第27話

 兄というのは何でも知っているものなのだろうか。

 ロイドのことは隠していたつもりだったのに。

 ん?まさか両親にもロイドの存在がばれている?

 私は慌てて立ち上がる。ロイドが危ない。私が勝手に片思いしているだけなのにロイドの迷惑をかけては申し訳なさすぎる。



「両親は何も知らないから、座りなさい」



 兄の言葉にホッとして椅子に座りなおす。


「兄さまはどうしてロイドのことを知っているの?」


 ロイドのことはエドにしか話したことがない。いくら兄とエドが一緒に事業をしているとはいえ、彼が私を裏切るとは思えない。


「アネットがどういう風に育ったのかは、君がこの家に来た時に調べていた。だがロイドという若者のことはあまり書かれていなかった」


 やっぱり私が庶民として暮らしていた時のことは調査されていたようだ。父親に嫌われていたことも知っていたということか。


「それなら何故?」

「君が学院を抜け出して森に行ったときのことを覚えているかい?」

「ええ、兄さまが迎えに来てくれたわ」

「君には警護するものをつけているからね。すぐに知らせてくれたが行くまでに少々時間がかかってしまった。ロイド君は気づかなかったようだがその間も君を守るものはいた」


 何故あの時兄が迎えにこれたのか深く考えたことがなかったけど、警護のものが付けられていたのね。


「ロイドが気づかなかったってどういう意味? ロイドはあのとき一緒にはいなかったわ」


 ロイドとあの森に行ったのは庶民と暮らしている時だけだ。あの森で薬草採取をしたり、魔法を学んだりしたことは忘れられない思い出だ。


「彼は君が学院を抜け出したときから尾行していたそうだ。害がなさそうだったからそっとしておいたと聞いている。ロイド君は私が来るまでの間、君のそばを離れなかったようだ」


 ロイドが私を尾行していた? 心配していたということ? それならどうして声をかけてくれなかったの?


「ロイドは何故私を尾行なんてしたのかしら」

「それは彼に聞くことだ。彼にしか答えられない」

「そうね。そうするわ」

「そういうわけで彼のことを調べた。アネットはロイドのために貴族になりたかったのかい?」

「それも理由の一つではあるわ。庶民の家族を捨てるにはそれだけでは足りないもの。本当の家族に会いたいと思ったし、庶民の家族を守りたかった。それにお金の苦労をしない生活に憧れていたのかもしれないわ」


 私の本心だった。ロイドのためだけではなく、色々な理由があった。でなければ長年暮らしてきた家族を捨てたりなんかできない。


「ロイド君は学院を卒業したら王都を離れるそうだ」

「え? それってどういうこと?」


 ロイドが王都からいなくなる? そんな未来は考えていなかった。


「ロイド君と話をしたければ、学院にいる今しかないということだよ」




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