第131話 文化

食事が終わってしばらく経つが、食事の乗っていた皿を見ながら、時折すげぇと呟いたりしている。


「あんな感動するものか?ただ料理しただけだろ」


「俺達にとっては当然のことも、彼らにとってはまるで違う」


今は修練ではなく休みの期間。

指導者側の二人は雑談を始めた。


「この国にはおおよそ料理と呼べる文化は存在しない。千年前、娯楽として残っていた酒を最後に完全に消えた。今あるのは果物を切るくらいなものだ」


でも確かトーストを食べたような…………まさか上に乗ってたあれってゲテモノ料理じゃなくて俺を殺そうとして毒乗せてたのか?

確かにそれ以降あんなヤバいの乗ってなかった、ってか何も乗ってないどころか焼かれてもなかったけど、あれは料理を知らないからか。


「魔術は想像を形にするが、出来るとさえ思ってないことはどう足掻いても出来ない。彼らにとって食べ物というのは完成した状態が始まり。俺達が言うところの食材という概念が存在しない。料理されたものが木に生ってるようなものだ。だが木に生ってるわけもないからだれも魔術で出すことが出来ない」


「あれ、でも確か弁当を作るとかって」


「既にあるものを箱に入れているだけだ」


けど、俺らの世界にある料理自体はうん千年前から存在していて日常的に食べていたと。

乃神の奴、随分と変な国を作ったもんだな。


「でも、誰かしら作ろした奴くらいいないのか?」


「いるはずない。万能たる魔術を持つからこそ本能的に理解できる。理解できないものは作ろうにも作れないことを」


「だからって」


「じゃあお前は、世界を創れるか?」


「…………意味がわからない」


料理と世界で規模が明らかに違う。

出来るわけない。

何を言ってるのか、まるで意味がわからない。


「料理が出てきて、その材料は?世界中を飛び回ってもお前は見つけられなかった。ならどこにあったのか。それは当然、乃神が無から生み出した、それも最初から料理された状態で」


この世界の住人にとって材料が何かなどわかるはずもない。

もしも材料を治すという行為で元の姿に戻すことが出来るのなら、その材料は単純に消えるだけ。

何を使っているかも、どうやって作っているかも、全てがなぞ。


「それでも出来るという確信があれば」


「そこまでいけばもう魔法だろ?」


「……………………」


得体のしれないものを作れると思える誰かなどいるはずがなかった。

この国は、魔術だけしか進歩しなかった国。

それ以外の全てを、国王である乃神がたった一人で補ってしまったから。


「無論、イリスだとかみたいな本当に世界を創るような出鱈目過ぎる連中もいるにはいる。けど、料理を知らないままに料理をするような天才は、残念ながら料理に興味がなかった」


「確かに。アルバが料理してる姿とか想像できないな」


雑談はこれで終わり。

皆の興奮もようやく少し落ち着いて来た。

ここから先は再び屋台で出す料理を作っていく。

一度あれだけの感動をした後、ここから先はあまり大きく時間を取らずとも次へ次へと進んでいけるだろう

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