第30話
私とロイドは久しぶりに敬語も使わず、本音で語り合うことができた。
ロイドには妖精からセネット家の子供だと言われてから、これまでのことを全部話した。
どれほど貴族としての教育が厳しかったかとか、庶民の家族のことが今でも気になっていることとか、あと初めて本当の母親に会ったときに抱きしめられたことが嬉しかったことなど話が尽きることはなかった。
ほとんど私ばかりが話していたような気がする。ロイドのことも聞きたかったけど時間が足りなかった。
そう本題はこれからどうするかだった。
ロイドは全てを聞いた後、腕を組んで考え込んでしまった。
そして息を吐きだすと鋭い目で私を見た。
「アネット、僕と暮らす勇気は本当にあるの?」
「勇気? そんなものいらないわ。私はずっと一緒に歩きたいって思ってるもの」
「本当に大丈夫? 今みたいな生活はできないよ。服だって一年に何着買えることかわからない。そんな生活になると思う」
ふふふ、ロイドはわかっていないのね。私は元庶民よ。服が何着も買える今の生活の方が無駄遣いをしているようで罪悪感を感じていたのよね。
「私は一着で十分よ。それだって自分で仕立ててもいいわ。お母さん譲りの私の腕を見せてあげるわ」
庶民の時の母親は裁縫上手だった。それを見て育った私も裁縫の腕だけは自信がある。
「そうだった。今の君を見ていると忘れそうになるけど、庶民だったな。じゃあその心配はないのか」
「他にも何かあるの?」
まさか有名な嫁姑問題? うっ、ロイドの母親に認めてもらえるかしら。庶民として育ったってだけで敬遠されたらどうしよう。
「何かって、一番の問題は君の家族だろう? 君はエドと婚約しているし、僕との結婚なんて許してもらえるとは思えないよ」
「う~ん。多分だけど兄さまが何とかしてくれると思うのわ。もしダメだったら駆け落ちしてもいいじゃない」
「それは駄目だ。君は長いこと両親と離れ離れになっていたんだし、けんか別れは一番してはいけないことだ」
「それに……」
私は駆け落ちもいいかなとか思ってたけど、冷静なロイドに却下された。私の家族のことまで考えてくれるロイドには頭が下がる思いだ。
「それに?」
「貴族同士のつながりもあるから、駆け落ちなんかしたら今決まっている就職は駄目になると思うよ」
そうだった。私の家は侯爵家。ロイドの就職先は伯爵家だった。駆け落ちは却下だ。それではアオだけを喜ばすことになってしまう。あの妖精はトラブルが大好きだから私が駆け落ちなんかしたらきっと大喜びしてしまう。
「ロイドは今の就職先で本当にいいの? 王都で働きたいとは思わないの?」
「初めは君とエドモンド様の婚約を聞いて、近くで幸せな二人を見ていられないなって思って王都から離れた場所で就職できないかって探していたんだけど、あの領地は空気が美味しくて領民も親切な人ばかりで気に入っているよ」
「そう、じゃあ私も行くのが楽しみよ」
結局私の両親を説得できる内容が決まらないまま時間が過ぎて行ってしまった。
それでもまた会う約束ができたから良しとしよう。
あとは兄さまとエドに相談ね。二人ならきっと良い案を見つけてくれるわ。
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