第129話 食材
修練場に響き渡る打撃音。
トーカに不意を突いて攻撃したアルトがトーカに蹴り飛ばされた音だった。
そして二度目の打撃音。
クロイの拳が頭部に叩き付けられた。
「今はそういう時間じゃねぇ。わかったな」
「はい」
ため息を吐いて元の場所へ戻るクロイが足を止めて振り返る。
「お前いま攻撃の隙を窺ったろ。視線や気配でわかるからやるならそこも意識しろ、てかやるな。お前はさっさと料理しろ」
修練が出来ないのはもどかしいが、クロイがやる気にならないのではしたところで大きな成果は得られない。
それならばむしろ、戦闘以外に魔術を使うことで視野を広げより強くなろうと考え料理に取り掛かろうとした。
「それでトーカ、まず何から作ればいい?」
「砂糖塩、醬油や麹なんかも作らなきゃだ…………面倒な依頼してくれたな」
出した食材を眺めながらこの場で完成させる方法を頭を巡らせひねり出す。
施設も道具もないが、ここには魔術がある。
何もなかった時代に人々が何を以て作り上げてきたかまではよく知らないが、現代の方法であれば頭に入っていて、魔術を使えば同じことが出来るはず。
結論を出し指示を出そうと口を開いたその時、突如トーカは倒れた。
地面に広がる赤い血が、トーカの頭部に傷が出来たことを教える。
クロイだけが反応していた。
油断していたとはいえ、クロイでさえ対処が間に合わなかった攻撃。
ひらひらと一枚のメモが落ちてくる。
クロイはそれを手に取った。
《勝手なことをするな。食材の育て方と料理の方法を教えればそれでいい。麺も、調味料も、作り方は彼らが彼らの手で編み出すまではお前達が何かすることを俺は許さない》
「乃神の野郎どっかで見てやがんのか」
誰にも聞こえない呟き。
蘇ったトーカにメモを渡す。
「成程、今のは警告か」
懐から取り出した布を食材を覆うように掛ける。
ゆっくりと落ちていく布は、止まることなくそのまま地面に付いた。
「いちいち無駄なことするのが好きだよな」
「演出だよ。俺はマジシャンだからね」
「詐欺師が」
睨むクロイと笑うトーカ。
ただの会話から仲の悪さがにじみ出ている。
「あの、私たちは何をすれば」
「おいトーカさっさと食材出して作り方教えてやれ」
「お前が無駄に時間を掛けさせてるんだろう」
広げられた布を波打たせるように少し浮かせると、上からたたいて地面に降ろす。
すると布を通り抜けるようにして食材が出現した。
少し移動して地面に手を向けると地面が手の高さまでせり上がる。
せり上がった横に長い地面の側面を手で叩く、何かが突き抜けたかと思うと綺麗な机へと変貌した。
「後は教えながらだ。俺は俺の分の道具しか用意しないから、自分たちの分は自分たちで用意してくれ」
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