第4話 はい! 友だち!

「へ?」


 自分はどんな顔をしているだろう。あまりにも驚き、ほぼ同時に理解した瞬間に、込み上げた嬉しさが、顔の筋肉を無意識に弛めてしまう。


「いつもね、マリーちゃんはシホちゃんはかわいいなあ、お友だちになりたいなあ、て言ってる!」

「へ?」


 シホはなぜか恐る恐るマリーの方を見た。自分にとっては、憧れの女性である。同年代だとしても、あまりにも美しい女性。そのマリーが、わたしをかわいい、と言い、友だちになりたいと言っている? そんなことがあるはずかない。だいたい、自分とは釣り合わない。あまりにも住む世界が違う女性だと思っていた。その女性が、マリーが、自分のことをかわいい、と話していて、友だちになりたいと言っている? そんなことがあるわけが……

 何度も堂々巡りの否定を繰り返しながら見たマリーは、ケイカに向かって両手を前に突き出し、シホと同じく膝を折って座った姿勢から上半身だけを乗り出して、手を振っていた。その顔は、真っ赤になっていて、どうにかケイカの言葉を止めようとしている風に見えた。赤面しているのは、恥ずかしくて仕方がないからか。え?


「け、ケイちゃん!」

「なんでえ、マリーちゃんも、シホちゃんと遊びたい、って話してたじゃん!」


 元気な幼女はそんなマリーの様子はお構いなしで立ち上がると、マリーに飛び付いた。


「一緒に遊んだから、もう友だちだよ!」


 無邪気な幼女に、マリーの困った顔がシホに向いた。シホもどう言っていいものか、迷いに迷った。考えに考えた。だが、結局何も出てこなかった。なので、正直に行くことにした。


「あ、あのう……そのう……わたし、ずっと、マリーさんのことが、素敵だなあ、て思っていて……もし、その、ケイちゃんさんがおっしゃる通りということであればですね、あのう、マリーさんと、そのう……」


 あまりにも正直に行き過ぎて、言葉が出てこない。これではまるで、ちょっと様子の不審な人だ、とシホが思い直した時だった。


「マリア、と言います。」


 マリーがそう言った。赤らめた顔は、まだ俯いたままだったが、その言葉はしっかりと、シホに向けられているとわかった。


「マリア……」

「はい、えっとね、わ、わたしも前からシホさんのことが……」

「はい! 友だち!」


 マリーに抱きついていたケイカが立ち上がり、シホとマリーの間にあいた隙間に座り込むと、両方の肩を抱いてくっついた。近づいたマリーの顔と、ケイカの顔。とてもいい香りがした。

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