第99話 アストロvsクロイ

第一回戦はアストロとクロイの対戦。

クロイとしては敵対したくなかったので、負けを重ねる役ではなく最初に敗北させる役だったことに安堵していた。

何も知らない観客たちも驚いた様子で闘技場を見おらしている。

第一学園側の選手たちが一度とて見たことのない選手であったから。


「まぁ、軽くやろうぜ」


「…………僕は軽くで済ませる気はない」


開始の合図と同時にアストロは電撃を放った。

電撃は圧し潰されかき消える。

そして次の瞬間、アストロの右腕が消失した。

ほんの一瞬、神眼でようやく見えたような気がする程の一瞬だけ、黒く丸い球体がそこに出現していた。


「実力差はわかってるな?あんま長くは相手できねぇ、盗むならちゃっちゃと盗め」


これは修練ではなく試合である。

あまりに手加減していると感じられれば、真剣に戦っていないと感じられればそこまで。

観客に不快感を与えない程度に教え導きながら戦わなければならない。

そして実力差故に時間を掛けられないという問題もあった。


「日・月・火・水・木・金・土」


長く相手できないなら、修練ではないために指摘することも出来ないなら、使うことを止められていた魔術を使うまで。

背後に出現する太陽と月と五芒星。


「魔術・宙」


空間が黒く染まる。

魔力が消失し、空気が消失し、重力が消失する。


「成程、やってみろ」


「開闢・闇」


黒く染まった空間の中でも一際黒いぽっかりと空いた穴。

光すら呑み込む無限の穴。


「周りに誰もいねぇからいいが、使うなって言ったろ」


クロイは開いた穴をさらに強い力で圧し潰した。


「星降る夜」


生命を根絶する滅びの流星。

宙の果てから無限の星が降り注ぐ。


「お前の護衛役として幾らか調べてはいたが……領域無しで出来るのか」


「領域に意味はない。僕はそれを知っている」


神と人の子。

アストロの記憶を、ノアは消しきれていなかった。


「そうかい。お前の成長を嬉しく思う」


降り注ぐ星が、空中で停止した。

そして内側にめり込むように潰れ、砕かれ、そして消えていった。


「……穿て」


地面が形を変え、飛び出した槍はクロイに近付くと潰された。


「貫け」


背後に迫る杭はクロイに迫ると潰された。


「撃ち抜け」


四方八方から飛来した矢は全て粉砕された。


「燃えろ」


炎は消え。


「爆ぜろ」


爆発はその威力を極小に抑えられる。


「魔術師としてお前は大きく成長したようだな。けれど、俺が学んでほしいのはそこじゃない」


「ふきと……」


クロイが指を動かすと、アストロの身体は勢いよく壁にめり込んだ。


「魔術ってのは意思だ、心だ、本能だ。でもなぁ、理屈立てて使わなきゃ、強くはなれねぇぞ」


瓦礫の中で少年は立ち上がる。

砂煙の中、眩い光が奔った。


「雷光」


闘技場内を雷が奔る。

縦横無尽に駆けまわる。

そしてその動きが、クロイに手を向けられた瞬間に止まった。


「今回はこれで終わりだ。これ以上は観客にもの投げつけられちまう」


クロイは遠距離から捉えたアストロの身体を自身の正面まで持ってくると、一気に引き寄せその身体を拳で貫いた。


「右腕治さねぇってことは、治療はあんま得意じゃねぇんだろ?大人しくそこでくたばりな」


地面に倒れるアストロから視線を外し立ち去ろうと歩き出したとき、背後の気配が動いた。


「今回はもう終わりだっての」


クロイは振り返ることなく、立ち上がったアストロの半身を消し去り葬り去った。

勝者はクロイ。

誰も彼もが驚愕した。

誰も知らなかった天才の襲来に。

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