第26話 勝つか逃げるか
その後、嘉武の思ったとおりの人物が姿を表した。真紅の瞳、スラリとした長い黒髪の少女。齢も嘉武より下だろうか。まだ周囲も明るく、よく顔が見える。
「やっぱり、こんな事するのは君か。随分待ったよ。ローダルヘインも不思議なくらいに穏やかだったしね」
「待たせた、か。まぁいいよ、ここであれば誰にも聞かれることはないだろう。さぁ、君の知っている事を話してもらおう」
「で、無ければ証拠も何もない僕のタレコミをするって?」
「仕方ないが、やれることはやるよ。君が悪事をしていなくても、僕は君のやり方が気に食わない」
未知の力に対抗すべく、嘉武は様々な術式をこの空間に仕込んである。最悪の場合のことを考え、逃げ場を幾つも作っている。何より、レベルもステータスも三日前よりも上がっている。
勝つための不安要素が嫌いな嘉武はヘタレなりに、寝る間を惜しんでレベリングに励んでいた。
「こんな所、要らなかったのに」そう言ってヨルは黒い魔力を解き放つ。暴風が空間を支配し圧倒する。
「自分の死に場所を自分で作っただけだね」
「大丈夫、僕は死ぬくらいなら全力で逃げるから」
堂々と言い放つ嘉武にヨルは、「何だそれ」と苦笑。
「でも、勝つまで君を止めに来る」
「なら、君は、殺さなくちゃいけなくなるね」
ヨルは広角を上げて言った。嘉武を吸い込んだ真紅の瞳は一切歪むことは無い。
それでも嘉武は鼻で笑う。
「あいにく僕には輝かしい未来に、楽しいオリエンテーションがてんこ盛りなんだ。こんなところじゃ死なないよ」
「あぁ、もしかして外様ルーキー?それなら、あまり出しゃばらないほうが良いよ。君が思っていたよりもこのグランディアは歪んでる。こうして君が邪魔している間にも他の学生達が魔の手に引き込まれているかもしれないからね」
ヨルはニタニタとしながら嘉武を牽制する。
「それなら、尚更その口、割らせてやる」
嘉武は魔剣にフレアを付与して斬りかかる。一太刀目は浴びせる事無く一気に切り返す。ヨルが高く飛翔した瞬間に術式を発動し、背から衝撃を繰り出す。
ヨルもまた体中から爆発を起こし瞬時に相殺した。
「何か、めんどくさいね君」
ヨルは尖った瞳で嘉武を睨む。話している余地はない。嘉武は続けざまにブレイズを放ち、逃げ場を無くす。だが、燃え盛る火炎をヨルが吸収した。一切効いた様子はない。グランディア学園Sクラスの生徒であればそのくらい当然。嘉武は動じる事無く続ける。
「アルジェルバースト!」
高火力技を繰り出す嘉武。他の術式を開放し、同時に空から炎剣が降り注ぐ。四方八方、完全に塞ぎ込んだ渾身の一撃。尋常ではない爆発を起こし、隔離した空間はすでに崩れかけている。
「これが君の本気?」
ヨルは平然と立っている。その足元だけが無傷だった。
(魔法は通用しない。僕のスピードは彼女程ではないだろうが、まだ残っている術式を上手く使えれば・・・)
嘉武は思考し、ヨル目掛けて飛び出す。そして、目の前から放たれる攻撃を全て切り裂く。
(まだ、見える・・・。でも、悠長な事はしていられない)
嘉武はヨルの意表を突く。
「んなっ!?」
ドゥン!!ドゥン!!
嘉武が急加速する。自分の背後から二度もエアボムを爆破し、変則的な軌道で文字通り飛びかかっていく。しかもその威力は最大。背中は爛れ、自分の体力を失いながらもこれに賭けていた。嘉武は意識をしっかりと持ち、全集中する。
ヨルが守りに入ろうとしたところで足場に仕込んでいた術式が起爆。咄嗟に飛んだ所を嘉武は壁を蹴って追う。
「自殺でもする気か!?」
ヨルは下から迫る嘉武目掛けて最大の力を放つ。
「ストームスフィア!!ブラック・フューズゥ!!」
ドロッとした粘着性の高圧縮の獄炎。それは近くに居る者全てが焼け爛れそうな超高温。
ストームスフィアのせいで手を出せばその手は切り裂かれるのだろう。
嘉武は前後に手を翳して解き放つ。
「ダブルインパクト!」
ドゥオオオン!!
目の前のブラックフューズをストームスフィアの力を利用して吹き飛ばし、背後の威力の方を前方よりも高く出力することで、眼前は開けた。そして、嘉武は一気に迫ってヨルへと手をのばす。
「捕まえたぁ!!」
嘉武はヨルの脚を掴み、全力で握って離さない。
ヨルは暴れ、フレアドライブを発動し嘉武を必死に踏み潰す。めちゃくちゃに足蹴りをされる嘉武。勝利を確信して笑みが溢れる。目の前には女性下着。嘉武は笑ったことを即、後悔した。
(こんなの、変態みたいじゃないか・・・!?)
「離せよっ!クソぉっ!」
「そうはいくかっ!!」
そして、戦いは嘉武の一言で幕を下ろした。
「ドレインッ!!」
ーーーボロボロの嘉武と骨抜きにされたヨル。
「ご、ごめんなひゃ、ゆるしてぇっ」
勢い余ってドレインを連発したお陰でヨルはもう腰が砕けて臀部をヒクヒクさせることしか出来ない。
目は涙を浮かべ、嘉武に許しを懇願する。
「なら、いい加減話してくれ。君は何が目的で彼らに接触していたのか」
「そんなの、あなたに関係ないでしょぅ」
「ドレイン」
「ひゃあああっ・・・!」
こんなやり取りが続くこと数十回。嘉武はもう、わざとなんじゃないかと思えてくる。
「言いたくないなら方法は幾らでもある・・・。この手だけは使いたくなかったんだけどな」
嘉武は満面の童帝スマイルでヨルの身体を舐めまわすように見やった。
(ヤバいってこの顔、ヤられる・・・っっ!!)
ゾクゾクとした悪寒に晒されたヨルは叫ぶ。
「わかったっ!わかったってぇ・・・!!」
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