊長のアショアと申します!」

「は、はぁ……」

「この度は仲間を助けていただ──」

「二人、死なせてしまったよ……」


 俺は間髪を容れずに事実を述べた。


「それは残念な事ですが、その他の兵士も貴殿らが居なければ殺されていたでしょう」

「そうかも知れないけど──」

「今日、私は非番でした。私が非番じゃなかったら、二人とも死ぬ事は無かったかも知れません」

「いや、それは……」

「そうです。もし・・とかこうだったら・・・・・・などは仮定や憶測です。しかし、貴殿らが他の兵士の命を救ったのは事実です。ですから、しっかりとお礼をさせていただきたいのです」


 そうか、この人の誠意は受け取らないと失礼になるんだな。


「分かったよ……」

「では改めて……助けていただき、誠に感謝申し上げます」

「いえ……こちらこそ」


 何がこちらこそ・・・・・か分からないけど答えてしまった。


「もうすぐ修理工と検査官が到着するので、後は我々で対処致します。貴殿らも巡回が有るかと思われるので、そちらを優先した方が……」

「そうだね……申し訳ないけど先に行かせて貰うよ」

「そうされるのが良いでしょう。検査官の聞き取りが発生した場合は、管理者から指示が有ると思われますので」

「分かった、ありがとう」


 南の守衛隊長と別れ、東の門を目指して歩き始めた。


「そういやヴァージュ、あの影術って何?」

「あー気流眼? アレは生命の繋がる糸を辿る事の出来るスキルだよー!」

「何か難しいな」

影人かげびとにしか使えないからねー」

「そもそも影人って?」

「んー……人だよ?」


 いや、それは分かるけど。


「元々影人とは、影術を習得した暗殺特化の集団ですわ」


 おー! レティシアは博識だな。しかも暗殺集団って忍者みたいだ。


「ん? 暗殺?」

「あたいは違うよ?」

「あくまで元々ですわ。昔は職業の様なものでしたが、その能力が遺伝する様になりましたの」

「能力が遺伝?」

「ええ。苦労して習得する筈の能力が、生まれながらに使える様に。それで職業が人種に変わると言う珍しいケースが発生したそうですわ」

「へぇ、そうなんだ」

「そーなんだー!?」


 ヴァージュも知らなかったのか。


「リアーナは知ってた?」

「……え、ウチ? 知らなかったよ」


 リアーナのやつ、さっきから何か変だなぁ。


「東の門に行く前に昼食にしようか?」


 全員賛同し、食事処を探す事になった。




 リアーナ、どうしたのかな?

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