第20話
どんなに悲しことがあろうとも日は登り、日は沈む。
世界は変わらない。
私も毎日学院に登校し、授業を受けている。学院では不自然なほどロイドの姿を目にすることはなかった。
そう私は自分でもおかしいほど影響を受けていなかった。
私を見に来たアオなんて『つまんないの』と言ってがっかりしていたほどだ。きっと私が泣き暮らすとでも思っていたのだろう。
悲しいというより気が抜けた感じだ。
貴族の令嬢として恥ずかしくないようにと学院に通うまでにマナーを学びダンスを習いと忙しい毎日を過ごしていた。学院に通いだしてからも庶民として暮らしていたことは皆に知られていて注目されていることはわかっていたので、いつも緊張を強いられていた。それでも頑張れたのはロイドと一緒に過ごせると思っていたから。放課後には図書館でデート?とかできるといいなとか勝手に思っていた。
一人で浮かれて馬鹿みたいだ。
ロイドは一度だって好きだって言ってくれたことはない。私が勝手に両思いだと思っていただけ。私が庶民だからロイドは躊躇しているだけだと思っていた。私を命がけで助けてくれたから勘違いしたのだ。
ロイドは誰にでも優しい人なのに、私に向けられる優しさを特別だと感じるなんて馬鹿だった。
昼休み。いつもと同じように窓から外を眺めていた。
まだ友達はいない。疎まれているわけではない。いじめられることもない。クラスメートとは普通に会話もしているけど、友達だと言える人はいない。
「良い天気だなぁ……」
その時私の頭の中に浮かんだのは薬草の森だった。『癒しの魔法』が発現するまでは毎日のように通っていた。暮らしていくために必死に薬草を採取していた場所。あの場所を懐かしく思うなんて笑えて来る。
でもあの場所はロイドに魔法を習った場所でもある。
彼は庶民である私に何の得にもならないのに魔法を教えてくれた。本当に良い人だった。
今私の目の前には薬草が沢山ある。
なんてことかしら。いつの間にか薬草の森に来ていた。
学院を抜け出したことさえ記憶にない。
でも久しぶりの森は私を優しく包み込んでくれる。
「空気が美味しいわ」
学院に戻らなければいけないことはわかっていたけど、力が抜けて座り込む。
少しくらい、いいわよね。
ううん。本当はいますぐ学院に戻ったほうが良いことはわかっていたけど、体が動かなかった。
だってこんなに気持が良いんだもの。
そしていつの間にか眠っていた。
「アネット、帰ろう」
横には兄が立っていた。どうしてこの場所が分かったのか私は聞かなかった。
兄も何も尋ねてこない。
私は兄の手を借りて立ち上がると一緒に歩き出した。
これがロイドだったら良かったのにと勝手にも思っていた。
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