第50話 vsトーカ

開始の合図が鳴り響き、爆炎の中に二人は飛び込む。

アーテルが放つ掌底を逸らすと首を狙い貫手を放つ。

首に少し触れるが、皮を切るにとどまった。

一撃ごとに攻守が入れ替わる体術戦。

観客席でも何が起こっているかを完璧に把握しているのは少数である。




そんな少数の内の一人は、身を乗り出すようにその戦いを見ていた。


なぜあんな動きが出来る。

肉体の強化は何もしてない。

何の変哲もない肉弾戦。

ただの、魔術も魔力も介在し無い肉弾戦だ。


「ルクス、この後付き合って」


「嫌……わかった。修練くらい付き合う。イージスも呼んどいてくれ障壁くらいは突破しなくちゃならなそうだ」


「あぁ、まかせてくれ。私たちもうかうかしていたら負けてしまう」


「さっきの見たか?俺の魔術をイフが模倣して、アーテルに負けてた。俺ホントに負けそうだ」


ひとりは真剣な表情で、ひとりは苦笑いを浮かべ、決勝戦を観戦する。




アーテルの連撃を防ぎ伸び切った腕を掴み引っ張るように投げる。

空中を舞うアーテルだが、そのまま姿勢を制御しトーカの腕を掴み返し着地と同時に壁へと投げ飛ばした。

身体を回転させ地面に着地するトーカは笑う。

地面を奔る雷に、ため息を吐く。


またか、もっといろいろと見たいんだが。


アーテルは地を蹴りトーカとの距離を詰める。

もう電撃は通用しないと告げるように身体を捻り攻撃を回避し腕を叩きつける。

後ろに軽く跳び回避するとトーカは魔術を止める。


「成程。確かにこういうのはつまらない。何せ皆見飽きているだろうから」


地上と空に巨大な陣が出現する。


「セット」


トーカの声で周りに幾つか剣が出現する。

剣はアーテルに向けて飛来するが、今までとは動きが違う。

速度に緩急をつけ、曲がったりもする。

そして何より、剣一つ一つに別々の魔術が刻印されており、剣を避けても魔術による攻撃が行われる。

感覚を研ぎ澄ませ視覚からの攻撃とその攻撃範囲を算出し避け続け、やがて出現した剣は消失した。

大きく息を吐いて顔を上げると、トーカの手に本が握られていることに気が付く。


「まさか、今のがギフトのグリモワールの力とでも言う気か?」


「……俺の弟は天才でなぁ、一度見ただけで出来るようになる。だが俺は天才じゃないから、二三度見なきゃならない。まぁ、そんだけ見れれば、グリモワール程度簡単に模倣できるがな」


格好だけで本はただの飾りと言いながら手で本を弄ぶトーカに狙いを定める。


模倣か。

どうやっていたか、一応は見たことがあるが。


何かの確認をするようにアーテルは足踏みのようなことをし始める。

力を込めたり、角度を変えたり。

そうしてついに、こうか、と呟くと同時姿を消す。

一瞬反応が遅れるが目の前に現れるアーテルにトーカは反応し拳を防ぐ。

だが、反応が遅れたのは事実であり、受け止めきれず吹き飛ばされる。

空を舞う本を手に取り、アーテルは笑う。


「いらないんだろう?なら、これは俺がつかう」


本を開き中から一振りの剣を取り出す。


「おいおい、そんな機能は無かったはずだが」


「中身を書き換えた。ようやく感覚が戻ってきたよ」


「成程。で、誰のグリモワールだ?」


トーカは立ち上がり周囲に剣を出現させていく。


「さてね。戦場で一度見たことがあるだけだ。名前までは知らない」


「……英雄譚といったところか。その本にあるだけの魔力だと、足りなくないか?」


「いいや足りるさ。何せ、俺が欲しがったのはお前が出現させる剣やら魔術やらを斬れるだけの耐久力を持った剣一つでいいんだから」


「それで術式の流用か。嫌になるなぁ、天才は」


「お前には言われたくないぞ、詐欺師」


アーテルの言葉に、トーカは腹を抱えて笑う。


「詐欺師、詐欺師か。俺の本質を見抜くか、その神眼は」


トーカの偽りの顔から、眼が覗く。


「であるなら、こちらもそれなりの対応をしよう。これが……俺という人間だ」


天を覆う雲が晴れ、晴れた天から一振りの刀が降りてくる。


「我は神を宿す者にして、神に愛されし者の子」


刀を握り、眼を見開く。


「天之尾羽張」


おいおい、なんてもん出してきやがる。

あれと打ち合うとか普通に無理だろ。


「あぁ、ったく。耐えろよ俺の身体」


右足からアルバとなった部分を経由して身体中に魔力が巡る。

視覚化されるほどに濃密な魔力が周囲を漂う。

身体の内側から避けるようにして血を流しながら、尚も魔力の出力を上げていく。


「寄越せよッ‼」


空間を叩きひびを入れると、その中から武器を取り出した。




「おい、何をしてる」


王は隣に座る少年に話しかける。


「いやぁ、まさか僕からケラウノスを奪うとはね」


ゼウスは驚きながらも笑っていた。


「油断するからそうなる」


「油断なんてしてない。抵抗しなかっただけだ。彼が神の武具にさえ手を延ばし届かせたのは完全な実力だ」


「あれをどう説明するか」


神々の武具を取り出す生徒に王は頭を抱える。


「知らない。僕は子供たちと遊びたいだけだから」


舌打ちをして睨む王にゼウスは心底楽しそうに笑い返した。




備えあれば憂いなしだな。


大量の血を流し立つのもやっとなアーテルは胸に手をやる。

すると身体の傷が徐々に治っていく。


さっき使った治癒魔術の残骸を確保しておいてよかった。

もう魔術は使えないが、傷は治って戦える。

神器も手に入れてトーカとも打ち合える。

場合によっては神眼も全力で発動させる。

でなきゃ、あぁなった現人神には勝てない。


「さて……久しぶりの神殺しだ」

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