第10話
私から取り上げた半分のクレープを食べ終えると兄は、
「あの妖精には気を付けなさい。小さいからと侮っていると痛い目にあうよ」
と真剣な顔で忠告してきた。
「侮ってなどいません。少し用事を頼んだだけです。それに対価は支払ってます」
対価といってもクレープを一個買っただけだけどね。
「対価? アネットはお金を持っているのか?」
しまった! お金を少しばかり持っていることは内緒にしていたのに。まさか取り上げたりしないわよね。
「ほんの少しだけです」
「そうか。学院に通いだしたんだ。お小遣いについても考えなければと思っていたところだ」
どうやらお小遣いというものがもらえるらしい。うちの家は貧乏だったからお小遣いなんてもらったことがなかった。自分で稼ぐしかなかった庶民とは違い、貴族は働くなくてもお金を得ることができる。とはいえ、そのお金は元をただせば領民たちから徴収した年貢というものからくるらしい。このあたりのことは家庭教師から習った。でも簡単にだったので、詳しいことはわからない。
そんなことより今はお金の使い道だ。たいていのものは揃えてもらっているので自分で買う必要はない。
またアオに頼んでクレープを買ってきてもらおう。この家の料理は美味しいけど、マナーとか気にして食べるからどうも食べた気がしないんだよね。その点クレープはかぶりつくことができて、久しぶりに食べたぁって感じた。
兄に渡されたお小遣いは貴族の娘としては平均的な額らしいけど、私からすれば大金だった。この額がひと月分だなんてどうなっているの? これだけあれば私たち家族が何か月暮らしていくことができるかしら……って、そうだった。もうそんなこと気にしなくてもいいんだった。以前の家族の心配はアンナがしている。私には関係のないことだ。そう割り切ろうとしてもやっぱり気になる。マルやフリッツやアニーの顔が浮かんでくる。弟妹達はお腹いっぱい食べれているかしら。お肉なんてここに来るまであまり食べれなかった。マルたちにも食べさせてあげたい。
はぁ。思いっきりため息だ出た。
「どうした? 額が少ないのか?」
「へ? まさか。そんなことありませんよ。ちょっと庶民と貴族の違いにため息が出ただけです」
「そうか。まあ、足りなくなったらいつでも言ってくれ」
いや、だから足りないってことはないって。まあ、いいか。いつか弟妹達に会ったときに渡せるように貯金でもしよっと。そのお金でお腹いっぱい食べてもらうんだ。
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