初デート ハードモード
1日が経ってしまい、悠は現在最寄り駅にいる。
「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!」
千夏に動揺を見せないよう悠は自己暗示をかけ続ける。
(人生初デートは相手の家で更に、相手の親が初恋相手で夫もいるとか俺の青春ラブコメハード過ぎじゃないですかね!?)
心の中で自分の人生のハードさに嘆く。
「お待たせ。」
耳心地が良い声。
悠は振り返ると茅根千夏が立っていた。
「ぜ、ぜぜゼ、ゼンゼンマッテナイヨ?」
「……? もしかして緊張してる?」
「シ、シテナイヨ?」
動揺を隠し切れたない悠を見て、千夏はため息をする。
「………そう。それじゃ行きましょう。」
「ソ、ソ、ソウダナ。」
悠はロボットのようにカクカクとした動きで駅に入る。
(もし、千夏ちゃんの家族に会ったら俺は冷静を保ってられるのか!?)
冷や汗をかく。
そうして電車に乗り込み、千夏の最寄りまで向かう。
最寄り駅に着き、駅から降りる。
電車の中では一言も喋れないほど緊張していた悠だが、今はだいぶ落ち着きを取り戻し、なんとか千夏と喋れるようにはなってきた。
だが、
「こ、こ、ここが千夏の家……」
千夏の家の前に着いた途端、緊張が先程よりも強まってしまった。
「さ、入って入って。」
「う、うん。」
ガクガク震えながらも玄関に足を踏み入れる。
「あら、いらっしゃい!」
そう言って出迎えて来てくれたのは悠の初恋相手の鶴山春–––現在は茅根春だ。
「お、おじゃまします。」
「おぉ!いらっしゃい。」
悠が靴を脱ぐと同時やって来たのは優しそうな中年の男だった。
(こ、この人が鶴山の夫か?なんか冴えないな。)
家族で出迎えられ、緊張しながらも廊下を渡る。
「さ、座って。」
先に千夏が座り、隣の席を指差し、座るように促す。
悠はそれに従い座ると正面には茅根春。そしてその夫が座っていた。
「あらためて、千夏の父の拓です。」
「私は母の春です。」
「あっ–––––」
「ん?どうしたの?」
「あ、何でもないです。」
春の名前を聞いた途端。悠の時が止まった気がした。だが、すぐに春の声により正気に戻ったのだが。
(自分の中で断定していたものの、本人から口にされると来るものがあるな……)
「話は聞いてるよ。千夏の偽の恋人関係をやってくれてるだってね?」
「あ、はい。すいません。」
緊張のせいか、自然と謝罪が出てしまう。
その様子を見て拓は「いやいや」と手を振り、
「むしろ感謝してるよ。千夏を助けてくれてありがとう。」
「………ん?」
思っていた反応とは違い、悠は呆然とする。
(恋人のふりをしてたから怒られると思ってたけど感謝されるとは思わなかったな。)
「千夏のそばにいてくれてありがとう。」
「お父さん………」
千夏は恥ずかしそうに父を呼ぶ。
「いえ、こっちも千夏さんと一緒にいると楽しいですし気にしてませんよ。」
(気にしてないのは嘘だけど楽しいのは嘘じゃない。言いたいけど言えない……!)
「––––れな。」
「えっ?」
拓は何かを呟くが悠には聞こえず、自然に問い返してしまう。
「それな!」
「ん!?」
突然の拓の大声に悠は驚き、千夏と春太は呆れる。
「ほんとわかる!千夏と一緒にいて楽しいよねー!可愛いし、明るくて!それりゃ楽しいよ!」
「……お父さん、娘達の事になるとすぐこうなるから気にしないで。」
春は暴走する夫を落ち着かせながら説明する。
(…………親バカなんだな。この人……。)
悠は苦笑しながら拓を見つめる。
そうしてようやく落ち着いたのか、拓はすぅと一息つくと、
「せっかく来てもらったんだし、昼食でも食べていってくれ。」
「……お言葉に甘えてそうさせてもらいます。」
春は相槌をうつと台所へ向かう。
「あっ。」
「ん?どうしたの?悠君。」
「い、いや、何でもないよ。」
(春が飯を作ってくれるのか!!まじか!前世でなし得なかった事を2周目の人生で叶うとは!)
不思議そうに見る千夏に誤魔化すように微笑むが心の底ではガッツポーズを取っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます