悪の投資・経済・金融学と愉快な仲間たち

紅蝶

第1幕 コロナ暴落と愉快な投資家たち

第1話 暴落と懲りない人々01

「日経平均は、3万円を突破する!」


・・・2017年-2018年に、目を開けたまま寝言をほざく、証券と良心を売るビジネスをやっている某おっさんのセリフである。

夢を見るのはベッドの中だけにしていただきたいものだが、不幸なことにこのセリフが飛び出した時は、日本は絶好の好景気(だといわれていた)。


株価も上々で、まるで太陽に焼かれるイカロスのごとく、ぐんぐん上昇を続けていた。

まぁ、ギリシャ神話を引き合いに出すまでもなく、「上がったものはいつか落ちる」という当たり前の原則があるわけだが、なぜだか相場の強気派の耳と頭にはおめでたいことに、届かないようであった。


そんな、好景気相場真っ只中のお話し。


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「社長ー。株価って、いくらまであがるんですかねぇ?」

運用・財務アドバイザーなんて仕事をしていると、こんなセリフは朝の挨拶と同じようなノリと頻度で聞くことになる。


「いやぁ、何度も言ってますが・・・具体的な価格は私の口から言えないし、そもそもわかるなら、アドバイザーなんてやってないですよ。」

個人的には凄く当たり前のことを言っているつもりなのだが、こういう質問をする方は誠に残念ながら、納得しないのが世の常である。


「そーなんでしょうけどね・・・僕としては、もっと儲けたいんですよ」


「分かりますが・・・むしろ、上がったもんは下がるというのが常ですし、そろそろ頭打ちっぽいんで、現金化して別の方向にシフトしたらどうですか?」


「いやぁ、でも、○○証券の社長は、日経平均3万円いくっていってるし・・・」


「そりゃあ、彼らは株を売りつけるのが仕事ですから。上がるとしかいうわけないですよ」


「うぅん・・・でもなぁ・・・」


これである。

アドバイザーをやってると、「相談」には2種類あることがおぼろげながら見えてくる。一つ目は純粋な「相談」。これは、まぁ、いい。


問題なのはこのように、「相談という体を取ってるが、その実自分が求めてる答えがほしいだけ」の場合。こうなるともう、手に追えない。


「そもそも・・・もう十分儲けてますし、リーマンショックの時もそれで大損したんでしょ?そろそろ、手を引いたらどうですか?」


「いや!今回はあの時と違うんです!」

何が違うんだ??


「僕はですねぇ、社長!今回の相場で、1億円儲けると決めてるんです!」

決めてるって何?ハーブかなんか、キメてるんですか??


「・・・まぁ。最終判断はまかせますが、私・・・というか弊社は、止めたってのは覚えておいてくださいね」


ちなみにこういうケースの場合、数カ月して問題が表面化したとき、大体が「聞いていない」という愉快な答えが返ってくるので、記録のためにメールなどの文章を残す形で記録しておくようにしている。

耳が悪いのか頭が悪いのかは理解しかねるが、粘土かなんかが詰まっている可能性があるので、ドリルかなんかでぶち抜くことをおすすめする。


性善説でこのあたり、つまりは「自分で言ったこととアドバイザーの忠告を無視したことを、まさか記憶の彼方に忘却するボケはいないだろう」と信じた結果、何度か痛い目にあったことがある。人間、いたければ覚えるのだ。



仮にこの方を、「スズキさん」としよう。

一人だけだとヒューマンドラマにならないので、次はFXをやっている「カトウさん」にご登場いただこうと思う。

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