第112話 イフの成長
「次は私です」
立ち上がるイフを見てクロイはにやにやと笑う。
「何か秘策ありって面だな」
目を瞑りゆっくりと歩いていく。
澄み切った思考、熱い心、意識を集中し手を伸ばす。
「在りし日の記録・竜」
手を向けた先に光が集まっていき少しづつ形が出来ていく。
四肢が、羽が、頭が、それは紛れもないおとぎ話のドラゴンの姿であった。
「幻覚じゃねぇな。となると訂正しなきゃだな」
目を覚ましたアルトをちらりと見て目の前の竜に視線を戻す。
「一番先を行っているのはアルトだが、一番魔術師らしいのはイフだ」
知らないモノを作れるはずがない。
知らないということを補うか、知っている奴に作らせればいい。
存在したことを、そして魔術によって作りだせることを、完全に信じ切る事さえ出来れば、自身でその身体を作り上げてくれる。
「素晴らしいと思うぜ。ただ一つ問題がある」
空気を振るわせる咆哮をし、巨大な前足で潰そうとして来る竜を、クロイは天井へ殴り飛ばした。
「俺の方が強い。ま、異能は使わされたけどな」
生徒達は口をあんぐりと空けて唖然として天井から落ちてくる竜を見つめる。
あの巨体が空へと殴り飛ばされた。
何度もクロイの異能を見て、受けてきたから理解できる。
あのぶっ飛び方は引き寄せられたものではなく、殴り飛ばされたものだと。
「いい魔術だ。死なない、負けない、と信じられればお前の作りだしたモノは無敵となる」
落ちてきた竜の身体に触れると、竜の身体が小さく小さく圧し潰され、ボールのようになりクロイはそれを手に取った。
「ただし、どれだけ無敵だと信じ切れていたとしても負けることはある。そこから先は魔力との戦い。そして魂の質、意思の強さの戦いだ」
手に持つ竜を握りつぶす。
「そして、意思ではどうにもならない実力の差もまたある。だからまずは質を上げよう。そこの爺さんたち、どこか本の沢山あるところないか?」
リンの治療を終え皆の成長に感心しながら見学していたノアが答える。
「大きな図書館ならあるが、どんな本を求めている?」
「伝承、おとぎ話、英雄譚。あとはなんか伝説の生き物図鑑みたいのとか、何かそういう辞典とか。集めてきてもらえたりするか」
「読みに行くのではだめなのか?」
「読んですぐ忘れないうちに試せるほうがいい」
「了解した、持ってこよう」
ノアは巨大な扉を開き外へ出て行った。
クロイはただ茫然と見つめるだけだったイフに近付き肩に手を触れ眼を覗き込む。
心の底に語り掛けるように決定的な言葉を放った。
「これからお前が知ることになる空想、その全ては…………事実存在した世界の歴史だ」
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